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第24話 試行錯誤 薬の調合

 

 さあ、今晩も色々実験していこう。

 

 今回は講師を呼んでみた。ココの友人のペスだ。


 ペスは初見で、俺を食料扱いしてきたコボルトだ。

 ブルドックみたいな顔をしているが、『薬学』のスキルを持っているのだ。


 今晩は、そんなペス君に薬について教えてもらいたいと思っている。


(悪いな、わざわざ夜に来てもらって)

「いえ、マスター様も昼間は忙しそうですし、全然構いませんよ」


 ペスもマックス同様、俺を様付けで呼んでくる。

 というか、ココぐらいなものだ。マスターさんって呼んでくれるのは。

 俺としては、様と呼ばれるのは変な感じがするので好きじゃないが……慣れるしかないだろうな。


「それじゃあ、何から始めましょうか?」

(やっぱり、傷薬とか回復薬的な物が欲しいよな。材料に何が必要かも分かってないけど)

「多少なら俺も持っていますよ。魔含草があれば、もう少しマシな回復薬も作れるんですけど」


 魔含草? あるよ!

 確かに『鑑定』では、薬の材料になるって表示されていたけど、それ以上のことは分からなかった。

 ここで役に立つかな?


(魔含草なら持ってるぞ、ついでに薬の材料になりそうなものを用意してみるな)


 ダンジョンの大広間に薬になりそうなものを置いていく。

 魔含草、夜光草、蟻の蜜、ホーンラビットの角、森に生えていた草や茸など……。


「色々ありますね。それじゃあ、魔含草を少しもらいます」


 ペスは魔含草を一掴み取ると、すりこぎで磨り潰し始めた。

 使うのは草の汁らしい。


「乾燥した魔含草は粉にして使ったりもしますけど、魔含草の成分は他の薬の効果を増幅できるんですよ」


 一掴み分なので、汁はほんの少しだ。


 次に、ペスは懐から小さな瓶を取り出して俺に見せてくれた。


「ゴブリンの襲撃でほとんど使ったのでこれだけしかありませんけど、これはポーションなんです」


 ほおお……。これが、ポーションか。

 緑色の透明感ある液体だ。

 『鑑定』しても、ちゃんとポーションと表示されている。


 ペスはポーションの蓋を開けて、魔含草の汁を入れた。


「ちゃんと抽出した方が効果は高まるんですけど、道具も無いので、今のところはこれで完成です」


 なんと、魔含草の汁を入れただけでポーションが、ミドルポーションになっていた。気になるのは効果だ。


(ミドルポーションの効果は、どの程度の怪我に効くんだ?)

「そうですね……部位欠損までは無理ですけど、多少の怪我には十分使えますよ」


 部位欠損? ペスの言い方だと、薬によっては失った体も治せる薬があるみたいだ。


「ハイポーションなら、指ぐらいまでは修復できます」

(じゃあ、ハイポーションを作るには、何が必要だ?)

「道具……いや、設備でしょうか。あと、俺では無理ですね、知識も技術も足りません」


 そうか……。まあ、ミドルポーションでも効果は高そうだし、高望みは必要無いな。


(ハイポーションのことは置いといて、ポーションってどうやって作るんだ?)

「方法は幾つかありますけど、森で作る場合は、乾燥させたクラウトの葉をきれいな水で煎じるのが多いです。クラウトの葉はこれですよ」


 ペスは腰に下げていた袋の中から、乾燥した草の葉を取り出した。

 どうやら、この草は森で自生しているらしく、採集に出たコボルト達もこの草を集めてくれていた。


 乾燥させてから使うのか。

 俺が持っているクラウトの葉は取れたてのままだから、このままでは使えないようだ。

 これはペスに預かってもらって、使えるようにしてもらおう。


「分かりました。クラウトの葉は全部、ポーションの材料にしますね」

(頼むな。ポーションができたら、魔含草でミドルポーションにしていこうか)

「マスター様は、何処で魔含草を採取したんですか?」

(ん? 平原だけど、数は少なかったな。森の方が多いのか?)

「いえ、森には魔含草は生えていない、と言うか魔獣が食べるんですよ」


 なるほど、平原で草を食べる魔獣はホーンラビットやパラライズワームぐらいかもしれない。

 森の魔獣、特に魔虫は魔含草を食べるのかもな。


 ノア達に、平原で魔含草を見つけたら『収納』してもらおう。

 『創造』することもできるけど、DPは節約しておきたい。


(ペス、さっきのミドルポーションを貸してくれ)

「勿論、これはマスター様の物ですよ」


 フッフッフ……。俺には貸してくれれば良いのだ。

 早速『収納』、『分解』、『解析』する。

 よしよし、ミドルポーションの情報を手に入れた。これでミドルポーションを量産できる。

 しかも、瓶も『創造』できるようになった。


 実は、これも狙っていたのだ。


 瓶は保存容器として優秀なのだ。

 薬だけでなく、食糧の保存にも使えるからな。

 俺の『創造』でサイズの変更もできる。超便利だ。


(ペス、さっきのミドルポーションは返す、必要な時に使ってくれ。それと、瓶を渡しておくよ。ポーションができたら、これに入れてくれ)


 大小、様々な瓶を『創造』してペスの前に置いた。


「……やっぱり、マスター様の力は凄いですね。頭で分かってても信じられません」

(それでも、薬とか道具とかは作るのが難しいんだ。コボルトの力を頼りにしてるんだぜ?)

「そう言ってもらえると嬉しいですよ。じゃあ、次はポーション以外の薬も用意してみましょうか」

(おっ、良いね。どんどん、やっちゃおう)


 ペスは次は夜光草に手を付けた。

 俺は夜光草をダンジョンに生やして明かり代わりに使っていたのだが……。


「夜光草も汁があれば十分なんです」


 そう言って、ペスは夜光草を磨り潰し始めた。

 確かに、夜光草の汁は蛍光塗料のように淡く光っている。

 さらに、ペスは夜光草の汁と魔含草の汁を混ぜた。


 うおお……かなり明るくなった。

 瓶に入れてみると、電球みたいに明るい。これは使えそうだ。

 今までみたいに、地面から弱い明かりがあるのとは違って、天井に吊るしたりすれば本物の明かりだ。


 これはテンションが揚がる。これも『分解』だ。

 そして、夜光草の汁入りの瓶――名付けて魔光瓶――を『創造』する。

 ペスの話では一か月以上、明かりが保つらしい。

 明かりが弱まったら、魔含草の汁を一滴垂らせば元に戻るとのことだ。

 これで俺のダンジョンの明かり事情が改善された。思わぬ収穫で最高の気分だ。


 それ以外の材料で何か作れるか期待していたが、生の状態で使うのは難しい材料が多いらしい。

 手を加える必要があるものは、全部ペスに任せよう。

 人手が要るなら他のコボルトにも手伝ってもらう。

 薬は俺にとっても、コボルトにとっても有用だ。多少、優先しても差し支えは無いだろう。


「マスター、ボクも少し良いですか?」


 実験をしていた俺達に、ノアが声を掛けてきた。


 ノアは大広間で平原への入口を見張っていたのだが、俺とペスのやり取りが気になっていたようだ。

 結構前から側に来て、ペスの薬作りを見ていたのだ。


 ノアは凄いことに、ペスの見学をしながら入口の警戒もしている。

 ソイルリザードの侵入も、俺より早く気付いてその場から魔力の弾を放ち、ソイルリザードを瞬殺している。まるで、後ろ向きに狙撃しているかのようだ。

 実際のところ、ノアは全周警戒ができるので前後に意味は無い。


 ペスも最初はノアの攻撃に驚いて手が止まっていたが、三度目には気にしなくなっていた。

 何気にペスも凄いな。魔獣の侵入にも驚かなくなってる。


(どうした、ノア? 何か気になるか?)

「はい、折角なので、ボクの『麻痺液』も使えないか聞いてみたいのです!」

「ノアさんの『麻痺液』ですか……ちょっと見せてもらっていいですか?」

「素手で触ると麻痺するので、気を付けてくださいね」


 よく見ると、ノアの体の表面に無色透明の液体が染み出ていた。はっきり言って分かりづらい。

 ペスは顔を近付けてノアを凝視している。


 なんと、ペスは指先でノアに触れた!


「こ、これは強烈ですね。指先でこれって……」

「どうですか? 何かに使えそうですか?」


 ペスは腕を組んで頭を傾げている。何やら思案しているようだ。

 様子を見るからに、使えるかもしれないが難しい、と言ったところか。


「……そのまま、剣に塗るという手もありますが、それよりも……」

(それよりも?)

「半固形にした後、矢尻にくっ付けたりすれば凄い矢ができるかもしれません。マスター様の蜜と混ぜたりするのが簡単でしょうね」


 ペスが言うには、敵の体内に直接麻痺液の塊をぶち込んで強烈な麻痺を誘うようだ。

 上手くいけば神経を麻痺させたり、心臓を停止させる効果も期待できるらしい。


「あとは麻酔……でしょうか。ただ、これは俺の手に余ります。もっと『薬学』に精通した人と、設備が要りますね」


 何だか、ペスは悔しそうな顔をしている。

 目の前にヒントがあっても、答えに辿り着けない感じだろうか。

 ノアもペスの表情を察したようだ。


「ペスさん、ボクの『麻痺液』の使い道を考えてくれて、ありがとうございます! マスターがよろしければ、武器に使う方法を実践してもらいたいのですが、よろしいですか?」

(ああ、良いぞ。上手く使えば、コボルト達の戦力強化にも繋がるな。大したもんだよ、ノアも、ペスもな!)

「マスター様、ノアさん、ありがとうございます」


 ペスに非など無い。

 これから、まだまだ頑張ってもらうんだ。

 自分が非力だとか、落ち込んでもらう暇なんて与えない。


 まあ、人に頑張ってもらうなら、自分も頑張らないといけないけどな。



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