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幕間 ―ノア編 主の望み―

 

「ノア殿、保護したコボルトが目を覚ましたようだ」


 コボルトのリーダー、マックスさんがボクに教えてくれた。


 マスターがマックスさんの集落へ旅立った日、弱ったコボルトが保護された。

 気を失ったまま目を覚まさなかったけど、一晩経って目を覚ましたみたいだ。


「それでは、マックスさんから事情を聞いてもらえますか? ボクだと……」

「うむ、承知した。何か分かればノア殿にも伝えよう。今は食事を取らせているので、落ち着き次第話を聞くつもりだ」


 ボク達のことを知らないコボルトは、ボクを見たらきっと戸惑うと思う。

 以前は怖がられることも気にしてなかったけど、今は怖がられると少し寂しい気分になってしまう。

 ボクはマックスさんからの連絡を待つことにした。


 ……


 暫くして、マックスさんは再びボクに状況を教えてくれた。


 話によると、保護したコボルトは集落を魔獣に襲われたそうだ。森に逃げた後はマックスさん達と同じで、集落を放棄して森を彷徨っていたみたいだけど……。


(ノア、マックス、二人共ダンジョンにいたのか、ちょうど良かった)


 突然、マスターの声がボクの中に届いた。

 こんな時間にマスターから連絡が来るなんて珍しい。

 マックスさんも不思議そうにボクを見ている。


「マスター、どうかしましたか?」

(ああ、実は――)


 ……


 マスターは旅先でコボルトを助けていた。

 そのコボルトの名前はジョンさん、マックスさんの友人みたいだ。

 マックスさんも、マスターが保護したコボルトが友人だったことに驚いていた。


 ジョンさんは集落を放棄して、仲間と森を彷徨っていたところをマスター達に保護されたみたいだけど、コボルトはこんなに魔獣の被害に遭うものなんだろうか?


 ボクの疑問は置いておいて、とにかく保護した人の世話をしないといけない。

 ボクは平原のコノアを呼び戻し、マックスさんは受け入れの準備に取り掛かる。

 マスターがダンジョンの入口を新しく繋げる頃には、全ての準備が整っていた。


(ノア、マックス、急なことで悪かったな、感謝するよ。予定とは違ったけど、また出発するつもりだから)


 ジョンさんの仲間がダンジョンへ移動し終えた後、マスターはボクとマックスさんにお礼を言ってくれた。

 ボクもマックスさんも当然のことをしているだけなのに、マスターはいつも感謝してくれる。


「こちらから感謝しなければなりますまい」


 マックスさんもマスターに感謝してくれている。

 お互いに感謝する姿。見ていると嬉しくなる。


「あと、昨日の件なのですが……」


 そうだった!

 マスターから連絡が来た時、ちょうどマックスさんとその話をしていたんだ。


 マックスさんは、続けてマスターに報告してくれた。

 その報告を受けて、マスターの表情が真剣になっている。マスターも何か変だと感じているみたいだ。


(そいつの集落も保護が必要なら、ここに連れて来させてくれ。道中の護衛はコウガを使っても良いから)


 マスターなら、そう言ってくれると思った。

 ボクもまだ森を彷徨っているコボルト達を助けたい。

 ボクにも何かできることが無いかな?


 マスターが再び旅に戻る頃には、ジョンさん達の食事も終わっていた。

 マックスさんは、ジョンさん達に休んでもらうために集落に案内するみたいだ。


 ボクはマックスさんにお願いすることにした。


「マックスさん、さっきの件なんですけど……」

「うむ、マスター様の許可もいただいた。すぐにでも、救援に向かうとしよう」

「はい。それで出発の前に、その人と話をさせてもらえませんか?」

「その人? ……助けたコボルトか。構わない、連れて来よう。護衛をどうするかも決めなければならないしな」

「ありがとう、マックスさん!」

「フフ……ノア殿も、不思議な方だな」


 ? マックスさんは笑っていたけど、何か変だったかな?


 それから暫くして、マックスさんは助けたコボルト――ルークさんを連れて来てくれた。

 ルークさんはボクを見て怖がっていたけど、マックスさんが紹介してくれると少しは安心したのか、すぐに落ち着きを取り戻していた。


「ルークさんは集落から逃げてきたと聞きました」

「は、はい……。僕は逃げ遅れた人を集めて、一緒に逃げていました。えっと……三日前のことです」

「どんな魔獣に襲われたんですか?」

「あ、あの、それが……この集落にいる魔獣にそっくりでした」


 この集落? 魔獣と呼べるのは、ボクやコノア、あとはコウガしかいない。

 もしかして、ルークさんの集落を襲ったのはコウガ? ……いや、有り得ない。


 コウガはマスターの命令でコボルトを襲うことは固く禁止されている。マスターの命令を無視するなんて、あるはずが無い。

 だとしたら、コウガと同じ種族のブラッドウルフの可能性が高い。


「その魔獣はブラッドウルフかもしれません。コウガと同じ種族ですけど全く別の存在です。コウガはコボルトを襲いませんから」

「え? どういうことですか?」


 ボクはルークさんに説明した。

 コウガはマスターの生み出したブラッドウルフで、集落を襲ったブラッドウルフじゃないことを。


「で、でも……同じ種族の魔獣ですよね? いつ襲いかかって来るか、分からないじゃないですか」

「大丈夫です。ボク達はあなた達を襲ったりしません。助けてあげたいんです」

「ルーク、信じろ。私達もマスター様やノア殿のおかげで生き延びたのだ。ノア殿の言葉を信じてくれ」


 マックスさんはルークさんを説得してくれている。


 ボクを……信じて欲しい。


 ルークさんは、俯いて何か考えているようだった。

 そして、すぐに顔を上げてボクを見つめている。その目に、もう怯えは感じられない。


「分かりました。信じます。僕はあなた達に助けられましたから、信じないと恩知らずになります。それに……」

「それに?」

「ノアさんはコボルトじゃないのに、コボルトを助けようとしてくれる。そんなノアさんを、僕は信じてみたくなりました」

「ルークさん……!」


 ルークさんに信じてもらえた。それがボクには嬉しい。

 ボクを信じてくれるルークさんのためにも、早く仲間を助けに行かないと!


「それじゃあ、すぐにでも救助に向かいましょう。ルークさんの集落を襲ったブラッドウルフが、近くに来ている可能性もありますから」

「ノア殿が行くつもりか? マスター様から、ここの守りを任されているのでは?」


 そうだ、マックスさんの言うとおりだ。


「救助には集落の戦士を向かわせる。派遣できる人数は少ないが、向かえに行くだけなら問題無い。ノア殿のコボルトを救いたいという気持ちで十分だ」

「でも……いえ、分かりました」


 ボク自身、どうしてボクが助けに行きたいのか分からない。

 ボクが行かないといけない気がする。


 説明できない不安がボクを急き立てる。

 マスターの命令を守ろうとする思いと、コボルトを助けに行きたい思いがボクの中で激しくぶつかっていた。


 マスター、ボクはどうすれば――


「ノア!」

「イッテ!」


 それは二匹のホーンラビットの声だった。

 大広間に住んでいる小さな眷属。マスターが生み出した後、何か使命をもらっていたのは知っている。

 その二匹が突然、ボクに向かって言ってきた。


「ノア、シタイコト、スル!」

「マスター、キット、ノゾム!」


 ボクのしたいことが、マスターの望み?


「マスター様は我々を救ってくださる時に言っていた、『心のままに』と。このホーンラビット達が言いたいのは、そう言うことではないか?」


 心のままに?


 ……そうか。マスターはそうやって、人を助けているんだ。

 でも、ボクが心のままに生きることが、マスターの望みなんだろうか……?


「ノア殿、本当は自分が行きたいのではないか?」

「はい、ボクはルークさんの仲間を助けに行きたいです……」

「そうか。それでは私がここの守護を預かろう。ノア殿には敵わないが、私もマスター様に仕える身だ。命を賭す覚悟はある」

「マックスさん?」

「ノア殿もマスター様に似てきた。そんなノア殿の望みを叶えることも、私の務めに感じているのだ。私を信じて、ノア殿の望むままに生きてみてはどうだろうか?」


 ボクがマスターに?

 だとしたら、マスターはきっと自分が助けに行くはず。


「分かりました。ここのことはマックスさんにお願いします!」

「うむ、心得た!」


 マックスさんは、ボクよりもマスターのことを知っている気がするな。

 心の中から信じ合ってる、そう思える。

 ボクはそんなマックスさんのことを、もっと知りたい。


「マックスさん、ルークさんの仲間を案内した後、ボクとお話してくれますか? ボクのこと、マスターのこと、色んなことをマックスさんに知ってもらいたいんです」

「フフ……それは、楽しみだ。私もノア殿に知ってもらいたい。私のことや、コボルトのことを」


 マックスさんは笑顔で答えてくれた。

 随分と待たせてしまったけど、ルークさんの仲間を迎えに行かないと。


「ルークさん、お待たせしました。仲間のところへ案内してください」



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