表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/238

第26話 俺とキバとココの旅

 

 夜が明け、マックス達が以前住んでいた土地に向かう準備をする。

 まあ、準備と言っても、同行してもらうキバとココに声を掛けるぐらいのものだけど。


「マスター、この度の出立の護衛、このキバが命に代えても」


 キバは大袈裟だ。

 出立って言うほど立派なものじゃない、気楽な旅のつもりなのだ。


「マスターさん……私で良いんですか?」


 ココの方は不安そうだ。


(何が不安か分からないけど、キバもいるから危険は少ないと思うぞ)

「いえ、私なんかが道案内なんて、荷が重いと思うんですけど……」

(マックスの推薦だし、俺もココで良いと思う。嫌な記憶がある場所かもしれないけど、力を貸してくれ)

「そ、そこまで言われたら断れませんよ。分かりました、行きましょう」


 さあ、早速出発するかな。


 大通りを歩いていると塀の切れ目、集落の入口にマックスが立っていた。


(見送りなんか、いらないぞ? そんな大層なものじゃないし)

「ハハハ……。娘がマスター様に会いたいと言うもので」


 マックスがそう言うと、マックスの陰からコボルトの少女が顔を出した。

 父親と同じで、シェパードの子犬のような顔付きをしている。


「ますたーさま、ナナね、これあげる」


 ナナと言う名の少女が差し出す手には、草花で作られた冠が乗っていた。

 花の冠を持つ少女、微笑ましい光景だが、花の冠の完成度は目を見張るものがある。

 月桂冠のような立派な草の冠に、幾つもの青白い花が装飾されている。店で売っていても、おかしくない出来だ。


「マスター様のために、ナナが作っていたのですよ」


 マジか……こんな小さな子が、これを作るのか。

 コボルトの技術って実は凄いんじゃないか?


 ナナは俺の頭に花の冠を乗せてくれた。


「このかんむりね、ナナとノアちゃんの、ありがとうのきもちなの」


 そう言うと、ナナは恥ずかしいのか、マックスの後ろに隠れてしまった。


(ノアが? あいつ、何も言ってくれなかったな)


 ナナとノアの感謝の気持ちか、嬉しいに決まっている。

 思えば、前世でこんなに感謝されたことってあっただろうか?

 ……まあ、前世を振り返るよりも、今のことに向き合う方が何倍も大事だな。


(ナナ、ありがとう。大事にするよ)

「うん!」

(マックスも、ありがとう。俺の留守の間はノア達のこと、頼むな)

「承知しました、御武運を」


 やる気が出てきた。

 張り切って行くとしよう。


 俺達は集落を出ると、ココの案内で真っ直ぐ目的地に向かうことにした。

 目的地は南東、森の深部へ向かうことになる。

 コボルト達に採集してもらう時も、南には寄らないように言っていた。森が深くなるほど危険な魔獣に遭遇する恐れがあるらしいからだ。

 最近までは、この辺りも特に強い魔獣が出ることも無かったそうだが、森の様子が変わったらしい。

 ココを襲ったブラッドウルフも、遥か南が生息地らしいのだが、何故か北上して来た。

 森の南で何かあった、ということだろうか……?


 ……


 森を進んでいっても、特に景色が変わることはない、同じような木々に囲まれた光景が続いている。

 今のところは遭遇したことのある魔獣しか出てきていない。

 そんな魔獣も、キバを見て逃げ出したり、息を潜めるように動かなかったりと、襲ってくる気配も無いので放っておいた。


 なんの進展もなく、時間が経っていく。


 暇なので世間話でもするか。


(ココは今、何歳なんだ?)

「急にどうしたんですか? 私は今、八歳ですけど」

(暇すぎて……不謹慎かもしれないけど世間話でも付き合ってくれ)

「そう言えば、前もこんな風に話しながら森を進んでましたね」

「むう……。ココはマスターと、そこまで親しいのか……」


 何かキバが悔しそうだ。

 ノアといい、キバといい、俺と親しくする奴に嫉妬する傾向があるな。


(キバも何か話でもしよう。勿論、警戒しながらな)

「御意!」


 キバが尻尾を振っている。

 クールな言動と行動が一致していない。


(じゃあ、キバ。お前から見たコボルトってどんな印象だ? 素直に言ってくれ)


 いきなり核心を突いてみよう。

 ココも俺の質問の答えが気になるようだ、興味深そうにキバを見ている。


「我から見たコボルト、ですか……。正直、最初は見下していた、と言わざるを得ません」

(最初は、ね)

「しかし、マスターが仰った『お互いに協力』、この意味が分かれば我の目が節穴であったと断言できます」

(ほほう、どういう意味だ?)

「我等ブラッドウルフは敵を殲滅することはできましょう。しかし、その後が無い。破壊はできても作り出すことができないと知りました。しかし、コボルトにはそれができる。我にとって、まさに晴天の霹靂でした」


 おお……キバは分かってくれていたようだ。

 俺はノアやキバ達に、お互いを補うことで、可能性が広がることを知ってもらいたかったのだ。

 ブラッドウルフにできること、コボルトにできること、できないことに目を向けるんじゃなく、できることに目を向ける。

 キバは既にできていたのだ。そのことに俺は感動した。


「勿論、これは我だけの考えではなく、コウガ達の総意でもあります。今ではコボルトを見下す者はいませぬ」


 この言葉に、俺だけじゃなくココも感動しているようだ。


「皆さんにコボルトを認めてもらえるなんて夢みたいです」

(夢は言い過ぎだろ)

「他の獣人からも相手にされないのに、マスターさん達みたいな凄い人達と手を取り合えるなんて、本当に夢物語みたいなことなんですよ」


 他の獣人か、会ってみないと分からないけど……。


(他の獣人にだって、コボルトと仲良くしたい奴らがいるかもしれないぞ? ココが会ったことが無いだけかもしれないんだ)

「そ、そうでしょうか?」

(コボルトはネガティブに考え過ぎなんだよ。前向きに考えた方が、人生楽しいぞ)

「ふふ……マスターさんって、何歳なんですか? 生まれて間もないって言う話ですけど、とてもそうは見えませんよ」


 まあ、実際は三十四歳ですよ?

 君たちのリーダーのマックスの二倍生きてますけど、何か?

 前世の記憶があるせいで、一か月弱しか生きてない奴がする話ではないわな。


(俺にも色々あるんだよ。年のことは気にするな)

「そうですね。マスターさんなら、何でもありですよね」


 うん、それで良い。

 それと、もう一つキバに聞いておくことがあるな。


(キバ、ノアをどう思う?)

「ノア、ですか? ううむ……どうと言われても、答えかねまする」

(ノアはこの旅の件、キバなら任せられるって、言ってくれてたぞ)

「な、なんと! そこまで……。思えば、ノアと話をすることが無かった……どうやら我はまだまだ視野が狭いようだ。一度、腰を据えてノアと話をしましょう」


 俺も気にはなっていた。

 ノアとキバは全然会話しないのだ。

 確かに会話する必要が無いほど、お互いの連携が取れているのもあったのだが、コウガとコノアは仲良く会話しているところを見ていると、何かが違う気がしていた。

 業務だけの付き合いで終わって欲しくないし、仲良くなれるなら、それに越したことはないだろう。

 キバがその気になってくれてるし、後は帰ってからだな。


 ……


 世間話をしながら進んでいたが、特に危険なことは起こらなかった。

 日も傾いてきたので、野営することにしよう。とは言っても、火を起こしたり、テントを張ることもない。

 木の根元で寛ぎながら、日が昇るのを待つだけだ。


(じゃあ、ちょっとダンジョンに定時連絡するから、キバ、警戒頼んだ)

「御意!」


 俺は意識をダンジョンへ移す。


 ……


(ノア、聞こえるか?)

「マスター、ご無事ですか?」

(ああ、問題無しだ。そっちはどうだ?)

「こちらは一件、報告事項があります」

(ん? 何があった?)

「実は……」


 ノアが言う報告事項とは、俺が出発して暫くした後、採集に出ていたコボルトが別の集落のコボルトに遭遇した、とのことだった。

 そのコボルトは衰弱していたらしく、コウガとコノアを見て気を失ったらしいが、今では俺達の集落で治療を受けているらしい。

 意識はまだ回復していないが、意識が戻ればマックスが事情を聞くことになっていた。


 俺もその対応に賛成だ。同じコボルトの方が話をしやすいだろう。

 そのコボルトのことは気になるが、ノアとマックスに任せていれば大丈夫だ。


 明日も、今ぐらいの時間に連絡することを伝えて、意識を化身(アバター)に戻した。


 ……


「マスター、戻られたか」

(ああ、向こうでは別の集落のコボルトを保護したらしい)

「別の集落?」

(詳しいことは俺にも分からん。マックスとノアに任せておけば大丈夫だろ)


 まあ、明日には事態が進展してるはずだ。

 キバとココには休んでもらって、明日に備えないとな。


 しかし、俺だけ寝る必要が無いっていうのも退屈だ。

 それだから、俺が警戒するんだけど……。


 俺は、木々の隙間から見える蒼い月を眺めながら、長い夜を過ごした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ