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第43話 大集落へ 夜の騒動

 

 グラティアを出発してから、何度目の休憩だろうか。辺りは日が落ち始めている。

 ルークが言うには、そろそろ川沿いから進路を変えないといけないらしい。

 時間もちょうど良いので、今日のところは川の側で一夜を過ごすことにした。


「あと、どれぐらいで着きそうだ?」


 俺は川原の石に腰掛け、ルークに尋ねた。

 ルークも同じく、すぐ側の石に腰掛けている。


「明日には着きます。すぐそこまで来ていますから」


 やっぱりか。キバとルズは速度を落とすこと無く疾走していたからな。

 もしかしたら、ちょっとしたバイクよりも速いかもしれない。


 ルズは一日走って流石に疲れたんだろう、動きに精彩を欠いている。

 キバは流石にタフだ。顔色一つ変えていない。俺がキバを見ると、褒めてと言わんばかりに尻尾を振っている。

 何かルズの方が賢く見えるのは気のせい……じゃないな。


 しかし、この移動方法は正解だった。

 二週間の道程が二日、無理すれば一日で行けるのだ。他のコウガにも名付けをして、頑張ってもらおうかな。


 俺は疲れているルズの首もとを撫でながら考えていた。ルズも気持ち良いのか、目を細めている。

 ルズの毛並みはさらさらで気持ち良いから、俺もずっとこうしていたい。

 キバが恨めしそうに俺を見ている気もするが無視だ。

 あいつ、俺に盛大な赤っ恥掻かせたんだからな。


「マスター様、子供達から聞きました。子供達を救ってくださって、ありがとうございました」


 ルークが真剣な眼差しで俺に礼を言ってきた。

 子供達……ルークが言ってるのは、ベルさんに預けた子供達のことだな。


「いや、礼を言うならベルさんに言ってくれ。俺はベルさんの所へ連れて行っただけだ」

「それでも、マスター様があの子達を救ってくれたことに変わりはありません。僕にはあの子達を、本当の意味で救うことができませんでしたから……」


 ルークも分かっていたようだ、子供達が必要としているものを。


「僕も幼い時に両親を亡くしました。だから、僕はあの子達を見捨てることができませんでした。まるで、昔の自分を見ている気になるんです。僕は幸い、同じ集落にいた叔父に拾われましたが、あの子達は誰にも頼ることができないまま集落を追われてしまった。新しい土地でも、何かに怯えていたのは分かっていたんですが、僕にはどうすることもできなかったんです」


 ルークは同じ境遇だからこそ、どうすれば救えるか分かってたんだろう。

 自分が救われた方法でしか救えないことも。


「お前、帰ったらベルさんにお礼言いに行けよ? お前の弟達なんだからな」

「えっ? 弟達?」

「ああ、お前が兄貴になってやれば、あの子達も安心できるだろ? こんな兄弟思いの兄貴ができたら、きっと喜んでくれると思うぞ」

「は、はい! そうですね、分かりました!」


 ルークが親になれなくても、兄弟になることはできると思う。

 これだけ、他人を思いやれるんだ。きっと、上手くいく。


 ルークの顔には、今までになく希望が満ちていた。


 ……


 俺達は川原で食事を取ることにした。

 今回はコノアを連れてきているので、食糧を携帯する必要は無い。

 とは言え、焼けた肉を出してもらって、コノアが火傷したりしたら大変だ。

 生の材料を現地で焼くことにした。

 意外なことに、ルークは火を起こすのが上手い。弓きり式の火起こしで、あっと言う間に火を起こしてくれた。


「じゃあ、どんどん焼こうか。キバとルズは交代で見張り頼むな」

「ハッ! では私が、見張りに立ちましょう」


 ルズが率先して見張りに就いてくれた。

 キバの方が確かに強いだろうけど、こういうところは見習って欲しいかも。


 まあ、あんまりキバを苛めても可哀想だから、ゆっくり教えていくことにしよう。

 部下の教育をするのも上司の務めだ。

 万が一、キバがキレたら俺がヤバいんだけどね。


 コノアが出した肉をどんどん焼いていく。ホーンラビット、ランドモア、俺達が食う肉は大体これだな。

 ルークはリブスネイルも焼き始めたが、俺は遠慮する。デカいタニシ……サザエみたいではあるが、何か抵抗がある。


 キバに見張りを交代させ、ルズにも肉を振る舞う。肉の食い方もキバよりルズの方が上品だ。

 比較するのは良くないけど……うーん、礼儀作法、教えた方が良いのかな……?


 食事を終える頃には夜も更けていた。

 そろそろ、休んだ方が良い時間だろう。


「マスター様、僕も見張りをした方が……」

「いらん。俺は寝なくても良いんだ。夜の間は俺が見張りをする。ルークも寝ててくれ」


 キバもルズも俺の指示どおり、既に寝息を立てている。

 俺にとってはいつものことだ。退屈だけど、俺が見張るのが一番合理的……。


 ……。


 あれ? 俺が見張らなくても、ダンジョンを繋げてしまえば良いだけの話じゃないのか?

 ダンジョンに戻って一晩過ごす。朝になってから、また同じところからスタートすれば良い。


 なんてこった! これだけ旅をしておきながら、今気付くか!?

 でも、今さら帰るわけにもいかんぞ。

 あれだけ仰々しく見送りしてもらったのに、そんなことしたらめちゃくちゃ格好悪い。


 そうだ! 次の旅からできるようになったことにしよう!

 そうすれば無駄な恥を掻く必要も無いのだ!


「マスター、何か感じませぬか?」


 何だ、いきなり……。

 キバは俺の心の動揺でも察知したのか?

 しかし、キバの様子を見ると、そうじゃないみたいだ。

 何かを感じてるけど、それが何か分からない、そんな様子で周囲を見回している。


「マスター」


 今度はルズが起きてきた。

 しかし、ルズの様子はキバと違う。

 何かに気付いたようだ。森の奥、一点に目を凝らしている。

 そう言えば、ルズには『遠視』があった。キバの感じた何かをルズには見えているのかもしれない。


「ルズ、何か見えるのか?」

「確証はありません。しかし、何かが森を走っています。この動きは、追う者と追われる者のようです」


 森で追われる者……俺にはコボルトしか見当が付かない。

 ルークも既に事態の変化に気付いて動ける準備をしている。あとは、俺の判断を待つっていう顔だ。

 勿論、俺は行く。


「ルズ、俺を乗せて案内してくれ。キバはルズの後ろから周囲の警戒をしながら追ってくれ」

「ハッ!」

「御意!」


 俺達は急いでルズの見た、追われる者へと向かう。

 距離が近付くと、俺にも何かが動いているのが見えた。

 追われているのは一人、追っているのは……ブラッドウルフだ。二体のブラッドウルフが追っている。


 追われている者は余程足が早いのか、ブラッドウルフとの距離は縮むように見えない。

 それでも、捕まってしまえば八つ裂きにされるだろう。逃げる者もそれが知ってか、必死に逃げている。


 俺達はブラッドウルフの後方、追う形で走っている。

 ルズとキバは野生のブラッドウルフよりも遥かに早い。距離を瞬く間に詰めていく。


 ブラッドウルフは、ようやく俺達に気付いたようだ。

 しかし、気付くのが遅すぎたな。この距離なら――


「ストーンバレット!」


 ほとんど、並走する位置まで来ていたのだ。距離も近い。

 さらにルズは、並走と同時にスピードをブラッドウルフに合わせていた。ここまで、お膳立てされて外すわけにはいかない。


 俺の狙い澄ましたストーンバレットは二体のブラッドウルフの側頭部に命中した。

 走っていたところを、頭に石の杭が撃ち込まれたブラッドウルフは、勢いそのままに正面の木へ激突している。どう見ても即死だ。


 追われていた人物は逃走を続けていたようだが、既にキバに回り込まれていた。

 キバを前にして、力無くへたり込んでいるようだ。


 ルズはその人物の側まで移動して、姿勢を低くしてくれている。

 俺はルズから降りて、その人物の顔を覗き込んだ――



名称:コテツ

種族:魔人・獣人、猫精人(ケットシー)

称号:人情家

生命力:32 筋力:27 体力:38 魔力:89 知性:84 敏捷:85 器用:52 

スキル:夜目、風魔術、取引、計算、目利き



 ……コボルトじゃない? ケットシーって猫だよな。


 見れば見るほど、このケットシー――コテツは猫の姿をしている。

 ハンチング帽を被って、コートのような服を身に纏っていが、顔は猫そのものだ。

 小さな体からは、細長い尻尾が伸びている。


 そんなコテツはその場で俯き、僅かに震えている。

 キバのことを追っていたブラッドウルフの仲間と思っているのだろうか。まるで、裁きを待つ罪人のようだ。

 気の毒なので、誤解を解いて安心させてやろう。


「大丈夫か? あんたを追っていたブラッドウルフは始末した。取りあえず、あんたが何者か教えて欲しいんだけど」


 俺の声が聞こえたのか、コテツは顔を上げて俺を見据えている。

 体はまだ震えており、顔からは何故か悔恨の情が滲み出ている。


「オイラは……逃げちまった……。あいつらを置いて逃げちまったニャ……」


 コテツは涙を流しながら、呟くように話し出した。

 目の焦点は合っておらず、まるで懺悔しているようだ。余程のことがあったのだろう。


「落ち着け、俺達は敵じゃない。誰か襲われているのか? もし、そうなら場所を教えてくれ。俺達が助けに行く。だから、安心してくれ」

「あ、あんたらは、助けてくれるのかニャ……?」


 コテツの目と声に、少しずつ生気が戻ってきている。


「助ける。コボルトじゃなくても助けるよ。だから――」

「どうか、あいつらを助けてやってくれニャ! まだ大集落は襲われているはずニャ! 一人でも多く、コボルトを救ってやってくれニャ!!」


 ……大集落? 大集落が何者かの襲撃を受けているのか?

 コボルトじゃないコテツが、コボルトの救助を願うのも、よく分からないが……。


「マスター様、僕は一刻も早く大集落へ向かった方が良いと思います」


 確かにルークの言うとおりだ。

 コテツの言葉が真実なら急がないといけない。コテツの言葉を疑ってる場合じゃないな!


「分かった、急いで大集落へ向かうぞ」

「待ってくれ! オイラも連れていってくれニャ! 逃げちまったオイラだけど、あいつらを助けたい。オイラにだって、何かできることはあるはずニャ!」


 コテツは俺に縋り付きながら懇願してきた。

 その目は先程までと違い、決意が灯っている。この目をしている人物は信用しても良い。


「キバ、コテツを乗せてやれ!」

「えっ? なんでオイラの名前を――」

「マスターの命だ、早く乗るが良い」


 キバに凄まれ、コテツはキバにいそいそと乗っている。

 名前のことなんて、どうでも良いだろう。今は大集落へ急ぐことが先決だ。



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[一言] どうもリムル大魔王を思い出す
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