第203話 意外な役割
新たな補助核が完成した。
俺の眼前で淡い光を放つ球体こそが三つ目の補助核。元は黒紫の核だった面影など微塵も感じさせないほどに神秘的で美しい。
いやはや、我ながら良い仕事したよ。ほんとに。
ちょっと熱が入り過ぎた感が否めないが、それだけの機能がこいつにはある。前に作った補助核もそうだけど、こいつも俺の能力に大きく貢献してくれることになるだろう。
そんな補助核の機能を確認する……前に、おさらいとして。
最初に作った補助核は、支援者の機能を複製したもの。支援者たっての申し出で、ダンジョンの制御に機能を回すために作った補助核だ。
次いで作った方の機能は『反映』と『自動演算』。今では『高速思考』、『並列思考』も加わった俺のもう一つの脳とも言える代物だ。
その二つともが、言ってしまえば俺、もしくは支援者の代行するものとして作られた。
それじゃあ、今回も誰かの代行になるものにしようか? と頭を過りはしたが、それよりも欲しい機能があって、なおかつ実現できそうだったことが分かったのでそっちを優先することにした。
それを一言で言うなら……『削減』かな?
何を『削減』かというと、ズバリ使用DPの『削減』。そこまで言うと『省エネ』の方がピッタリかもしれんがね。
ともあれ、この『削減』機能があるのと無いのとでは状況が随分変わる。
何と言っても、俺の主だったスキルってのはDPの消費がネックなのだ。
『創造』や『付与』、それらに至っては消費量がとんでもない。その分、効果も絶大ではあるんだけど。
そのネックの部分を緩和できるとなれば、しない訳が無いだろう。
元にした核が持っていた『変換』やらをいじくり回して、無駄な部分を精査、還元するように書き換えればあっさりできた。自爆なんて余計な機能を排除した余白もあるので、改良する余地すらできてしまったぐらいにな。
今のところ具体的にどれぐらいの効果があるかは分からんが、そこはこれからってなもんだ。見積もりの段階でも俺の期待に応えてくれることは分かってる。今はそれで十分だろ。
……さてさて、自分の仕事にいつまでも酔ってる場合じゃなかったな。
「おっと、いかん。ちょいと急いだ方が良さそうだ」
実はタイムリミットが迫っている。
猶予は……一時間も無いか。焦るほどじゃないけど、のんびりもしてられないぐらいかな。
別に俺が作業に集中し過ぎたせいってわけじゃないぞ? 当初のタイムリミットが間違いだったのだ。
俺はてっきり夜明けの信号までに間に合えば問題無いと思っていたんだけど、核の『解析』を進める中で判明した。
本当のタイムリミットは、核ルームが存在を維持できるまでの間。核ルームがなくなってしまえば、俺がどう足掻こうとも作戦は失敗に終わるところだったらしい。
「とにかく移動だな。向こうに着きさえすればどうにかなるし」
そんなわけで、俺は核の世界の外に出た。
ちなみに、補助核は俺のダンジョンの核ルームに移動させてある。今頃は他の補助核みたいに俺の核の周りを回ってることだろう。
……
……間に合った。多分、結構ギリギリで。
再び訪れた核ルームは、見た目こそ変化が無いが……存在が不安定な感じがする。
どうやら核を持ち出したことで、空間を維持する機能の限界が近いらしい。
そのあたりも『解析』で分かったこと。核ルームには核と維持するための魔素が必要だとか何とか……。
ともあれ、まずは空間の再固定だな。
俺の考えどおりなら、魔素よりも次元力の方が空間の固定向き。なので――
「――『次元力操作』!」
こういったことは『栄光の手』よりも『次元力操作』の方が向いているからな。遠慮せず一気に行く。
程なくして、俺の全身から放たれた次元力は核ルーム内を満たしていった。
空間の固定も問題無し、暫くどころか当分は部屋を維持できるだろう。
「さて、と」
一息吐きたいところだけど、仕事はまだ終わっていない。
俺は『収納』から淡く光る球体を取り出して、ゴブリンロードの座っていた玉座の前まで歩みを進めた。
この球体は核のダミー。核ルームの空間を固定する機能と信号を発生させる機能を、核からそっくりそのまま移したもの。
ああ、あと部屋を維持するための次元力をダンジョンから供給されるラインも組み込んでたな。
とどのつまり、このダミー核は俺のダンジョンが存在する限り、この部屋を維持しながら信号を送り続ける装置ということになる。
これを玉座から落ちないように固定すれば……よし、完了。
以前と同じ時間、同じ信号を発生させ続けてくれることだろう。
これでようやく一息吐ける。
俺はその場に腰を下ろして、大きく伸びをした。
「やれやれ……思えば変なところを見落としてたもんだよ」
思い起こせば、ドゥマン平原を旅している時には信号なんて感じなかった。ゴブリンの巣を探索して初めて信号に気が付いたのだ。
たまたま信号が向けられた方向にいたから受信できた……なんて可能性も考えたが、巣のあちこちから受信した状況を鑑みると、全方位に向けられてるようにも感じられた。つまり、指向性なんてないってのが俺の出した最初の結論である。
じゃあ、外で受信できないなら何処に向かって送ってる? 巣の何処かか? って話になるわけだ。
そんなわけないだろ、って思うのが自然かもしれないが……これがある意味、正解だったりするんだよな。
何せ、核が信号を送っていたのは外にじゃなくて、核ルームにだったんだから。
「うーむ……まさか、この部屋そのものが送信装置だなんて思いもしなかったな」
こんなもん、気付く訳無いだろう。
核は信号の発生源、核ルームが送信装置。そして、そこから物理空間を無視して別の場所へと信号を送っているらしいのだ。
俺が感じた信号は何かというと、残滓みたいなものらしい。言うなれば漏れ出ただけの分。探索中に感じて地上で感じなかったのは、魔素の濃度の差が影響していたらしい。
そして、肝心の核ルームからの送信先については……もう少し『解析』が必要だな。
座標のようなものがあるにはあったが地上のものとは違うらしく、どちらかと言えば俺のダンジョンのような空間、異次元に近いようだ。
とはいっても、異次元にしては空間の隔たりが弱い気がしないでもないような……うーん……。
「まあ、焦りは禁物か」
考えても分からないものは深く考えない。いつものことだ。そこに頭を悩ませる余裕があるなら、もっと別のことに目を向けよう。
差し当たっては……俺のステータスの変化とか?