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第46話 コボルトの長老

 

 マックスが扉を開けると、その先には六畳程の広さの部屋があった。


 そこには側近と見られる武装した二人のコボルト、その二人に守られるように部屋の中央で横たわっているコボルトの女性がいた。この女性が長老だろう。


 長老の側にはルークとコノアの姿もある。その様子から、長老の怪我の手当をしていたようだ。


「長老、この方がマスター様、私の主です」


 マックスが俺のことを主と紹介しているが、否定できる空気じゃないな。

 いい加減、腹を括るとするか。


「マックスの紹介のとおり、俺はマスター。魔獣に襲われたコボルトを集め、新たな集落を作っている者です」


 俺の言葉を訝しんでか、側近の二人は俺に疑いの目を向けているようだ。


「二人共、無礼な真似は止しなさい。マックスが仕えている方なのです。その言葉は真実なのでしょう」


 どうやら、長老は俺を信じてくれるらしい。

 傷付いた体を起こして、俺に礼儀を尽くそうとしているようだ。


「そのままで結構です、無理なさらずに。俺の言葉を信じてもらえるだけで、十分ですから」

「信じますとも。貴方は『女神の加護』に守られているのです。女神様の使徒を信じないわけがありませんよ」


『女神の加護』だって?

 確かに俺には、『女神の加護』があるけど……。


「どうして、俺に『女神の加護』があることが分かるんですか?」

「大集落の長老は代々――」

「長老! それは言うべきでは……!」


 側近の一人が長老の言葉を遮った。

 その様子からすると、かなり重大な秘密ということが分かる。


「長老、秘密にしておくべきなら俺もこれ以上は聞きません。さっきの質問は忘れてください」

「いいえ、女神様の使徒に隠し事はあってはなりません。是非とも聞いていただきます。ゾーイ、アビィ、良いですね?」

「……ハッ」


 長老は優しくも威厳のある声で側近を説き伏せた。

 二人は不服という表情が滲み出ているが、長老は気にする様子も無く話を続けている。


「失礼しました。私達、大集落の長老は代々受け継ぐものがあるのです」


 そう言うと、長老は右手を差し出した。

 長老の細い腕には革でできた腕輪が巻かれている。

 精巧な作りでありながら、重ねた年月が色合いを変化させ、芸術品のように趣を感じさせる腕輪だ。

 デザインがナナの作ってくれた腕輪に似ているが、装飾に宝石のような物が使われている。


「この腕輪こそが長老の証。これを身に付けることで、本来持ち得ないスキルを使うことができるようになります」

「それは……『鑑定』ですか?」


 俺の答えが意外だったのか、長老は驚いた顔をしている。

 それと同時に、どこか嬉しそうでもある。


「流石ですね。貴方の言うとおり、『鑑定』を使うことができるようになります。他にも、『石弾』を使うことができるようになるのです」


 『石弾』……そんなスキルもあるんだな。

 しかし、『鑑定』できるなら、俺の正体もバレてるんじゃないのか?


「長老には俺がコボルトじゃないこと、分かったんじゃないですか?」

「いいえ、貴方は『鑑定』を妨害するスキルを持っているのではないのですか? はっきりと見えないのです。『女神の加護』だけは見えましたよ」


 『鑑定』を妨害……あっ、剣に『付与』してたな。


「マックス、これを持っててくれ」


 剣を手放しただけで、『鑑定妨害』の効果が無くなるか分からんが……。


「長老、これでどうですか?」

「ああ……やはり貴方はコボルトのことを……!」


 ん? コボルトのことを? もしかして『狗頭人(コボルト)の守護者』のことか?


「私にとって、貴方の種族は問題ではありません。貴方がコボルトを庇護してくださる以上、コボルトは貴方に忠誠を誓います」


 はい? いきなり忠誠って、飛躍しすぎて意味分からん!

 側近の人も、ぽかーんて顔してるぞ!


「マスター様、長老の言うとおり、コボルトを導いてください。改めて、お願い申し上げます!」


 マックスは深々と頭を下げている。いつの間にか、ルークもひれ伏している。

 側近は状況が飲み込めず、二人して口を開けたまま固まっている。

 俺は俺で、この状況に困惑しているわけなのだが……。


 どういうことか、段々と規模が大きくなっている。

 気が付いたら、コボルト全部が仲間になる勢いだ。


「マスター様、あの時の言葉は偽りでしたか?」

「あの時?」

「ええ、マスター様は我々の前で言いました。『一緒に生きたい奴は面倒見てやる』と、宣言されてましたよ」


 あー……あれを今、言うか。

 もしかして、これ込みの仕込みだったのか? ……まさかな。

 とはいえ、言ってしまったものは仕方ない!


「分かったよ! 何人でも世話してやるから、俺に任せろ!」

「おお……ありがたい御言葉……感謝します」


 長老が感激しているところ悪いけど、コボルトの忠誠を受け取りに来たわけじゃないんだ。

 本題に入ってもらわないと。


「長老、話が大分逸れたけど、今後のことを検討しないといけないんだ」

「ええ、そうでしたね。外の魔獣はマスター様が対処してくださったと聞いております、後は火事が収まるまで待たなければなりません」


 そうか、俺が火を消したことは知らないのか。

 ここに来る直前まで消火作業してたしな。


「火は消したよ。俺とコテツ、あと仲間のルズで大集落の火事は消しておいた」

「オ、オイラは旦那を手伝っただけニャ! 大したことしてないニャ!」

「それでも、コテツには助けられた。俺と合流するまで、火を起こした元凶を退治してくれてたんだろ?」

「むぐ……」


 返す言葉が見つからないのか、コテツは口を噤んだ。

 胸を張って良いはずなんだけどな。


「コテツさん、貴方が責任を感じることはありません。貴方は何年も前からコボルトに救いの手を差し伸べてくれました。貴方を責める者はおりません」

「長老……逃げて悪かったニャ……」


 マックスもコテツを知っていた。

 コテツとコボルトの間に何があったのかは知らないが、長老の言うとおりだろう。

 それに、コテツのおかげで俺達は大集落の窮地を知れたんだ。

 どうして、コテツがここまで悔やんでいるのか不思議なくらいだ。


「ともかく、外は安全だ。被害の確認もしないといけないだろうし、動ける者には動いてもらいたい。……犠牲者のこともあるしな」


 俺が見ただけでも、かなりの数のコボルトが魔獣の餌食になっていた。

 俺はそんな犠牲者達を野晒しにすることは我慢できない。


 俺の気持ちを察してくれたのか、マックスとルークは強く頷いている。


「マスター様、私が指揮を執りましょう。大集落の者には今暫く休んでもらい、我々だけで行動したいのですが、よろしいですか?」

「長老はそれでも良いか? 俺はマックスに任せて問題無いと思ってる。行動するなら早い方が良いしな」

「ええ、皆様にお願いします。恥ずかしながら、私も今は動けない身です。マックスには苦労を掛けますが、よしなにお願いしますね」

「はい、長老も御自愛ください」


 そう言うと、マックスは俺に一礼してから部屋を出ていった。

 外のことはマックスに任せて、俺は長老に聞きたいことがある。


「長老、今回のような魔獣の襲撃は何度もあるものなのか?」

「いいえ、初めてです。先代からも聞いたことがありません。過去にあったとしたら、コボルトは既に絶滅していることでしょう」


 長老の言葉に、側近もルークも動揺している。信じられないといった様子だ。

 だけど、俺は長老の言葉は真実だと思う。


 大集落を襲った魔獣の編成があまりにも不自然だからだ。

 それこそ、何者かの命令でコボルトを根絶やしにするつもりがあったとしか思えない。


 様々な種族の魔獣、生息地が異なる魔獣もいた。

 それが、集団となってコボルトを襲う……。


 以前、マックスが俺に言った言葉を思い出す。


 『魔窟』……魔獣が溢れだす場所。

 マックスが言うには、俺と魔窟は似ているらしい。

 詳しいことは分からないが……確かに似ているのかもしれない。


「長老は魔窟について何か知っているか?」

「魔窟……私も伝承でしか聞いたことはありません。魔素に満たされた場所が魔窟となり、魔獣の巣窟と化す。魔窟に取り込まれると魔獣にされてしまう。そう聞いております」


 魔窟に取り込まれると魔獣にされる、か。

 俺の中で答えは出たな。犯人の正体も、狙いも。


 だとすると、ゆっくりしている場合じゃないな。

 時間を与えれば、向こうの体勢が整う可能性もある。

 出鼻を挫いた今が反撃のチャンスかもしれない!


「長老、多分これは魔窟が絡んでる。俺は今から魔窟を探す」

「魔窟を? マスター様は何か心当たりがあるのですね?」

「ああ、今は詳しく話せないが、無事に終わったら説明するよ。だから、長老は安心しててくれ。これは俺が決着を付けるから」


 そう、これは俺が決着を付けないといけない。

 何故かは分からない、けど俺の使命だと感じている。

 それに、仲間(コボルト)に手を出したんだ。使命だ何だを抜きにしても、落とし前を付けさせてやる!



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