第23話 試行錯誤 『生成』と『創造』
コボルトの集落を発展させている間、俺は試行錯誤をしていた。
何と言っても、俺は寝る必要が無いのが大きい。夜は俺の自由時間なのだ。
ノアやコノアも寝ないで済むのだが、夜の間は見張りを頼んでいる。
平原と繋げていることで、訪問者がいるのだ。
夜行性のソイルリザードは、夜になるとダンジョンに入ってくる。
以前のように俺が罠で仕留めても良いのだが、既に罠は撤去していた。間違って、コボルトを罠に掛けると大変だからな。
ここで気付いたのだが、『創造』した物を『分解』してもDPは得られない。DPを再利用できないようだ。
これについては仕方ない。『分解』するより『収納』して再利用した方が得かもしれないと思うことにした。
ともかく、ソイルリザードの対処はノアに任せている。ノアなら、万が一も無いと思うからな。
コノアには集落の警戒を任せている。集落の中なら、コノアでも大丈夫だろう。と言っても、森の魔獣がどれほど強いのか、まだ把握できていない。絶対に無理しないように言っておいた。
キバやコウガ達は、流石に睡眠が必要らしい。
食事はDPで代用できても、寝ないわけにはいかないようだ。
夜は、集落かダンジョン、思い思いの場所で休んでいる。
さて、俺の思考錯誤についてだが……。
同期率が20%になったので、ダンジョンを広くすることができる。
部屋数を増やせるのは当然として、階層というのはどうなんだ? 単純に階段で繋げただけのものか、別の意味があるのか。
わざわざ『階層』と表記しているのだ、何か意味があると見た。
と、いうわけで――
(支援者、階層について教えてくれ)
〈了解。階層とは、ダンジョンにおいて別の次元の領域を指します〉
(別の次元? 今いる次元とは別なのか。メリットって何だ?)
〈お互いの次元に干渉することがありません。この次元を破壊したとしても、別の次元は影響無く存在し続けます〉
(意味分からん……。この真下に違う階層の部屋を作って、ここでどれだけ穴を掘ったとしても、辿り着くことは無いっていう解釈で良いか?)
〈肯定。階層間の位置関係は意味を成しません。階層を繋ぐ方法も、階段に限らず通路のままでも問題ありません〉
むむ……ややこしいな。物理法則を完全に無視か。
けど、核ルームは別の階層に繋げた方が安全っぽいし、早速試すか。
俺は『生成』する。
通路でも良いらしいけど、俺が分からなくなるから階段にしよう。
核ルームへの通路を、下る階段に変えるのだ。
……
……うん、できたな。
特にDPも減ってないし、問題無い。
名称:なし、自称:マスター
種族:不定形、ダンジョン
階層:2/2 部屋2/5
ちゃんと別の階層になったみたいだ。
見た目には、支援者が言うような効果は分からないけど、試すわけにはいかない。
支援者を信じよう。
そう言えば、最深部への階段と言えば玉座の裏、だな。
よし、ついでに新しい部屋を作ろう。
続けて『生成』だ。
大広間と核ルームの間にもう一つ部屋をイメージだ。
大広間と核ルームへの通路を伸ばして、間に割り込むように部屋をねじ込む。
……
……できた!
強引なイメージも反映できる。
新しい部屋の増設も簡単に済みそうだ。
新しい部屋は長方形にした。幅10メートル、奥行き20メートル程の、縦に伸びる部屋のイメージだ。
その奥にある、下りの階段で核ルームへ行くことができる。
後は階段を隠すような玉座みたいな物があればバッチリだ。
残念ながら、今はちょうど良い物が無いので岩で隠しておくとしよう。
ついでに、大広間も改造しておこう。
主に横へ広くする。倍の広さだ。体育館ぐらい、というイメージかな。
天井までの高さはそこまで無いけど、広さはかなりのものだ。
これで部屋は三つ。あと二つ作れるが、今は保留にする。
これからの展開次第といったところだな。
ダンジョンの『生成』は一旦、置いておく。
さあて、ここからが本番だ。
次は『創造』と『分解』について考えてみる。
どちらも使いこなしているようで、知らないことが多いのだ。
木材の件で、はっきりと分かった。
目的に沿った情報が無ければ、俺のスキルの真価を発揮することができない。
魔獣の素材も木材と同じだった。
以前は素材が必要となることが無かったので、気にも留めていなかったのだが、先日の宴の際に下処理したホーンラビットとランドモアの不要な部分を『分解』することで、素材の情報を得ることができた。
面白いことに、核の中にある情報を表示すると、ツリーダイアグラムのように、関連する情報が一覧として表示できるようになっていたのだ。
ホーンラビットの場合だと、眷属として生み出す以外に毛皮、骨、角、肉といった具合だ。
流石に肉は、緊急性が無い限り『創造』するつもりは無いが、毛皮などは利用価値があるかもしれない。
これからは『分解』で素材を残すことも選択肢にした方が良さそうだ。
そして、その選択肢を増やすためには一度解体する必要がある、ということなのだ。
『創造』については、試してみたいことがある。それは材料の有無の違いについて、だ。
無からの『創造』は全てDPで賄われる。勿論、十分凄いのだが、材料がある場合はどう違うのか知っておきたい。
実は、以前にも材料を使った『創造』をしたことがある。落とし穴に仕掛けた槍だ。
あの時は、特に意識もしていなかったし、暇つぶし程度の認識しかしていなかったが、今にして思えばDPをほとんど使っていなかった。サイズを大きくした場合ぐらいなのだ。
小さくする場合にはDPの消費は無かった。どうやら、小さくする分には消費しない、質量の増加には継ぎ足すということのようだ。
そこで試したいのは、材料がある場合に眷属を『創造』すると、DPの消費にどのぐらいの違いがあるか、ホーンラビットで試してみようと思う。
まずは、無からの『創造』だ。
……
……できた。
いつものように、目の前に青白い光が現れて形を成していく。
特に強いイメージもしていないので、すんなりできた。
生まれたホーンラビットはモヒモヒしている。……可愛い。
次は毛皮、骨、角といった材料がある場合だ。
目に見えて分かるように、材料を置いてからイメージする。
……
……こっちもできた。
青白い光が、目の前の材料を包むように混ぜ合わさり、形ができていく。問題無くできた。
こっちのホーンラビットも元気にモヒモヒしている。
目の前にホーンラビットが二匹、どちらも同じように生きている。材料の有無で、能力などに違いは無いようだ。だが、予想通りDPに違いがあった。
無からの『創造』がDPを200消費したのに対して、材料有りだと僅か30で済んだのだ。
血肉の分のDPが30、ということだろうか。
取りあえず、材料の有無による違いは大きいということが分かった。
「マスター」
うおっ! こいつらも喋るのか?
(えーと、お前達はダンジョンの中にいろよ、外は危ないからな)
「ハイ」
喋る兎、ね。試しに『創造』したけど、どうしようかな。
戦闘力は期待できない、けど眷属を食うのは嫌だ。
仕方ない……ペットみたいに飼うか。可愛いからアリだな。
おっと、もう一つの試みはどうなったかな?
(お前達の性別は何だ?)
「オス」
「メス」
(おおっ! こっちも上手くいったか!)
実は、生み分けができるか試してみたのだ。
実はコウガは十体いるのだが、オスメスが分かれていた。
オスが三体、メスが七体だったのだ。ちなみにキバはオスである。
ブラッドウルフは、見た目ではオスメスの区別が付かなかったのだが、気になって聞いてみたところ、オスとメス両方いたのだ。俺の眷属は普通の生まれ方をしているわけでは無いので、性別が無いかもしれない可能性もあったのだが、余計な心配だったようだ。
オスとメス、こうなってくると、あとは繁殖できるかが気になる。
二匹のホーンラビットを実験動物のように扱うのは気が引けるが……頼むだけ頼んでみよう。
(お前達が嫌じゃなければ……子孫を残してもらいたい。これは強制じゃない、断ってもお前達に不利になるようなことはしないから。勿論、産まれた子供は保護する)
「ワカッタ」
「ガンバル」
(……すまん)
うう……。兎とは言え、話ができる相手に子供を作れって言い辛い。
本人達が了承してくれても、後ろめたいものを感じる。
取りあえず、二匹のために巣穴っぽいものがいるよな。
俺は『生成』で大広間の隅に穴を開けてやった。直径は小さめ、奥行きは広めの穴だ。
穴の周りには草を大量に生やしておく。これで、ぱっと見る限りでは、穴があるとは分からないだろう。
(あの穴はお前達にやるよ。好きに使って良いからな)
「アリガト」
感謝してくれているようだ。
俺も、ちゃんとした扱いをしてやらないと。
……その後、子供ができたら報告してもらうように言っておいた。
あとは二匹に任せて様子を見よう。
どうやら夜も明けてきたようだし、今晩はこれぐらいにしておくか。




