幕間 ―???編 始まりの記憶―
うわー……絶対、死んだッスわ。
自分で倒れたのが分かったし。
部活の最中に死ぬとか、無いわー……。
でも、死んだらこんな風になんのかな?
周りは真っ暗で何にも見えないし、何も聞こえない。
天からお迎えが来るかと思ってたけど、何にも起きないな。
……。
あれ? もしかして、俺って成仏できてないとか?
えー……自分、別にこの世に未練なんて無いのに……。
地縛霊とか勘弁だし、こんな所にずっといるなんて無理だって!
誰かー!! いませんかー!!
……。
どうしよ……?
マジでこのまま……?
「やあ、困ってるみたいだね」
うわっ! 誰かいた!?
「ごめんごめん、驚かせたみたいだね」
えっと……姿は見えないけど、側にいるッスか?
「うん、厳密に言うと、側にいるわけじゃないけど」
どゆこと? 自分、どうなってるッスか?
死んだッスよね? あなたはお迎えッスか?
「まあまあ、落ち着いて。君の質問には答えてあげるから」
……
そッスか。やっぱり、自分、死んでたんスね……。
「残念だけど、そうなるね」
あーあ、まだまだ青春を謳歌したかったんだけどなー……。
「フフ……君は死んだことが悲しくないのかい?」
まあ、ショックと言えばショックッスよ?
でも、生きてて特別楽しいってわけでもなかったし、自分ってモブ中のモブだったから、この先も良いことあるように思えなかったんスよ。
「モブ……?」
あっ、モブっていうのは脇役のことで、スポットライトが当たらないような人……みたいなもんッスかね。
「そうなのかい? 僕には君がそんな風に見えないけどね」
いやいや、自分みたいな奴はどこにでもいますよ。
取り立てて才能があるわけでもない。顔だって、中の……下? 自分で言ってて悲しくなるぐらいのモブッスよ。
「ふーん……才能か。君には才能があると思うよ」
あったとしても、死んでたら意味無いじゃないスか。
これから、あの世って所に行くわけッスよね?
「フフ……君が望むなら、してみないかい?」
何をッスか?
「転生……だよ」
えっ!? 転生ってあの!?
「知ってるんだね。そう、君の考えているとおりの転生だよ。君には才能があるんだ。ここにいることが証拠だよ。才能が無い者はここに来ることができない。君は見事に来た。つまり、才能があるってことだよ」
うおおお……マジか!
するッスよ! 転生!
まさか、自分が転生できるなんて夢みたいッス!
「それは良かった。転生の前に説明しておかないといけないよね。もう気付いてるかもしれないけど、君には体が無い。君は駒を使って力を蓄える必要があるんだ」
えっと……体が無いっていうのは?
「分かりやすく言うと、この球が君の本体になるんだ」
えっ? いきなり目の前に球が現れたッス。
しかも、謎の台座付きッス。
自分がコレって、どういうことッスか?
「君は特殊な状況で転生することになったから、まだ体が用意できてないんだ。申し訳ないね」
そんなことないッス! 転生するチャンスをくれたでけでもありがたいッスよ!
「そう言ってくれると僕も助かるよ。じゃあ、この球に触れてくれるかな? それが転生の始まりになるんだ」
お安い御用ッス! ……って、手が無いッスけど、触れるんスかね?
「フフ……君がそう望めば、触れることができるよ」
ウ、ウス……やってみるッス。
こう……触ってみる感じッスか。
自分的には、思いっきり触りまくってるつもりッス。できてるッスか?
「うん、上手くいったよ。これで君は転生者だ。おめでとう」
全然、実感無いけど……成功なんスね?
でも、これから何したら良いッスか?
自分、一生ここから動けないとかじゃないッスよね?
「勿論、君の体は用意する。君の望む姿でね。それまでにやってもらいたいことがあるんだ。そのために、君に力をあげよう。『成形』と『吸収』、取って置きの力だ。君ならすぐに使いこなせるよ」
すっげえ! あれか? スキルってやつッスか?
ラノベみたいッス!
「それじゃあ早速、力の使い方を理解してもらおうかな」
望むところッス!
「まずは『成形』だ。これは、君の代わりに働く駒を生み出す能力だよ。やってごらん」
やってって……どうやるッスか?
「じゃあ、これが見えるかな? 君の『成形』できる駒をリストにしてあげたよ」
おお! これか! 見えるッス!
この中から選べば良いんスね?
「そう、素晴らしいね。飲み込みが早いよ」
そっスか? ヘへ……。
取りあえず、こいつにしてみます。
「なるほど、オウルベアか。こいつはパワータイプだけど知能も高い。きっと君の力になれるはずだよ。じゃあ、早速、念じてごらん。オウルベアを『成形』、それだけで良い」
よーし……オウルベアを『成形』!
……。
……んお? 何か黒い塊が出てきた?
「――フゥオオ!」
暗くてよく見えないけど、黒い輪郭は見えるッス。
シルエットからすると……熊?
この黒い熊みたいなのがオウルベアッスか?
「そうだよ。しかもこいつは特殊個体、いきなりで特殊個体を出すなんて、やっぱり君には才能があるんだよ」
そッスか……! 自分の才能って、もしかして転生して真価を発揮するとか?
生きてる間に開花しないわけッスね。
「そして次は『吸収』だ。君は力を蓄える必要がある。そのために『吸収』があるんだ」
『吸収』……。何を『吸収』すれば良いんスか?
「敵だよ。君がいる場所は様々な魔人が蔓延る森なんだ。君は魔人を倒して力に変える。蓄えた力で、より強い駒を生み出して、凶悪な魔人を倒して欲しいんだ」
魔人……何だか、悪の手先っぽいッスね。
「そう。魔人は世界を闇に包むために活動しているんだ。僕はそれを阻止しないといけない。そのために君の力を貸してもらいたいんだ」
うおお……テンプレ展開、キター!
それじゃあ、貴方は神様ッスか?
「いや、僕は神様じゃない。候補ってとこかな? 君と一緒に全ての魔人を倒した時、僕は神様になれるかもしれないね」
分かったッス! 俺が必ず貴方を神様にしますよ!
「ありがとう。でも道は険しいよ。まずは森の北にいるコボルトを退治してくれないか? 奴らは弱いくせに、姑息で卑怯な連中なんだ。圧倒的な力を持つ君なら、必ず奴らを殲滅できるさ」
コボルトって、ゲームで言うところの雑魚ッスね。
最初の相手に相応しいってところッス。
「体が無い君は、ここで駒の報告を待つことしかできないけど、やれるよね?」
敵地に派遣して報告を待つ。
放置系のゲームみたいなもんッス。
『成形』と『吸収』を繰り返すだけ。楽勝ッスよ!
「そうだ、最後に切り札をあげるよ。君に危険が迫った時、これが君を助けてくれるはずだから」
何から何まで、ありがとうッス!
「フフ……期待してるよ。君がコボルトを始末する頃には、君の体も用意できてると思う。それまで、暫しのお別れだね」
絶対に、期待に答えてみせるッス!