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第48話 魔窟

 

 穴の奥から吹き抜ける風に逆らい、俺達は進んだ。


 外から見た光景に相応しく、穴の中も自然に出来た風穴のようだ。

 若干の下りの傾斜、岩が剥き出しの通路が奥へと続いている。

 自然でない部分と言えば、魔獣が通りやすくしたのか、壁や天井の突起を力任せに叩き折った痕が点在していた。そのおかげで、キバの巨体であってもすんなりと通ることができている。


 さらに、不自然な部分がもう一つ、俺には分からないがノアが教えてくれた。


「ここは外に比べると魔素の濃度が異様に高いです」


 キバにも分かるようだ。ノアの言葉に頷いている。やはり俺だけが感じていない。

 逆に、奥から放たれている敵意を俺だけが感じているのも不思議な話だ。


 どんな奴が元凶なのかは知らないが、会わなければならない。

 話の通じる奴なら、話をしようと思う。

 しかし、ここまで敵意を出してる奴が、話を聞いてくれるとは思えないが……。


 暫く穴を進むと、少し広くなった場所に出た。


 とは言っても部屋のようなものではない、幅が大きくなった通路のようなものだ。

 広い以外に、特には代わり映えのしない景色が続いていた。

 その景色の隅、剥き出しの岩肌の隙間から、何かが蠢いている。


「これって、スライムか?」


 岩の亀裂や地面の窪みから、液体とも個体ともつかない物体が這い出してきた。



種族:不定形・粘性、スライム

生命力:15 筋力:12 体力:17 魔力:16 知性:6 敏捷:12 器用:13 

スキル:物理耐性、痛覚無効



 弱いな。これが野生のスライムなのか。

 見た目も、ノアやコノアのような饅頭型ではなく、動く粘液だ。

 何というか……汚い。

 単細胞生物のような動きで、知性の欠片も感じられない。

 それでも、俺達を捕食しようとしてるのか、蠢きながら近付いてくる。

 別に数も多いわけではない。俺とノアが適当に吹っ飛ばしてやった。


「何だ、これ?」


 スライムの相手をして気が付いたのだが、足下に何かが散らばっている。

 俺は落ちていたものを拾って見てみると――


「うおっ! 骨じゃねーか!」


 俺の手に取ったものは何かの骨とみられる物体、動物の腕か足の部分のような細長い骨だ。

 ビックリして落としたけど、不自然なほどに骨がきれいなせいで現実味が薄い。犬にあげる骨みたいにツルッとしている。


 同じような骨は、そこかしこに落ちている。

 細い骨だけじゃなく、小さい骨、頭蓋骨のような骨もあるようだ。

 相当な量の骨がばら蒔かれているということは、それだけ多くの生物が何かの餌食になったということだ。

 これが何の骨か……想像が付く。


 骨はここに集積されているようだ。奥への道には骨が見当たらない。

 そして、奥から感じる強い気配。


「二人とも、気を引き締めろ」

「はい!」

「御意!」


(事が済んだら供養するから、待っていてくれ)


 骨の主に心の中で告げ、俺達は奥の道へ進む。

 道は短く、すぐに最奥とみられる部屋へと辿り着いた。


 不自然な程にきれいな円形の広い部屋。中央には台座のようなものが鎮座している。

 目に付くのは台座の上だ。黒紫に怪しく光る球体が安置されていた。


 ……似ている。

 俺の(コア)ルームとそっくりだ。


 確かに、違いもある。

 (コア)ルームにあった部屋一面の幾何学模様が、ここには無い。

 それに、台座の上に置いてある物体も違っている。

 俺の(コア)が青白いのに対して、こいつは黒紫だ。

 大きさも小さい、テニスボールぐらいか?



名称:なし

種族:不定形、ダンジョン

(コア)耐久力:1000

スキル:成形、吸収



 マジかよ……こいつも俺と同じダンジョンだったのか。

 耐久力やスキルを見る限り、能力は俺の方が上みたいだが……。


「――!!」


 強い敵意と共に、(コア)の前に黒紫の光が集まっていく。

 この異常事態に、ノアとキバが身構えた。

 俺の盾になるかのように、前に身を乗り出している。


 黒紫の光は次第に形を変えて、生物の形になっていく。



種族:魔人・獣人、犬精人(クーシー)

称号:特殊個体(ユニーク)

生命力:231 筋力:227 体力:242 魔力:210 知性:127 敏捷:281 器用:306

スキル:夜目、方向感覚、魔力感知、魔力耐性、状態異常耐性、痛覚無効

ユニークスキル:見切り



 クーシー……?

 見た目はコボルトそっくりだ。

 コボルトよりも筋肉質で野性的だが、コボルトの特徴である犬の顔を持つ獣人が現れた。

 能力値は、コボルトとは比べ物にならない。

 何も身に付けていないが、こいつなら素手でオウルベアも殴り殺せるだろう。


 どうやら、こいつの標的は俺に絞られているらしい。

 赤く光る凶悪な瞳は、俺を捉えて離さない。


「――!!」


 (コア)の敵意を合図にして、クーシーが動いた。

 狙いは俺、真っ直ぐ突っ込んでくる。

 予備動作無しで駆け出すクーシーに、俺は反応が遅れてしまった。


 だが、ノアとキバは既に動いている。


「ハッ!」


 ノアは牽制で魔力の弾を放つ。

 クーシーは、僅かに頭をずらしただけで弾を躱した。

 ノアに合わせてキバが飛び掛かる。

 狙いは首だ。鋭い牙で、一気に勝負に出たようだ。


「――ぬぅ!?」


 なんと! スライディングで、キバの下を潜るとは!

 攻撃を躱しながらも、クーシーの目は俺に向いている。

 だが、俺も悠長に見ていたわけではない。


「アクアバレット!」


 スライディングの体勢からは回避できるわけがない。

 アクアバレットはクーシーの腹に命中した。

 一瞬、怯んだかに見えたが……。


「……フン」


 クーシーは、「それが何か?」と言わんばかりに、俺を鼻で笑っている。

 その仕草に腹が立つが、俺のアクアバレットのダメージは皆無らしいことは事実だ。


 クーシーは素早く立ち上がると、俺とノア、そしてキバが見える位置まで距離を空けた。

 さっきのアクアバレットはダメージが無くても、動きを止められただけでも意味はあったのかもしれない。体勢を整えるために、一旦、離れたようだ。


(こいつは『見切り』を持っている。多分、視界の中での攻撃は避けられるぞ!)


 今の攻防で分かったことを『思念波』で伝える。

 これが俺の強みだからな。


 キバは『見切り』を警戒してか、攻め倦ねている様子だ。

 クーシーは耐性が多いせいで、俺とノアでは有効打は少ない。キバの一撃が重要になるだろう。

 ここは俺とノアで隙を作らないと!


(ノア、こいつは『魔力耐性』と『状態異常耐性』も持っている。俺達の攻撃は効果が低い。キバの援護に回るぞ!)


 ノアがプルンと震えた。返事ってことで良いのか?


 クーシーはこっちの動きを探っているのか、動こうとしない。

 『見切り』を使ってのカウンターに切り換えたのかもしれない。

 この隙に、何か策を練らないと!


 俺のスキルで視界の外から攻撃する方法……思い付かん。

 ノアにも無いだろうな。

 動きを止める、一瞬でも拘束できれば……。


 俺が思案を巡らせていることがバレたのか、クーシーが動き出した。


 クソッ! 俺ばっか狙いやがって! 俺はそんなにヘイトが高いのかよ!


 一気に距離を詰めてくるクーシーに対して、俺は有効な攻撃は無い。

 とは言え、抵抗する手段はある。


「くらえ!」


 咄嗟に、口から『麻痺燐粉』を撒き散らしてやった。

 俺の予想外の動きに驚いたようだ。クーシーは再び距離を空ける。

 その瞬間をキバとノアは逃がさない。


 「ハァッ!」

 「もらった!」

 「――グゥッ!」


 ノアの牽制の後にキバが続く。

 キバも大振りの攻撃は止めて爪で削る作戦に出たようだ。クーシーの背中から少量ではあるが、出血が見える。

 傷そのものは浅いようだが、ダメージを与えられたのは大きい。

 天秤がこっちに傾いたことを察してか、クーシーの顔から余裕が消えている。


 俺が意表を突く……イケるかもしれない!

 クーシーは流石に警戒を強めているが、今度はこっちから攻める!


「こいつはどうだ!」


 俺は小さな瓶をクーシーに向かって投げつけた。

 瓶は、たった今『創造』したばかりの小さな瓶を二つ。

 別にクーシーに当てるためじゃない。


「ストーンバレット!」


 アクアバレットだと効果が弱まる可能性があったので、『土魔術』に切り換えていた。

 その効果とは――


「グゥオオ!?」


 クーシーは突然眩い光に包まれて、動きが完全に止まっている。


「キバ!」

「御意!」


 目が眩んでいるクーシーに、キバが飛び掛かった。

 見えなければ『見切り』ようも無いようだ。回避する素振りも無く、クーシーはキバの接近を許している。

 キバの爪が、容赦無く振り抜かれた。


 ゴトン……!


 広い部屋の中で、クーシーの頭と地面がぶつかる音が響いた。

 クーシーの胴体は頭を失って、仰け反るように倒れている。

 瞬く間に、赤い血溜りが広がっていく。


「マスター、今のは?」

「ああ、あれは夜光草と魔含草を使ったんだ。夜光草だけなら弱い光だけど、魔含草が混ざれば強い光になる。知らない奴は驚くだろうな」


 二つの瓶は、夜光草と魔含草の汁を別の瓶に『創造』したものだ。

 俺はダンジョンで、それらを混ぜ合わせた瓶を、魔光瓶と名付けて照明に使っていた。

 今回は別々の状態の物を空中で混ぜるために、ストーンバレットで撃ち抜いたのだ。

 アクアバレットだと薄まる可能性があった。

 実際、今はクーシーの血で光は弱まっている。


 ともかく、これで邪魔物は片付いた。

 後はあれをどうするか、だな。


 台座の上の(コア)は、いまだ怪しい光を湛えている。



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