第40話 大集落へ 前夜
「さて、夜が明けたら出発だな」
俺はコボルト達との食事を終え、大広間で寛いでいた。
椅子もベッドも無いので、地べたに寝そべっている。
適当な物を『創造』しても良いのだが、犬の時の習慣で地べたが落ち着く。
俺のダンジョンの土は何故か服に付いたりしないし、汚れたりしないようだ。
って言うか、これは土じゃないんだろうな。
地面を掘ってもすぐ元に戻るし、何でできてるんだろうか?
「マスター、また暫くは留守になるんですね」
ぼんやりと土を眺めている俺に、ノアが声を掛けてきた。
その声はいつもの元気な声ではなく、寂しそうなものだった。
「まあ、用事が済んだらさっさと帰ってくるよ。急いだ方が良いから出発を早めたんだし……俺だって、もっとゆっくりしたかったんだけどな」
「でも、いつも誰かのために働くのがマスターなんですね」
「ノア、雰囲気変わったな」
「マスターといると、ボクもキバも変わっていきますよ」
「ハハ……そうか」
ノアといる時間は楽しい。
楽しい時間はすぐに過ぎていくもので、あと数時間もすれば暫しのお別れだ。
そう言えば、花の冠のお礼、まだだったな。
「花の冠のこと、お礼言ってなかったな。お返しに、ノアに何かプレゼントしようと思うんだ」
「そんな……マスターにお礼されるほどのことはしてません」
「してるって。それに、俺があげたいんだ」
プレゼントとは言っても、物をあげるわけではない。
俺にしか、あげられないもの……スキルを『付与』してあげよう。
キバには、この前『再生』を『付与』した。
その時に気付いたのだが、『付与』できる数が増えているようだ。
支援者に聞いたから間違いない。俺自身には二つ、眷属なら一つだ。
つまり、ノアにはあと一つ、スキルを『付与』できるということになる。
ノアに『付与』するスキル……何にしようかな?
所有しているスキルの一覧を表示してみる。
俺の持っているスキルは……五十二個ある。結構増えてきたものだ。
先日、解体したオウルベアを『解析』したことで、オウルベアのスキルも獲得していた。『威圧』と『筋肥大』だ。
川で採れたリブスネイルから『吸着』も手に入れていた。
『筋肥大』はユニークスキルなのに、『解析』で手に入るのには驚いた。
早速、『付与』しようとしてみたが――
〈同期率が不足しているため、『付与』できません〉
……でした。
まあ、他にも色々ある。ノアに相応しいものを選ぼう。
今のノアに相応しい……うん、これにしようか!
「ノア、少しだけじっとしてくれ」
スキルの『付与』は一瞬に終わる。
俺がイメージを強めた次の瞬間には終わっているのだ。
DPを消費した直後にノアは反応した。自分の変化が分かったんだろう。
「――これは! ありがとうございます、マスター!」
「仲間が増えているんだし、ノアにはこれがあった方が良い」
ノアに『付与』したスキルは『統率』だった。
キバが不在の間、コノアだけでなくコウガも率いてもらわなければならない。
場合によってはコボルトの指揮を執ることもありえる。それなら、『統率』が必要だろう。
このスキルは具体的な効果が分かりにくい。
俺もよく分からなかったけど、マックスが教えてくれた。マックスも『統率』を持っているのだ。
その効果は、指揮者の考えを無意識下に浸透させることができる、というものだった。
要するに、本人達も知らないうちに一糸乱れぬ行動ができるようになるということだ。
「ノア、俺が不在の間は『分裂』は無しだ。コノアもコウガもお前に任せる」
「はい! ダンジョンもコボルトも、ボク達で守ります!」
これで留守は安心だ。
本気のノアなら、オウルベアが来たとしても撃退できるだろう。
準備の最後に、俺自身のスキルの見直しもしておかないとな。
名称:なし、自称:マスター
種族:不定形、ダンジョン
称号:狗頭人の守護者
核耐久力:20000 DP:35186 同期率:26% 階層:2/2 部屋:3/5
スキル:生成、収納、分解、解析、鑑定、創造、付与、思念波、火事場、物理耐性、再生、土魔術、夜目、剣術、威圧
ユニークスキル:同期、化身
加護:女神の加護
化身:魔人・獣人、狗頭人
生命力:53 筋力:42 体力:50 魔力:不明 知性:79 敏捷:57 器用:53
知らない間に称号が付いてる。
狗頭人の守護者……効果は分からないけど、悪い気はしないな。
俺がコボルトを守ることには変わりないんだし。
スキルについては、人型になったついでに『剣術』と『威圧』を付けてみる。
代わりに『毒液』と『麻痺液』をベンチ入りだ。替えようと思えば、いつでも替えることもできる。
しかし、能力値は相変わらず低いな……。
まともに戦えばコウガにも負けそうだ。
キバやノアには本気で挑んでも勝てる気がしない。
……気にしても仕方無いよな。
折角、剣もあるんだし、『剣術』を試してみよう。
俺は腰に下げている剣を抜き、構えを取る。
勿論、ちゃんとした剣の技術なんて持っていない。思いつく構えを取っていく。
上段、正眼、下段、八相、脇構え……漫画で見たような構えも試してみる。
構えの次は攻撃だ。
唐竹、袈裟斬り、右薙ぎ、左薙ぎ、刺突……見様見真似で剣を動かす。
うーん……気のせいか、動きやすい気はする。でも、はっきりしないな。
これって、効果出てるのか? 正直、分からんぞ。
もしかして、実戦で初めて効果が出るとか?
「マスター、格好良いです!」
そうか? まあ、ノアがそう言うなら良いか。このままにしておこう。
ついでに『威圧』も試してみるか。
「ノア、今から『威圧』するぞ。良いな?」
「分かりました! 来てください!」
よし! ノアに向けて『威圧』を……イメージ!!
「――ッ!」
俺のイメージの瞬間、ノアが大きく揺れた。
一瞬、ノアが怯んだようにも見えたが、瞬く間に揺れは収まり、元の形に戻っている。
オウルベアは『威圧』を雄叫びに乗せて放っていたが、俺はイメージだけで大丈夫のようだ。
「今のが『威圧』……凄いです!」
「そうか? 俺が『威圧』を受けた時は、身動きできなくなったんだぞ? 俺がショボいのかノアが凄いのか、どっちだろうな?」
俺的にはどっちも、だと思う。
ともかく、『剣術』よりも効果は目に見えてるし、これもこのままでいこう。
……スキルのチェックも終わったし、あとは朝になるのを待つだけだ。
俺は再び地面に寝そべって、時間まで休むことにした。
これが落ち着いたら眷属を増やそうかな。
DPも気が付けば三万を超えていたし、ちょっとぐらい豪快に使っても問題無いだろう。
コボルト達と生活していると、DPの溜まり方がちょっと遅いけど……?
ん? ちょっと、か?
思えば、集落跡へ旅立ってから大して増えてないぞ。
確かに帰ってきてから剣を『創造』したり、今もノアにスキルを『付与』したり、使うには使っていたけど、増え方が小さい。
単純に考えると、平原にいた頃の方が溜まりは早かった。
(支援者、DPの増え方は同期率と関係あんの?)
〈否定。関係はありません。マスターの疑問に対する答えは、『分解』した魔獣の存在力が小さいから、となります〉
(存在力はよく分からんが、魔獣の持つ力が減っているってことか?)
〈肯定〉
そう言えば、平原のブラッドウルフは一体辺りDPが300だった。
でも、この前ノアが『収納』してくれたブラッドウルフは一体辺りのDPは150だ。半分しかない。
思えば、ゴブリンも違和感があったんだ。数に対して、合計のDPが少ない気がしていた。
オウルベアを『分解』した時は、特殊個体が2000、通常種が400。これは参考にならん。
一応、最高値ではあったからな。でも、苦労に見合ってはいない。
何か変だぞ?
森の魔獣が変? もしかして、森の異変と関係あるのか?
何か気持ち悪いな。森の異変、もっと真剣に考えた方が良いかもしれない。
一抹の不安を胸に残し、俺は立ち上がる。
ダンジョンの外からうっすらと光が差し込んでいる。
間もなく夜も明けるだろう。
「ともかく、大集落に行った後のことだな」
この時点で所有しているスキルを表記してみました。
『生成』『収納』『分解』『解析』『鑑定』『創造』『付与』『思念波』『擬態』
『物理耐性』『痛覚無効』『温度感知』『再生』『分裂』『危険察知』『火事場』
『土魔術』『土耐性』『意志統一』『鱗強化』『消音』『持久力強化』『気配察知』
『潜伏』『麻痺液』『麻痺耐性』『直感』『咬合力強化』『生者判別』『夜目』
『麻痺鱗粉』『悪食』『統率』『剣術』『棍術』『囮』『毒耐性』『火魔術』
『痛覚鈍化』『遠視』『逃走強化』『環境適応』『蜘蛛糸』『毒液』『威圧』
『腕力強化』『鼓舞』『鑑定妨害』『吸着』
ユニーク:『同期』『化身』『筋肥大』
以上です。