第21話 食事の席で
コボルトが仲間に加わったので、改めて自己紹介をしておこう。
(改めて自己紹介しとこうか、俺はマスター。後ろにある穴――ダンジョンの主ってところだ。次、ノアもキバも自己紹介してくれ)
ノアがプルンと震えて自己紹介を始めた。
「ボクは、ノアです! マスターの僕として、マスターに敵対する者は容赦なく潰します!」
おい、ノア。コボルト達の顔が引き攣っているぞ。
ゴブリンとの戦いを見てたら冗談じゃないことが分かる。
さりげなく脅すんじゃない。
「我が名はキバ、主に仇なす者には死あるのみ!」
こら! 二人とも、洒落になってないって!
俺の左右でそんなこと言ったら、俺が服従しろって言ってるみたいじゃねーか!
(あー、二人とも発言が過激なのは気にするな。コボルトに手を出さないように、きつく言っておくから心配するな)
「……」
(あと、ダンジョンの中で見たな? あのスライム達はコノアって言うんだ。呼ぶ時は、ちゃんとコノアって呼んでやってくれな)
えーと……あとは、ブラッドウルフが十体なんだけど、名前を付けてないし、そのままブラッドウルフが良いのか?
いや、折角の俺の眷属なんだ、コノアみたいに別の呼び方を考えよう。
うーん……紅い牙、コウガだな。
(キバの後ろに並んでいるブラッドウルフ達は、コウガと呼んでやってくれ)
これに反応したのは意外にも、ブラッドウルフ――コウガ達だった。
「ウオオ……。ワレラハ、コウガ……」
「ナント、アリガタイ……」
「イッソウノチュウセイヲ……」
こいつら、喋れんの?
そう言えば、当たり前のようにキバも喋ってるけど、狼って普通喋れないよな?
(キバ、今更だけどお前ら話すことができるのか?)
「我々はマスターより生み出された存在。言葉を話すなど、容易いことです。」
そういう問題か?
確かにスライムのノアも、コノアも、俺の影響を受けて常識が身に付いてるんだったな。
よし、あんまり深く考えないようにしよう。
そういうものなんだろ。
(すまん、話が逸れたな、俺達の方は以上だ)
「では、我々コボルトも自己紹介をさせていただきましょう」
マックスをはじめとしたコボルト達の自己紹介が始まった。
コボルト達は名前の他に、各々が得意とすることを教えてくれた。
悪いとは思いながら『鑑定』してみると、皆得意なものに関係するスキルを持っていたのだ。
『植物学』、『木工』、『薬学』、『狩猟』、『縫製』、『菌類学』、『料理』等々……。
良いぞ! これだけ多様な人材がいれば、色んなことに挑戦できそうだ。
……コボルト達の自己紹介が終わった。
五十人のうち、男が二十三人、女が十九人、子供が七人だった。
コボルトは三十歳程で寿命を迎えるらしく、マックスでさえ十七歳というのには驚いた。十歳で成人とのことだ。
老人と言える年齢の者は、この場にいない。
ココが先日言っていた、魔獣から逃げ遅れた人の多くは老人達のことだろう。
こちらも詳しく聞くつもりは無い。
それじゃあ、今後のことを話そうかな。……の前に。
(キバ、何でお前達は肉を食べないんだ?)
キバやコウガ達の前にも焼かれた肉が置かれている。
コボルト達の配慮だろう、結構な量が用意されていた。
「我々はマスターの力を分けていただければ、食事など不要です」
俺の力、それってDPのことだろう。
つまりノア達と同じで食事が要らないということだが……。
(食ったら死ぬ、っていうわけでもないんだろ? ちょっと食ってみろよ)
「マスターがそう仰るならば」
キバ達は目の前に置かれた肉に齧り付いた。
齧った瞬間動きが止まったが、一瞬置いた後、猛烈な勢いで食べ始めた。
目の前にあった肉の塊は数秒もしないうちに消えている。
食べ終わったキバは、思い出したように尋ねてきた。
「マスター、食事というのはここまで満たされるものなのですか?」
(ああ、食べなくて良いからって食事の楽しみまで捨てる必要は無いぞ)
コウガ達も、食べる喜びを知って困惑しているようだ。
気を利かせたコボルト達が、次の肉を用意してくれている。
キバも目の前に肉を置かれると、視線が肉の方へ向いている。
食べるように促すと、また一瞬で肉が消えた。
まあ、キバ達が肉好きになるのは狼だから当然だろう。
次はノアだな。
(ノア、お前も食事を楽しめるようになれないか?)
「ボクが、ですか? ……以前、味覚を試したんですが、不快な気持ちになりました」
(試したのか? 何で試したんだ?)
「初めに草で試したのですが、苦かったです。次はマスターの真似をしてグラススネークで試してみましたが、草よりも気分が悪くなりました」
何故に、草と蛇で試したんだ?
まあ、食事の意味が分からなかったら適当に試すものかもな。
ノアの食事の思い出が草と蛇では可哀想だ。
ここは俺の出番だな。
(ノア、俺が触った所に味覚を再現できるか?)
「マスターが触れた所ですか? 大丈夫です!」
じゃあ、これを試してみるか。
俺は蟻の蜜を出して自分の前足に塗った。
蜜を塗った足でノアに触れてみる。
……どうだ?
……
ノアが固まった。
(ノア? もしかして気分が悪くなったのか?)
「マ、マスター! これがマスターを惑わした蜜なのですか!?」
(あー……そうだな。確かにそうだ)
惑わした……否定はできない。
シロップアントの一件でノアには恥ずかしいところを見せてしまった。
あの時に、蜜のことを正直に話した記憶がある。
ノアも覚えていたのだろう。
「マスターが、これを求めていた理由が分かりました。これには命を賭ける価値がある……」
命? そこまでじゃないだろ。
そんなに気に入ったのか?
(気に入ったんだったら、これからも蜜を用意するぞ?)
「本当ですか? 是非お願いします!」
よし、ノアもキバも楽しみができたようだな。
コノアにも後で蜜をあげてみよう。ノアの反応を見る限り、喜んでくれそうだ。
コボルト達も、ノアやキバ達の食事する姿を見て親近感を持ってくれたみたいだ。
にこやかな表情を向けてくれている。
打ち解けるまで、そう掛からないかもしれない。
(あっ! すっかり忘れてた。説明するって言って、説明してなかったな)
ゴブリンの襲撃の時も後で説明するって言ってたのだ。
散々、コボルト達の目の前で不可思議なこと連発していた。
これから仲間になるんだから、俺のスキルのことを、ある程度は説明しておかないと。
俺は自分がダンジョン自体であることや、転生したことは隠したまま、力のことやこれからの目的について話した。
(なあ、マックス、こんな力って聞いたことあるか?)
「むう……言い難いのですが、マスター様の力は『魔窟』に似ている気がしますな」
(魔窟? 何だ、それ?)
「洞窟や廃墟に魔素が充満することで魔窟となることがあるそうです。魔窟ではゴブリンなどの魔人や魔獣が次々と湧き出てくるという噂です」
(うーん、俺は魔素とはあんまり関係無いみたいだし、別物だろうな)
俺はDP、つまり次元力が俺の力の根源みたいだし、魔素一括りじゃないからな。
でも、魔獣とかが湧き出る、か……。
『創造』を垂れ流しにしたら同じことができるだろうな。
全くの無関係っていうのも違いそうだ。
いつかは、その魔窟とやらに出向くことになるかもしれない。
まあ、いつかはいつか、だ。
それよりも今後のことを考えよう。
(魔窟の件は置いといて、明日からのことを決めようか)
「そうですな、マスター様の目的のために、微力ながら我々も協力させていただきましょう」
(おい、そうじゃないって。俺の目的よりもお前達が安定した生活を送れるようにする方が先だ。結果的に俺のためになるだろうしな)
「……貴方は本当に慈悲深いお方だ。」
何なんだ、この世界は……。
ノア達だけじゃなくて、誰もが俺を過大評価してくれやがる。
俺が変なのか?
いちいち俺を担ぐ連中を嗜めながら、今後のことを話し合った。




