第37話 武器が欲しい
「それで、次は何を準備するんですか?」
防具の準備はベルさんに頼んだ。
となると、次は武器だ。俺も何か武器が欲しい。とは言っても、この集落に鍛治師などいない。
強力な武器なんか、新しく作れるはずないか。
「なあココ、コボルトの武器って、どんなものがあるんだ?」
「うーん……マスターさんの用意してくれた剣より強い物は無いと思いますよ? 狩りで使う弓より、マスターさんの魔術の方が強いし……」
そうだよな……。そんな物があったら、ゴブリンとの戦いで出してるわな。
「誰か銘ある剣を持ってるとか……いや、マックスが持ってる物より良い剣なんて無いか」
「……ありました、一つだけ」
「あるのか? 誰が持っているんだ?」
ココは立ち止まって、今までとは違う真剣な眼差しで俺を見ている。
「父さんが持っていた剣です」
ハウザーさんの剣。
遺体が握っていた剣のことだろうな。
最期まで戦い抜いた証。激しい戦いの結果、折れてしまっていた。
折れた剣では武器としては使えないが……。
「今からダンジョンで、ハウザーさんの剣を出してみる」
「分かりました、私も付いていきます」
俺はココを伴い、ダンジョンに入る。
大広間では、ジョンが石碑を加工しているところだった。
ベルさん同様、仕事の時は普段と違う真剣な顔付きで作業に従事している。
邪魔をするのも悪いので、奥の部屋にしよう。
「ここも、マスターさんが作ったんですよね……」
「ああ、ココは初めて入るのか。まあ、まだ何も無いし、ここに用なんて無いかな」
本当は奥に核ルームへの階段があるけど、今は岩で隠している。
自由に入られると困るからな。
じゃあ早速、剣を出してみよう。
俺はいつもどおり『収納』から目的の剣を取り出す。
ハウザーさんの剣、折れてしまって刀身は半分程しかないようだ。
マックスのショートソードに比べると幅は広く、大きい。刀身が無事ならばグレートソードか、バスタードソードといったところか。
『鑑定』しても、破損しているせいか上手く見えない。
この大きさでは、仮に無事であっても俺に扱える代物ではないだろう。
しかし、俺は物の大きさを変えることもできる。できるが……。
「マスターさん、この剣を使えるようにできるなら、してください」
「でも、この剣はハウザーさんの形見でもある。そんなに簡単には決められない」
「ふふ……そう言うと思いましたよ。でも、父さんの形見の代わりの物があるじゃないですか」
形見の代わり? あったかな……?
「今、ジョンさんの作っている石碑です。あれがあれば、父さんのことを忘れることは無い。皆の記憶の中でも、父さんは生き続けることができます。それに、マスターさんに使ってもらえるなら、父さんも喜びますよ」
そうか……そうだな!
それに、この剣でコボルトのために戦えば、ハウザーさんの供養にもなるか。
折角良い剣なんだ。使わないと勿体無い。
「分かった、ありがたく使わせてもらうよ」
俺は再び剣を『収納』し、『分解』する。
ハウザーさんの剣の情報が手に入ったわけだが……。
――何、これ!?
この剣はスキルを持っているのか?
『解析』した結果、三つののスキルが手に入ったのだ。
『腕力強化』、『鼓舞』、『鑑定妨害』の三つだ。
さっき、上手く『鑑定』できなかったのは『鑑定妨害』のせいか?
『腕力強化』はその名のとおり、腕力を強くするんだろうけど……。
『鼓舞』って、どうなんだ? 名前のとおりだと、励ましたりすると味方に良い効果が出そうだけど、はっきりとは分からん。
「マスターさん?」
「ああ……すまん。ハウザーさんの剣、思ってたより凄い剣だった」
「そうなんですか?」
まあ、普通は分からんよな。
『鑑定』しても分からんし……いや、『鑑定』できない時点でただの剣じゃないってことか。
それはそれで勉強になったな。
気を取り直して、『創造』してみよう。
折れたままでは使えないので、形を変えて『創造』する。
一度目は刀身が短い剣ができた、ここからトライ&エラーだ。
二度、三度と繰り返す。
そして、七度目……。
「これなら、俺にも扱えそうだ!」
それはショートソードよりも短く、グラディウスといったところか。
鍔と柄の意匠はハウザーさんの剣、そのままにしてある。
柄も短くして俺の手に収まりやすくした。
実はこれに一番手間取った。柄が長過ぎたり短過ぎたりと、イメージだけでは難しい。
むしろ、七回目で成功してラッキーなぐらいだ。
『創造』した剣を手に取って構えてみる。
本物の剣なんて初めて触るけど、しっくりくる。上出来だ。
片手でも両手でも振り回せる。
うはは……テンション上がってきた!
「ふふ……剣を振り回しているマスターさんは子供みたいですね」
おおう……調子に乗り過ぎた。ココがいたんだった……。
「この剣、大事に使わせてもらうからな!」
「はい、お願いしますね」
これが俺の剣か……。
こうして見ると、何か感慨深いものがある。
マックスのショートソードよりも上等な気がするな。
何気無く『鑑定』してみた。
魔鋼製のグラディウス:魔鋼でできた剣、スキルを付加できる
おっ? こんな結果が出てくるのは初めてだ。
いつもは、何でできた何とか、適当なものなのに……。
スキルを付加って……最初にスキルが付いてたのは、この効果か?
確かに今は何のスキルも無いようだ。
魔鋼っていうのも気になる。地球には存在してない物質だろう。名前からすると、魔素とか、魔力に関係ありそうなんだけどな。
ともかく、この剣にスキルを付加できたら凄いことになるぞ。
スキルを付加……これはもう、あれだろ!
(支援者、この剣に『付与』ってできるのか?)
〈可能です。捕捉として、物質へ『付与』できる数はマスターの同期率に関わり無く、その物質の持つ存在力に依存します〉
(何? 存在力? 何だそれ?)
〈生物、物質を問わず、存在を世界に定着させる力のことです〉
(うん、全く分からん。何かしらの力なんだな? それ自体が持ってる感じの)
〈……肯定〉
何か、説明するのを諦められた気がする。
しかし、肝心なことは聞けた。それは『付与』できるってことだ。
俺の『付与』は、適合できるスキルなら『付与』できる。
適合できないなら、支援者が丁寧に教えてくれる。前に、こっそり試したことがあるのだ。俺が『分裂』できたら、どうなるんだろうって。
当然、できなかった。『分裂』できるのは、限られた種族っぽいのだ。
そんなわけで、この剣にも適合するスキルなら『付与』できるわけだが……。
迷うよな、やっぱり。
できるだけ強くしたいし……。
うーん……。
「マスターさん、さっきから唸って、どうしたんですか?」
「ん? この剣に俺の力を与えられるみたいなんだけど、何が良いか迷ってるんだ」
「剣に力、って……ちょっと、意味が分かりません」
「まあ、気にするな。俺も、何でできるのか知らん。でも、できるんならその力を使わないとな」
「はあ……」
分からなくても便利だから使う。これはスキルだろうが、科学だろうが同じだな。何をしたら危険か、それだけ分かっていれば、当面問題無い。
まあ、何が危険かも分かってないんだけど。
それはさておき、この剣に『付与』できるのは三つだ。
じゃあ何が良いか、なんだけど……。
能力上昇系が安牌っぽいけど、剣に依存する可能性が出てくる。
なら、この剣自体が強化されるものの方が安定しそうだな。
……なんて、あれこれ考えた結果。
「もう、良いや。元に戻そう」
結局、初めに付いていた『腕力強化』と『鼓舞』、そして『鑑定妨害』にした。
そもそも、俺の所有するスキルは変化球が多い。
剣に適合しなかったり、そもそも『付与』する意味が無かったり……。
それなら、最初の三つで良いだろう。
ともかく、これで俺の剣ができたわけだ。
これから俺の相棒になるわけだし、そのうち色々と強化もしていこう。
剣と言えば、鞘がいるな。
取りあえず、ショートソードの鞘のサイズを変えて『創造』した。
今はこれでいくけど、専用の鞘も用意した方が良いかな。
「よし、武器も準備できた。防具も目処が立った。後は、細々な準備だな」
「細々な準備?」
「そうだなー……ココにも頼んでおこうか。ココは『木工』があったな? 折角なんだし、椅子を作って欲しいんだ」
「椅子、ですか? マスターさんのことだから、普通の椅子じゃないですよね?」
俺って、そんなに変なことばっかり頼んでいるのか?
「……まあ、ちょっと普通じゃないかもな。それじゃあ、こっちに来てくれ」
部屋の奥にココを連れていく。
核ルームへの階段の前に来たところで、階段を隠していた岩を『収納』する。
「何ですか、これ? 階段みたいですけど……」
「そう、階段だ。悪いけど、ここから先には誰も入れるわけにはいかない」
「それをなんで私に?」
「えっ? まあ……信頼してるから、かな?」
言ってて恥ずかしくなってきた。
信頼していなければ、見せるわけない。
「ふふ……分かりました。それで、この階段と椅子に何の関係があるんですか?」
「ああ、椅子でこの階段を隠したいんだ」
「面白い発想ですけど、普通の椅子じゃ無理ですよね?」
「分かってるって、大体の構想は教えるから」
そして、俺の中のイメージを伝える。
俺の話を聞くうちに、ココも職人然とした顔になっている。コボルトって、皆こうなのか?
「本当に面白いです。ジョンさんじゃないけど、私も全力で作りますね!」
「ああ、頼むな。ココも人手が足りない時は、ノアでもキバでも頼んでくれ」
ココの快諾を聞いた俺は、再び核ルームへの階段を岩で隠す。
これが、岩じゃなくなる日が楽しみだ。