第25話 試行錯誤 素材考察と探索
今晩も講師を呼んでみた。
今回の講師はマックスだ。
(悪いな、日中も皆の指揮を執ってもらってるのに、夜には俺の相手をしてもらって)
「何を仰いますか。マスター様のおかげで、我々の生活は見違える程改善されているのです。お役に立てるなら夜を徹する程度、苦になるはずがない」
(お、おお……ありがたいけど、無理はしないでくれよ)
「勿論、心得ています」
マックスは俺の眷属じゃないのに、眷属並の忠誠を誓ってくれているようだ。
それだけ俺に感謝してくれているみたいだけど、そこまでされるとちょっと困る。
(早速だけど、確認したいことがあるんだ)
「ふむ、確認したいこと……ですか?」
(まあ、これを見てくれ)
俺は『収納』していた魔獣の素材を取り出した。
主に平原で狩った魔獣の骨、毛皮などだが、森で狩った魔虫の物も出してみた。
最近は森の魔虫をコウガ達が狩ってくれるので、魔虫の素材やスキルなんかも手に入ったのだ。
(これの使い道、何かあるか?)
「なるほど、魔獣の素材ですか……しかし、よろしいのですか? マスター様は魔獣をこのダンジョンの力に変えているのでは?」
マックス達には、俺のスキルは魔獣などの力を元にして発動させていると説明してある。
全部が真実ではないけど、あながち間違っているわけでもない。
(使い道があるなら、それも視野に入れておかないと勿体無いからな)
「分かりました、それでは一つ一つ見ていきましょう」
マックスは、魔獣の素材を丁寧に確認していく。
食べられる魔獣は料理の際に解体された物だが、古くなったりはしていない『収納』しっぱなしだったからな。『収納』している間は、時間経過が無視されるようで、劣化することがないのだ。
魔虫は食べたりしてないので、ほとんど手付かずのまま『収納』してある。
何に使えるか分からないので、取りあえず全部出してみた。
「ランドモアやホーンラビットの骨は料理、ですな。羽や毛皮は衣類に使えるでしょう」
(ホーンラビットの角も料理か? まあ、武器には使えないか)
「いえ、ホーンラビットの角には魔石が含まれてますので別の使い道がありますよ」
魔石? そんなものがあったのか?
「残念ながら、我々には魔石を道具に加工する技術がありませんが、魔石は様々な用途に使用できます」
(例えば?)
「魔道具や魔術を付与した武具など、魔力に関係した物には概ね使用されていますな」
マジか……知らず知らず、片っ端から『分解』していた。
もしかして、DPの大小って魔石に関係していたのかも。
魔獣は普通の獣よりもDPが高かったしな。
(普通の獣には、魔石って無いよな?)
「勿論です。まあ、普通の獣自体が少ないのですが……。魔石は魔を冠する生物が、体の何処かに持っています」
マックスが言うには、魔獣だけでなく魔人も持っているそうだ。
魔人に含まれる獣人も一応あるらしいのだが、魔石ではなく魔石の代用となる器官を持つらしい。
そもそも、魔石は魔素が凝縮されたもので、体内の魔素を操作したり、周囲の魔素を取り込んだりする際に無意識で使う器官らしい。
獣人は魔石ではなく、体の一部分を使って魔石の代用を果たすのだ。
コボルトの場合は首から上、あとは尻尾。要は、人間と異なる部分がそれにあたるわけだ。
マックスの話では、獣人の耳や尻尾、角のある種族は角を刈られることもあるらしい。
その発端は人間、とのことだ。
マジで大丈夫か? この世界の人間は。
「ともかく、魔石はマスター様が吸収されるか、保管して後々利用方法を考えるか、ですな」
魔石か……『収納』の肥やしにするのも勿体無いな。
必要なら『創造』するという手もある。
取りあえず、色々な魔獣を解体してもらって素材と魔石の情報を集めたいところだな。
続いて、マックスは魔虫の素材も確認していく。
しかし、コボルトの技術では魔虫を有効に利用する方法が少ないようだ。
仕方無い、魔虫は俺のDPに変えていこう。
(ところで、前に住んでいた場所って近いのか?)
「我々の集落があった場所……ここからなら一週間程、南東へ進めば着くでしょう。それが、何か?」
(うん、生活も大分安定してきたんだし、足を伸ばして森の探索を開始してみようかって考えているんだ)
俺達がここに集落を作り始めて、二週間になる。生活拠点としては十分な基盤はできていた。
食料も乾燥させて保存食を作ることに着手しているし、耕地も整理して栽培にも挑戦しようとしている。
成果が出るには時間が掛かるだろうが、当分飢える心配は無い。
ただ、水の問題がいまだ改善できていない。
井戸を掘ることも考えているが、専門知識を持っておらず、効率良く掘る目処が立たないのだ。
それよりも、湧き水や川があれば用水路を引くこともできる。
探索の目的には、それも含まれている。
コボルト達に聞いたところ、以前住んでいた場所の近くに川が流れていたらしい。
一度、確認してみたいのだ。
それに――
(マックス、今はどうなっているか確認した方がいいんじゃないか?)
「むう……そうですな。魔獣が去っていれば、もしかしたら同胞が戻ってきている可能性も、あるかもしれません」
(ああ、その時はここで暮らすか考えてもらうのも良いな。もし、魔獣が住み着いているなら駆除しよう)
「それに、持ち運ぶことができなかった道具なども置いたままになっているでしょう。それらを回収するだけでも意味はあるでしょうな」
これを俺の一存で決めるのは憚られていた。
元々住んでいた住人の了承をもらう必要を感じていたのだ。
勿論、生き残りがいたら保護することも、魔獣がいたら駆除することも本音だ。
「マスター、今度はボクも連れて行ってくれますか?」
そう言えば、前回旅に出る時はノアにダンジョンの留守番をしてもらっていた。
あの時は渋々残ってもらったわけだが……。
(すまん、ノア。今回も残ってダンジョンを守ってくれ)
「そ、そんな……。いえ、マスターの命令です。分かりました……」
……ノアがしょんぼりしてしまった。
だって、仕方が無い。
ノアには、集落の整地が落ち着いてから『分裂』してもらっている。
ノアが『分裂』することで、分裂体であるコノアが増えるわけだが、『分裂』すると、ノアが弱体化してしまうのだ。
進化した今でも以前と同様らしく、能力が半減してしまっている。
一日一回の『分裂』、回復するまで一日、今日は既に『分裂』しているので明日の夜まで回復しない。
俺は明日の朝には出発しようと考えていた。
ノアには悪いが待つ気は無い。
留守番しながら、毎日『分裂』してもらいたいのだ。
ノアは勿論のこと、コノアの働きには目を見張るものがある。
狩り、採集、整地、見張り、とてつもなく有能だ。
有能過ぎて、頼り過ぎてしまっている。
ブラック企業も真っ青な程、コノアに働いてもらっていた。
数が増えれば、一体あたりの負担も減る。
コノアも家族なのだ。少しは楽をしてもらったり、遊んだりしてもらいたい。
そのせいでノアに負担を掛けることになってしまっているのも事実だ。
頭が痛い問題だが、時間を掛けて解決していくしかない。
(ノア、本当に悪いと思っているけど、今回はキバと行く)
「分かりました! キバなら安心して任せられますね!」
ノアはキバを信頼しているようだな、声にいつもの元気が戻っている。
(と言うわけで、マックス。誰かに道案内してもらいたいんだけど、適任者はいるか?)
「なら、ココが良いでしょう。ココはマスター様とも気兼ねなく接することができますし、『方向感覚』もあるので迷うことも無いでしょう」
ココの持つ『方向感覚』……コボルトは皆持っているかと思っていたのだが、そうではなかった。
限られた者だけが持っているらしい。
しかし、今回もココと一緒か。意外と一緒にいることが多いな。
まあ、俺に気疲れされるぐらいなら、多少騒がしくてもココの方が良いか。
(じゃあ、マックス。明日のこともあるし、今日はこのぐらいでお開きにしよう)
「ええ、分かりました。日が昇り次第、ココにも準備させましょう」
(ああ、頼むな)
それじゃあ、俺はこの二週間の成果でも確認するとしよう。
名称:なし、自称:マスター
種族:不定形、ダンジョン
核耐久力:20000 DP:31414 同期率:24% 階層:2/2 部屋:3/5
新取得スキル:麻痺鱗粉、蜘蛛糸、毒液、環境適応
スキルは、前回『収納』を見送ったパラライズモス、木に巣を作っていたトラップスパイダー、地面を走り回るグランドスパイダー、巨大なナメクジのブルスラッグから手に入れた。
使い道のありそうなスキルだが、『付与』は保留しておこう。
これからの探索で、まだまだ手に入るかもしれないしな。
さて、今回はどんな旅になるのやら……。