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第28話 集落の傷痕

 

 ジョン達を保護してから五日……。

 あれからは特に変わったことも無く、順調に旅は進んでいた。

 ココの話では、今日中には目的地に着くようだ。


 夜には欠かさず、ダンジョンに連絡を取っている。

 結局あの後、マックスが保護したコボルトは仲間と共に俺達の集落に移ってきた。その人数は二十四人。

 驚いたことに、ノアが自らコボルト達を保護しに行っていた。

 ジョン達を保護した日の夜、ダンジョンに連絡を取ろうとするとノアではなく、マックスがいたのだ。

 どうしてもノアが行きたいと言ったらしく、マックスからノアを咎めないように頼まれた。

 勿論、俺はノアを咎めるつもりは無い。ノアが自分の意志でコボルト達を助けようとしていることが嬉しいからだ。

 次の日にはノアもコボルト達も、無事に集落に到着していたので安心した。 


 ともかく、これで俺達の集落は既に百人を越えている。

 もはや、集落では無いな、村だ。このまま行けば、町とかになるのか?

 まあ、先のことを考えても仕方無いか。


「マスターさん、あれ見えますか?」


 ココが何かを指差している。指が向いている先に目を向けると……。


 川があった。

 小さな川だが、淀み無く流れている。

 遠目でもきれいな川だと分かる。


 俺達は小川に近付いていくと川の生物が目に付いた。

 小魚、タニシのような巻貝、虫や蛙……色々な生物がいる。


(ココは、この魚とか食べたことあるのか?)

「はい、昔は食べてました。この貝も食べてましたよ」


 そう言うと、ココはタニシのような巻貝を掴んでこっちに見せてきた。

 タニシよりも全然でかい、サザエ並の大きさである。

 しかし、見た目はタニシなのだ。

 『鑑定』してみるとリブスネイルという種族で、一応魔虫であった。

 スキルも『吸着』を持っている。

 興味はあるが、それは後にしておこう。


 今はリブスネイルを放っておいて、目的地に向かうことにした。

 川から目的地は近いらしい。

 ココも見慣れた景色で足取りが軽いように見える。


 ココの案内どおりに十分程進んでいくと、森が開けた場所に出た。

 十数軒の小屋が点在し、少し前まで人が住んでいた痕跡が残っている。


 だが、ほとんどの小屋が半壊以上の被害を受けており、何かを栽培していただろう畑のような場所は地面が穿り返され、無残な光景となっていた。

 今はコボルトも魔獣も潜んでいる気配は無い。


(酷い有様だ。これは魔獣がやったのか?)

「多分……私はちょうど集落を離れていたので、どんな魔獣が来たのか、はっきり知らないんです。気付いた時には皆で逃げていましたから……」

(そうか……キバ、何か潜んでいたら知らせてくれ。取りあえず、探索してみよう)

「御意!」


 俺達は手分けして集落跡の探索を始めた。


 力任せに破壊された痕、地面に穿った穴を見るからに相当凶暴な魔獣なのだろう。

 小屋の屋根まで暴力の痕が残っていることから、巨体の持ち主であったとも想像できる。


 よく見ると、小屋の中には夥しい血痕も残っている。

 古くなったせいか黒ずんでいて、一見ただの染みにも見えるが、その血痕の中央にはコボルトの亡骸が座り込んでいた。

 体中を食い千切られた痕が痛ましい。

 最期まで戦ったのだろうか、手には折れた剣が握られている。


 ……。


 言葉が出ない。

 今まで生物の死を当たり前に受け止めてきたけど、今回はショックが大きかった。

 話もしたことが無い人物ではあったが、俺は既にコボルトも人間と同じに感じている。

 そのコボルトの無残な亡骸は、俺の胸に杭のような衝撃を突き刺してきた。


「マスターさん、どうしました――」


 俺の様子がおかしいことに気が付いたのだろう、近くにいたココが側に来た。

 そして、目の前の亡骸に気が付いてしまったようだ。


「……!!」


 ココもショックが大きいようだ。

 同胞なのだ、俺よりも大きいだろう。ココはショックを受けたまま立ち尽くしている。


 考えてみれば、ここは魔獣に襲われた集落なのだ。

 コボルトの死体も残っている可能性は当然ある。


 俺は失念していた。

 ココは人間で言えば、十六歳程度の少女だ。

 こんな惨劇があった場所に連れてくるべきでは無かった。


 俺がショックを受けている場合じゃない。


(ココ、お前は離れて休んでおけ。動き回らずに、じっとしてろ)

「はい……」


 ココからいつもの明るさが消え、体は震えている。

 辿々しい足つきで、力無くこの場を離れていった。


 ……クソッタレ! 日和っていた自分に腹が立つ。


 どうにもできない感情の渦を抱えたまま、俺はキバに指示を出す。


(キバ! コボルトの骸を見つけたら言え! 弔うぞ!)

「御意!」


 俺とキバは探索からコボルトの捜索に切り換えた。

 分かれて小屋の中や物陰など探したのだが……。


 集落跡に残っていた遺体はさっきの一体だけだった。


 おかしいな……。

 いくらなんでも一人しか死んでないわけが無いだろう。

 この有様を見ればその時の光景が想像できる。

 逃げ惑う人々の中で、逃げ遅れる人もいたと思うのだが……。


「マスター、捜索しても見つからない以上、一人だけでも弔うべきでは?」

(……そうだな、そうしよう)


 俺は遺体のある小屋までもどってみると――


(ココ、大丈夫か?)


 ココがいた。さっきと同じで小屋の外から、中を窺うように佇んでいる。

 その表情からは、いまだ生気が戻ってきていない。

 とても大丈夫とは思えないが……。


「マスターさん、父を弔ってくれるんですか?」


 父……? このコボルトはココの父親だったのか……!

 掛ける言葉が見つからない。


「マスターさん、お願いがあります」


 ココが意を決した表情で俺を見ている。

 その目は以前見た、コボルトを救って欲しいという願いを俺に託した時の目だ。


「マスターさんは取り込んだものの力を手に入れることができるんですよね? その能力で……父を、マスターさんの力に変えて欲しいんです」


 何を言ってるんだ!? 自分の父親なんだぞ!?


(ココ! 落ち着け! 今のお前は冷静じゃない、ショックを受けているんだ。落ち着くまで休め、良いな?)

「……分かりました。それなら、弔い方は(おさ)……マックスさんと話をして決めても良いですか?」

(ああ、そうだな。コボルトの弔い方があるだろうしな)


 確かに俺が弔うって言っても、今は精々穴を掘って埋めてやるぐらいしかできない。

 それよりも、コボルトの葬儀の仕方に則って弔った方が、ココの父も浮かばれるだろう。


 一旦、弔いの件は置いておいて、俺とキバは探索を再開した。

 ココも探索すると言っていたが、無理やり休むように言い聞かせた。


 探索をしながら考えてみたのだが……。

 魔獣の狙いはやはり食糧なのだろう、食べられる物は一切残っていない。

 畑のような場所は、特に荒らされている。

 そして死体が無い。と言うことは、死体は持ち帰ったか?

 この場で食ったとしたら、骨や身に付けていた物が残っていそうなのだが、それも見当たらないのだ。


 じゃあ、何で一人だけ残されていたのか。

 あの遺体は、別に隠されているわけでも無い。

 半壊した小屋の中に放置されていた。


 まさか……な。

 魔獣とは言え、獣だろう。

 しかし、可能性が無いわけではない。

 念のため、一旦探索を打ち切ってダンジョンに戻った方が良いかもしれない。

 本来なら安全が確認できたら、入口を繋げるつもりだった。しかし、この状況は不気味過ぎる。

 態勢を整えて、再度探索することにしよう。


(キバ、ココ、一旦ダンジョンに撤収するぞ)

「マスターも違和感を?」

(キバもか? じゃあ、やっぱり……)


 ブービートラップかもしれない。

 何か目に付く物を用意して、注目が集まったところで仕掛けを発動させる。

 単純に見えて効果の高い罠なのだ。


 これを魔獣が仕掛けていたとしたら、そいつは知性が高いということになる。


 死体を置いておく目的としては、助けに来た者を狩る、もしくはこの死体を食べに来た魔獣を狩る、といったところか。亡骸を回収しようとする者を狙っている可能性もあるな。


 今、俺達は三人しかいない。間もなく日も暮れる頃だ。

 相手はどんな魔獣かも分からない以上、警戒した方が良いだろう。


 俺はダンジョンの入口に適した場所を探して辺りを見回す。


 すると、森の木々の間から二羽のフクロウが、こちらを見ているのに気が付いた。

 確かに辺りは既に薄暗い。フクロウがいても、おかしくないかもしれないが……。


 俺は転生して初めてフクロウを見たけど、この世界のフクロウってやたらでかい気がする。

 それに、木の上じゃなくて地面に立っているのか?


「マスター! あれは魔獣です!」



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