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第41話 大集落へ 出発の朝

 

 俺は日の出とともに、作業場の扉を開ける。

 ここはベルさんの作業場。頼んでいた防具を受け取りに来たのだ。


「おはよう、ベルさん。頼んでいた物はできてる?」


 ベルさんは旅に間に合わせるために、夜を徹して作業してくれていた。

 夜明けとともに取りに来るよう指示したのはベルさんだった。


「できてるよ! 早速着てみるかい?」

「ああ、勿論!」


 作業員のコボルトが、仕上がった装備を持ってきてくれた。

 ベストとハーフパンツ、装備というよりも服って感じだな。

 俺は用意された服を手に取って眺めてみた。


 ブラッドウルフの素材で作られた革のベスト。

 よく鞣された革を下地に、急所に当たる部分には硬化処理された革が使われている。コボルトの使う革の鎧よりも、防御力は高そうだ。

 ハーフパンツもブラッドウルフ製だ。

 裾は膝丈ほどなので、バミューダパンツといったところかな?

 革なので固いかと思っていたら、動きを邪魔しないように柔らかく加工されていた。

 俺としては、大きめのポケットが嬉しい一品だ。


 デザインも凝っている。

 ブラッドウルフの特徴である紅い毛皮が襟元や腰回りにふんだんにあしらわれており、強者の風格が漂っていた。それも、紅が主張し過ぎないように工夫されているのだ。


 なんと、履き物まで新調してくれている。

 サンダルのような形状は変わらないが、足裏に小さなスパイクが付いており、地面をしっかり捉えることができる。これなら、木に登ることもできそうだ。

 これにも紅い毛皮が使われて、存在感が溢れている。


 しかし……これを俺が着るのか?

 着る前から服に負けてる気がするんだけど……。


「じれったいねえ! あんた達、やっちまいな!」


 ベルさんに指示された職人達が、たじろぐ俺を羽交い締めにして服を剥ぎ取る。

 瞬く間に裸に剥かれた俺に、用意した服を着せていく。


 ……。


 すっげぇ……! 想像していたよりも全然軽い!


 着て初めて気付いたけど、内側はホーンラビットの薄くて柔らかい毛皮があしらわれている。

 着心地が滑らかで気持ち良い。これを着てしまったら、普通の服は着れないぞ……!


「その顔は気に入ってくれたようだね! 皆から、あんたは動き回るのが好きだって聞いたから、動きやすさを優先したんだよ」

「これは凄い! もう、これ無しじゃいられないな!」

「アッハッハ……そうかい! それなら、急いで作った甲斐があるってもんだよ!」

「ベルさん、本当にありがとう!」

「ああ! じゃあ、あたしらは休むから、あんたはあんたの仕事をしっかりやるんだよ!」


 これは気合が入る!

 俺はガッツポーズで返事をすると、職人達もそれを返してくれた。職人達も満足のいく仕事ができて嬉しそうだ。

 新しい装備で身を包み、高揚した気持ちを胸に俺はダンジョンに戻る。

 今日の出発は集落跡――グラティアから出発するのだ。


 ダンジョンから出ると、コボルト達が整列して待っていた。先頭にはマックスとノアがいる。

 ルークとキバは、既に準備を終えて俺を待っていた。

 キバの隣には一体のコウガがいる。俺の指示どおり、キバは部下を連れてきてくれていた。

 そして、キバの足元には一体のコノアもいる。今回の旅にはコノアも連れて行くのだ。


「すまん、待たせたな。でも、見送りは良かったのに……皆、忙しいだろ?」

「何を御冗談を。手が離せない者の他、ここに集めさせてもらいました」


 マックスは冗談って言ってるけど、俺は冗談じゃなくて本気なんだけどな。

 こんな朝早くから、整列なんてしたくないだろうに。


 俺は整列しているコボルト達の顔を見ていくと……。


 誰もが一様に、俺を尊敬の眼差しで見ている。その目で、こっちが怖いくらいだ。

 どうやら、嫌々並んでいるわけじゃないんだな。ちょっと嬉しい。


「しかし、マスター様の新しい装備、見事な物ですな」

「ああ、ベルさんには無理してもらったからな、俺も予想以上の出来に驚いたよ。……それじゃあ、ノア?」


 俺は、マックスの隣で合図を待つノアに声を掛けた。

 声を掛けられたノアは俺とマックスの間に移動する。

 マックスはノアの予想外の動きに訝し気な表情を浮かべているが、これは全て打ち合わせどおりなのだ。


「マックス、こんな大勢の前で言うのも恥ずかしいけど、渡す物があるんだ」

「渡す物? 私にですか?」


 俺はノアに目を向けると、ノアは『収納』から剣を取り出してくれた。

 その剣を手に取り、マックスに差し出す。

 マックスも一瞬戸惑いを見せたが、その剣を見て気付いたのだろう、一度俺の目を見た後、ゆっくりとした動きで剣を受け取ってくれた。


「この剣は……」

「ハウザーさんの剣だ。俺の能力で複製したものだけどな」


 夜明け前、ノアにスキルを『付与』した後、考えた。

 眷属には『付与』することで、俺の力の一部でも分け与えることができる。

 でも、眷属じゃない仲間にはどうすれば良いのか? その一つの答えとして、この剣を『創造』したのだ。


 ハウザーさんの剣は本来は両手剣とも言える大きさで、ショートソードを扱うマックスには扱いにくいかもしれない。そこで、俺はハウザーさんの剣をショートソードに変えることにした。

 この大きさならば、マックスも普段どおりにこの剣を扱うことができるだろう。

 大きさが変わっても意匠はそのままだ。勿論、スキルを『付与』できることも。


「この剣にはスキルが付いている。『腕力強化』、『鼓舞』、『威圧』だ。マックスなら使いこなせるだろうと思って『付与』したんだ」

「これを、何故私に?」

「ハウザーさんの遺志を継ぐ者には、これを持っていてもらいたいんだ。マックスはずっと側で見ていたんだろ? だったら、マックスに相応しいと思う。この剣、使ってくれないか?」


 マックスは静かに刀身を見つめている。まるで、刃に映る自分の姿を見ているかのようだ。

 その光景に、参列していたコボルト達も息を呑んで見守っている。


「ハウザーさんの遺志……重いですな。しかし、この重さは私には心地良い……。分かりました、しかと受け取らせてもらいましょう!」


 マックスの言葉に拍手が起きた。


 ――ココだ。


 ココもマックスがハウザーさんの遺志を継ぐことに賛成してくれたようだ。

 ココの拍手につられるように、周りの人々も拍手を始める。

 瞬く間に、辺りは割れんばかりの拍手に包まれた。


 渡す物も渡せたな。


 俺は拍手が鳴り止むのを待たずに歩みを進める。

 向かうのはキバ達のもと、俺とマックスのやり取りを待ってくれていた。


「もう、よろしいのですか?」

「いや、まだあるよ」


 そう言って、俺はキバの隣にいるコウガの前に立つ。

 キバの選別したコウガだけあって、逞しい体格をしている。他のコウガに比べて紅い体毛が多く、毛並みも美しい。どうやら、メスのコウガのようだ。


 俺が何をしようとしているのか分からないだろう、目の前のコウガだけでなくキバもまた、怪訝な面持ちで俺を見つめている。


 DPにも余裕がある。折角、旅に同行してもらうのだ、このコウガにも『付与』しよう。


 俺は目の前のコウガに『付与』する。スキル『持久力強化』と名前を。


「お前の名前は『ルズ』だ」


 俺が名前を呼んだ瞬間、ルズの体は青白い光に包まれる。

 この光景にコボルトだけでなく、キバまでも唖然としている。

 キバにとっては光景というよりも、俺がいきなり名前を『付与』したことに、だろうな。

 当のルズも、光が収まった今もまだ、何が起こったのか分かっていない。顔が驚いたままだ。



名称:ルズ

種族:魔獣・魔狼、ブラッドウルフ

称号:名付き(ネームド)、ダンジョンの眷属

生命力:117 筋力:101 体力:111 魔力:61 知性:62 敏捷:178 器用:56

スキル:直感、咬合力強化、生者判別、夜目、持久力強化、遠視



 よし、能力値が上がっている。

 これならオウルベアが相手でも何とか戦えそうだ。

 しかも、スキルに『付与』してないはずの『遠視』まで身に付いている。

 毎回毎回、俺の予想と違った結果になるな……。


「マスター……私に、名前を与えてくださるとは……」


 ルズも流暢に話し出した。凛々しい声だ。

 俺もいい加減慣れてきている、この程度では驚かない。


「この旅ではルズにも頑張ってもらうからな。よろしく頼むぞ」

「ハッ! 必ずや、お役に立てますよう尽力致します!」


 声だけ聞いてると、めっちゃ美人だ。


「これで、俺の準備は終わりだ。随分待たせたけど、出発しようか」

「マスターは、我の背中に……」


 そう言って、キバは背を低くしている。

 何が嬉しいのか、尻尾を振って風を巻き起こしている。

 土煙が凄いから止めて欲しいんだけど。


 今回の旅は、ブラッドウルフの背に乗って移動を試みる。

 徒歩で歩くよりも、圧倒的に早く目的地に着くことができるだろう。勿論、キバもルズも承知している。

 俺の眷属は野生のブラッドウルフよりもでかい。人一人ぐらいは乗っても大丈夫だ。

 実際にコボルトに乗ってもらったが、短時間なら問題無く走れるようだった。


 しかし、今回は旅だ。長時間の移動が必要になる。

 そこで、一番でかいキバと強化したルズに頑張ってもらうのだ。

 休憩の頻度や一度の走行距離など、データ取りも含めている。

 今後の運用も考えると、できることはしておきたいからな。


「じゃあ、ルズ、よろしく頼むな。俺はルズに乗らせてもらうから」

「――なっ!?」


 キバが大口を開けて呆然としている。

 さっきまで振っていた尻尾がピタリと止まった。


「当たり前だろ、ルークの方が俺よりでかいんだ。キバに乗るのはルークだ」

「――ええっ!?」


 俺の言葉に驚いたのはルークだ。

 今の今まで、ブラッドウルフの背に乗って移動することに気付いていなかったようだ。顔から血の気が引いている。


 呆然とするキバとルークを放っておいて、俺はルズの背に跨がる。

 こうしてみると、ルズの毛はさらさらで気持ち良い。


「おい、お前らもさっさと準備して、行くぞ」

「ぎ、御意……」


 不服そうなキバに、怯えたルークが跨がる。コノアもキバに乗せて準備完了だ。


「それじゃあ、行ってくる」

「マスター様、御武運を!」

「ルークも頑張れよ!」


 見送る人々の歓声を背に俺達は里を出た。


 こういう出発も悪くないな。キバとルークはまだ落ち込んでるけど。



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