幕間 ―???編 終わりの記憶―
神様候補の人がいなくなった後、自分は言われたとおり、コボルトを狩って、狩って、狩りまくったッス。
最初に『成形』したオウルベアは、自分が思っていたよりもすげえ働いてくれたッス。
自分のいる部屋に次々と運ばれるコボルト。死体がリアルでキモいッスけど、『吸収』しないといけないから、仕方無いッスね。
初めは『吸収』って、どうやるのか分からなかったけど、『吸収』って念じるだけでできたし、楽勝ッス。
骨が残るのもキモいッスけど、それは適当に捨てて来てもらえば、オッケーッス。
この調子で、どんどん行くッスよ。
そう思っていたんスけど……。
……
おかしいな……。
コボルトは弱いって聞いていたのに、上手くいったのは最初だけッス。
切り札のオウルベアまでやられるなんて話が違うし……。
大量のゴブリンで一網打尽にしようとした時も失敗したし、どうなってるッスかね?
もっと強い駒を『創造』したいけど、力が足りなくなってきたッス。
最近じゃ、力を節約しながら『成形』してるから能力が低いみたいだし、このままじゃマズイッス……。
駒からの報告にあった、コボルトが密集している場所に攻撃するしかない。
逆転のチャンスに賭けて、一気に『成形』してやるッス!
……
…………
ヤバいヤバいヤバい……。
コボルトを襲わせた駒の反応が消えたッス。
なんで? 一遍に消えるなんてありえないッスよ……。
しかも、変な気配が近付いてくるッス。
コボルト……じゃないッスね。
ただ、こいつは危険な感じがするのは分かるッス。
ここに来させたらマズイ、それだけは、はっきりしてるッス。
クソー……こっちに来るなよ。何で邪魔するかな……。
ちょっと……いや、大分ムカついてきたッス。
こいつ、絶対に許さんッス……!
こうなったら、ありったけの力で駒を『成形』してやるッス。
こいつを仕留めれば、多少は回復できるかもしれない。
それからやり直すしかなさそうッス。
次はもっと慎重に……。
……
こいつ、何なんスか!?
気配と一緒に部屋に入ってきたのは、どう見てもコボルトッス……!
しかも、変なスライムみたいな奴と、でかいブラッドウルフを引き連れて来るとか、どうなってるんスか!?
外の駒もやられたし、全部こいつの仕業ッスか!
あー……。クソッ! クソッ! クソッ!
最後の最後だ! こいつで勝負してやるッス!
「犬精人、出るッス!」
自分が今、『成形』できる最高の駒――クーシーッス。
こいつは、そんじょそこらの奴とは格が違うッスよ!
「やるッス! クーシー! 狙うのは、あのコボルトッス!」
自分の命令に従って、クーシーはコボルトに突っ込んで行くッス。
目障りなあいつから始末、その後にスライムとブラッドウルフを始末してしまえば良いッス。
予想どおり、こいつらの攻撃はクーシーには効かないみたいッスからね。
……
…………
嘘だろ……!?
何だよ! 何で、クーシーが負けるんだ!?
畜生……。折角、転生できたのに……。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……!
「嫌だ!!!!」
――パリィィィン……!
ぐ、がああああああ! 何、だ!? 何か……弾けた!?
まさか……これが、切り札!?
ぐうううう……!
熱い! 熱い! 熱い!
見えない! 苦しい! 助けて……!!
体が、体が、体が……崩れる……!
体……よこせ!
お前のカラダ……ヨコセ!
ヨコセェェェェ!!
「ガルァ!!」
ピシッ……!
!? イタイ! イタイ! イタイ! イタイ!
「――ナンデ、ジャマスル!!!?」
「うるせえ! 喧嘩売ったのはてめえだろうが!」
ヤメロ! ヤメロ! ヤメロ! ヤメロ!
「――ヤメロォォォ!!!!」
「ガァァァ!!!」
――パキィィーーン!!
……
…………
ここ、何処ッスか……? 真っ白で、きれいな場所ッスね。
今度こそ、あの世ってやつッスかね……?
一度の人生で二度死ぬって……ハハッ、ウケるッス。
それもこれも全部、あいつが悪いッス。
いきなり来て、全部ぶち壊したあいつ……って、いつの間に自分、死んだんスかね? 何かが自分の中で弾けて……そこから、何にも思い出せないッス。
まあ、どうでも良いッス。
さっさと成仏して、来世に期待するッスかね。
(なあ、お前、魔窟だろ?)
「うおお! な、何なんスか!」
急に声が聞こえたッス!
……声? 違うッス。何と言うか……テレパシー? 頭の中に声が響いてくるッス。
でも、この気配はあいつッス! 姿は見えないけど、忘れる訳無いッスよ!
あいつも死んだッスか? ざまぁッス!
(お前はどうやって生まれて来たんだ?)
「はあ? 意味が分からんッス! 死んでるくせに何を言ってるんスかね!?」
(生まれた意味、分かるのか?)
「自分の声、聞こえて無いッスか? 聞こえてても、教える気は無いッスけどね!」
(何で、そんなに怒ってるんだ?)
「馬鹿か、あんた! 人を殺しておいて、よくそんなこと言えるッスね!!」
(俺がお前を破壊したからか? それを言うなら。お前は多くのコボルトを犠牲にしたんだぞ?)
「そ、それが、何だって言うんスか! コボルトは魔人ッス! 悪を退治して何が悪いッスか!?」
(コボルトにも人生があった。犠牲者の中には幼い子供もいたんだ)
「こ、子供……? そりゃ子供もいるッスよ。動物なんだから……」
動物? あの神様候補の人は、コボルトを魔人って言ってたッス。
こいつは、コボルトに人生があるって言ってるッスけど、どういうことッスか?
〈マスターの記憶を貴方に反映させます〉
えっ? 何スか今の――
――!!!!
これは……頭に映像が流れて来る! こいつの……記憶ッスか!?
コボルトと暮らしている……何だよ、これ……。これじゃあ、人間と変わらないじゃないか!
どこが、卑怯なんだよ! 何も悪いことしてない……!
それに、この光景……。
頭に浮かぶ光景は、押し寄せてくるゴブリンと必死に戦う姿、オウルベアに破壊された住処、それに大量のモンスターがコボルトに襲いかかる場面。
大きいコボルトが小さいコボルトの盾になってる場面もある……。
これは……全部、自分がやったこと……?
(お前は、もしかして、命の重みが分かるのか?)
「これ……嘘ッスよね? こんなことがある訳が……」
(コボルトは弱い存在なんだ。それでも、一生懸命生きていた。命を繋ぐ姿は、間違いなく『人』なんだ。まあ、お前に『人』って言っても、分からんかもしれんがな)
「『人』……自分は『人』のはずなのに……」
(分かるのか? だったら……。いや、お前は俺と違って、コボルト達と接する機会が無かったんだろうな。お前がもし、違う運命を辿っていたら、俺と逆の立場になっていたかもな)
「何で、こうなったんスかね……。ハハ……自分も『人』でいたかったッス……」
こいつ……いや、この人の言葉は全部、本当のことなのが分かるッス。
さっきの光景も全部、本物。間違い無いッス。
ただの勘だけど、嘘じゃないって断言できるッスよ。
じゃあ、あの神様候補の人が嘘付いてたってことッスか?
……それでも、自分がやったことなんスよね。それも間違い無いことッス。
(お前、もしかして転生してきた……とか? ハハ……まさかな)
「えっ!? 何で分かったッスか!?」
(……そうなのか? 実は俺もなんだよ。俺もお前も『ダンジョン』に転生したみたいだな。転生自体、ラノベや漫画ぐらいなのに、ダンジョンって何だよ! って感じだよな)
「マジっすか……あんたも転生した人なんスか?」
どういうことッスか? 偶然なんスか? そんなことがあるんスか?
しかも、ダンジョンって……意味が分からんッス!
さっき、この人はコボルトだった気がしたッスけど……。
まさか、この人も神様候補の人に転生させてもらったんスか?
体があるのは、そのおかげ?
(こんな出会いじゃなかったら、もしかしたら友達になれたかもしれなかったんだ。お前を殺してしまった俺が言えた義理じゃないかもしれないけど……来世では幸せになってくれ)
この人……どんだけ、お人好しなんスか。
自分、あんたの敵だったんスよ。
そんなこと言うなんて……ズルいッス。
でも――
「自分、あんたのおかげで『人』に戻れた気がするッス。自分の声、聞こえてないかもしれないッスけど、本当に……ありがとうございました!」
……
何だか心が軽くなっていく気がするッス。天に昇るって、これのことッスかね?
こんな気分、生きてる間に感じたことが無い、不思議な感覚。このまま消えるなら、全部受け入れるッス。
心残りが無いと言えば、嘘になるッスけどね。
「あーあ……自分、散々、酷いことしたのに誰にも謝ってないッス。それに……できることなら、この人と一緒に転生ライフを楽しみたかったッス」
〈貴方は、マスターと共に歩むことを願うのですか?〉
さっきの声の人ッスか?
こうして聞いてみると、随分きれいな声ッスね。
マスター……さっきの人のことッスね。
もし、許されるなら――
「願うッス! あの人といれば、『人』でいられる気がするッスから……!」
〈分かりました。貴方の願いを叶えましょう〉
えっ? 本当に良いんスか!?
「ちょ、ちょっと待ってくれッス! 貴方は誰なんスか!? もしかして、本物の――」
〈貴方の歩む道に、幸多からんことを……〉
……
残念ながら、あの声が誰か、聞くことができなかったッス。次の瞬間には、自分、青白い光に包まれていたんで。
でも……あの声の正体が誰でも良いッス。
自分の願いは、今まさに叶えられようとしているから……。