第2話 イメージしてみよう
〈STEP3:化身の設定。化身を作成してください〉
転生した事実に項垂れている俺を無視して、声は指示してきた。
……はあ、受け入れるしかないか。
よし! 気持ちを切り換えよう。
死ぬ前の記憶はボンヤリ思い出してきたし、思い返せば、つまらん人生だった。
最期が職場で過労死なんて最悪だ。
前世に未練も無いし、今度は面白おかしく生きてやろう。真面目や一生懸命なんか知ったこっちゃねえ!
そうと決まればこのチュートリアル、モノにしてやる。
えっと、次は化身の作成か。多分、イメージしろってことだよな。
取りあえず、無難に前世の自分をイメージ……。
〈失敗。同期率が不足しているため具現できません〉
えっ? 失敗とかあんの? も、もう一回……。
〈失敗。同期率が不足しているため具現できません〉
マジか……。凄い能力を手に入れたと思ったけど、もしかして大したことできないかも……。
同期率がネックなのか?
俺はその後、妥協点を探して色々イメージしてみた。
成人の男、女、子供、年寄り、年齢だけじゃなくて色んな体型の人間をイメージしたが……。
〈失敗〉
こ、こいつ……。省略しやがって、だんだん適当になってないか? こっちだって必死だっつーの! 人間はどうやっても無理なんだな? じゃあ違う動物で試してやるよ!
俺はヤケクソ気味にイメージしてみた――
〈成功。化身を作成しました。自我が憑依します〉
成功してしまった……。
音声が告げた直後、俺の視界が切り換わった。
……
犬だ。
俺は犬になった。
赤茶色の短毛に包まれた毛皮に、つぶらな瞳、くるんと巻かれた尻尾がチャーミングなTHE・日本犬こと柴犬。それが俺だ。俺は柴犬になったのだ。
DPを1000も消費してまで……。
切り換わった視界は明らかに低くなった。台座の上の核が見えない。
逆に地面、いや床か? 床が近い。
前足が見える。床を走る青白い光に照らされて形がはっきりわかる。犬の足……そういえば、今はちゃんと立ってる感触があるな。四つん這いの感覚、だけど人間の時よりも安定している。
やり直しって、できないのか? そう言おうとすると――
「アオアオウ……」
! 喋れてない。犬だから喋れないのか!
「アアウウオゥ」(あいうえお)
「オンワウワゥ」(こんにちわ)
……駄目だこりゃ。どうやって意志疎通しようか。
〈スキル『思念波』で、意思の疎通が可能です〉
あったな、そんな便利スキル。試そうにも相手がいないし、機会があれば実践しよう。
しかし、テレパシー使える犬って何気に凄いな。
もしかして超能力者ってスキル持ちだったのかも。
スキルによっては超能力が再現できそうだ。
俺は犬になったことよりも、スキルのことを考えて気分が高揚した。
まあ、犬の姿はあくまで化身だし、作り直せばいい。って思っていたんだが――
〈スキル『化身』の再使用可能まで、残り29日23時間54分12秒〉
なんてこった!
『化身』にクールタイムが必要とは。
一か月は犬のままでいるしかないのか。まあ、虫とかじゃないだけマシとしよう。
犬だったら、不意に人間に出会っても友好的に接触できるかもしれん。
……人間を罠に嵌めるのにも使えるかもな。
俺がそんなことを考えていると――
〈アバターの設定が完了。STEP4へ移行〉
おっと、そうだった。今後のためにも、チュートリアルは真面目に受けないとな。
真面目はやめるって決めたけど、これはしょうがない。大事だからな。
〈STEP4:眷属を『創造』してください〉
眷属? 眷属って部下とか配下のことだよな? ということは、俺ことダンジョンの栄えある僕、第一号ってことになる。これは重要だ。できるだけ能力が高い、将軍よりも参謀か? 兼任できればベストだよな。
だったらアレだ。
俺は漫画やゲームの記憶を抜粋してイメージした。
知性を具現化したような、紳士服を纏い執事のような佇まい、艶やかな黒髪で常に笑顔――もちろん相手に恐怖を与えるための――を絶やさない長身の悪魔を。
言うまでもなく、戦闘力は抜群だ。
俺はイメージした。俺の化身の時よりも集中した――
〈失敗。保有する情報の不足、および同期率が不足しているため具現できません〉
……ですよね。
まあ、裏切られたら即死亡になりそうだから、失敗してよかったかも。悪魔って笑顔で裏切りそうな気がするし、偏見だけど。
しかし、同期率だけじゃなくて情報の不足? 確かに『創造』には何らかの情報が必要らしいけど、ヒントか何か無いと何が『創造』できるか分からないな。
〈自我領域内に記憶領域を作成し、核の情報管理領域と連結しますか? これにより保有情報の閲覧が可能になります。〉
ん? 今さらりと凄いこと言った?
(難しくてよく分からんが、情報を閲覧できるようになる? だったら、やってくれ。このままじゃ、埒が明かん)
〈了解〉
……ん? 終わったのか? なんか頭にケーブルが刺さったような感じがしたぞ。
これで情報を閲覧できるのか? 取りあえず、イメージしてみようか。
俺は頭の中を探るように意識してみると。
――視えた!
俺の視界内に、存在していないが視認できるリストのようなものが現れた。
ホログラフィーみたいだ。
しかし、これはリストと呼べるものじゃない。そこには名前が一つあるだけだ。
……スライム?
スライムだ。スライムしか載っていない。
つまり核に保有されている情報はスライムしかないということだ。
何故だ? アメーバ的なやつか? 原始の生物とか。
これじゃあ、どれだけ必死にイメージしても『創造』できないわけだ。
まあ、最初だし、スライムが妥当だろう。俺も初心者みたいなもんだしな。
如何にも始まりって感じがする。不満は特に無い。
どうせなら、普通じゃないスライムを『創造』できたらいいな。なんたって栄えある僕、第一号なんだから、末長く付き合いたいものだ。
強いのもいいけど、意志疎通できるぐらい賢い方がいいな。勿論、喋れたらベストだ。
そういえば、俺のスキルに『付与』ってあったな。能力を『付与』するスキルらしいし、色んなスキルを『付与』できたら面白そうだ。スライムだから『収納』とかが適合するかもな。
俺はあれやこれやと考えながら、スライムをイメージした……。
すると、部屋の何も無い空間に青白い光の球が現れた。と同時に俺の中から何かが減った気がした。
部屋を『生成』した時と同じ感覚……DPを使った感覚だ。上手く『創造』できたのか?
俺はイメージを続けながら、少しずつ大きくなる青白い光の球を見つめていた。
青白い光の球は直径30センチほどの大きさになると、そのまま床に落ちた。
プルン
ん? 光の球じゃない?
床に落ちたそれは先程よりは光が弱まっているが、今も淡く青白い燐光を放っている。
重量を受けて饅頭型になっていることから、質量を持つ物質だと見て分かる。
もしかして……これがスライム?
「ハジめマしテ、ますター」
喋った!!