第195話 ゴブリンの巣に潜ってみた
俺の仕事、深夜の部。それは勿論、村を脅かすゴブリンを一掃することを目的としている。
具体的に何をすれば目的が達成になるのかというと、村の近くに巣食うゴブリンを排除すれば終わり。巣がどこにあるのか、いくつ存在するのかも分からないが……まあ、シラミつぶしにすれば良いだけだ。そんなに難しいものじゃない。
……というのが、俺が当初抱いていた考えだった。
しかし残念ながら、事はそう単純なものではなかったようだ。
思い起こせば、活動初日のこと。村を出た俺は、難なくゴブリンの巣を見つけることができた。
(夜襲をかけるのは気が引けるが……正々堂々とかに拘っても仕方が無い。さっさと終わらせてしまおう)
はてさて潜ってみると、そこにはまあ……いるわいるわ、ゴブリンが。
夜間ということもあって小部屋で眠りに就いている者がほとんどではあるが、中には無意味に通路を彷徨いているやつなんかもいる。そんなやつから手当たり次第、俺は掃討を開始した。
その時の状況はというと、迎撃しようと試みるゴブリンもいたにはいた。が、そんなやつは初めだけ。
俺が驚異と分かるや否や、どいつもこいつも逃げることに必死だ。あっという間に巣の中は蜂の巣を突いたような大騒ぎになっていた。
(しかし、巣ともなると流石に……)
数が数、おまけに広い。逃げるゴブリンを追い回すのに思った以上に手間が掛かっている。
一晩で掃討するのもできんことはないが、少々面倒だな。
ちょうど夜明けも近づいてきたことだし、そろそろ切り上げて翌日出直そうか……と考えた、まさにその時だった。
(ん? 今のって……)
一瞬だけど、確かに感じた。……魔窟の核の気配を。
(本当に一瞬だ。森の、ビークみたいな感情を感じたわけじゃかったけど、気配は同じだった。カラカルの時も同じものを感じたから間違いない。ゴブリンの巣の何処かに核がある……?)
感覚的には、核は何かしらの信号を何処かに送ったようにも感じた。それを俺がたまたま受信した、といったところだろうか。
正確な位置は、はっきり分からん。もっと深い場所? 方角は西……かな。
距離の遠さからして、俺が今潜っている巣じゃない可能性もあり得る。
(うーむ……どうにもこれは、村を脅かすゴブリンを掃討すればいいという話ではなくなってきたぞ……)
魔窟の核が絡んでるとなると、平原のゴブリンは魔窟から生み出されたものの可能性もある。
もしかしたら、俺が探している黒幕の仕業である可能性も高いのだ。
目的は分からないが、森の時のことを思い出せばロクでもないことは明らか。現にケンティムの村は被害を受けてるしな。
(何はともあれ、調べてみないことには何にも分からんか)
その日はそこで終了。意外な収穫によって計画の見直しを余儀なくされた。
二日目からはもう、俺一人でなんて考えない。
調査対象が魔窟ともなれば、遺恨のないように全力をもって臨むべし。
そんなわけで、まず考えるべきは調査を手伝ってもらうメンバーの選出。
とはいっても、俺の中でとっくに決まっていたけどな。
「ワーイ!」
(コノア……遊びじゃないんだぞ)
俺が手伝ってくれと頼むと、この調子だ。
内容も説明したにはしたが、ちゃんと理解してくれてるのかな……?
「センメツ! センメツ!」
(うおおい、違わないけど違うぞ!)
ぬぬぬ、ちょっと心配になってきた……。
俺がコノアに頼んだのは、巣の浅層部の調査。ただし、俺が潜った巣だけじゃなくて、旅の道中で見つけた巣も含めての調査だ。
何せ、核の位置を正確には掴んでいないのだ。他の巣にあるのかもしれない。
しかし、俺が一つ一つ当たっていくとなると効率があまりにも悪過ぎる。
なので、俺が怪しいと思った巣以外の調査をコノアに任せることにした。勿論、深入りは無し。何かしらの異変を感じたら、すぐさま俺に報せることを前提に。
さて……なぜ今回こんなことをコノアに頼んだかというと、その理由はこの『前提』にある。
(コノア、確認するけど、コノア同士ならどれだけ離れていても連絡できるんだな?)
「デキルヨー!」
これは俺も最近知ったことなのだが、コノアは『意思統一』の効果で距離の如何に関わらず、他のコノアと意思疎通が図れるらしい。
「意思疎通というよりも思考そのものを共有しているので、どのコノアも同じコノアですよ」
と、ノアは補足で教えてくれたが……。
それって俺の『並列思考』に似ているんじゃないか? っていうか、俺が二人ないし、頑張って三人分の思考で精一杯なのに対してコノアは百体以上? ……嘘だろ。
というのが、俺が『意思統一』の隠された能力を知った時の素直な感想だ。
「それと、コノアはお互いの位置も分かるので、別行動で探索する時が一番真価を発揮するかもしれませんね」
なんて付け加えられた時にはもう……コノアを見る目は変わったな。
ちなみに、当初懸念していた戦闘力の方も問題無いようだ。
コノアの戦闘方法は、最初期のように体当たりがメイン……ではなく、まさかの『収納』が切り札。
(ええっと……『収納』の中に『毒液』と『麻痺液』、あと使ってない剣とか色々いれてあるから)
「バレット!」
(おおい、試し撃ちするなよ)
……コノアの攻撃は『収納』に入れてあるものを『魔力放出』で撃ち出すもの。
魔力だけなら痛いで済むが、これに『毒液』やら何やらを加えるのだ。状態異常や打撃斬撃の付与、下手な魔術よりも驚異となりえるだろう。
そんなコノアを百体、ゴブリンの巣の調査に参加してもらうことにした。
やり過ぎ? 知らんな。ゴブリンには悪いが、恨むなら巣に核が存在していることを恨んでくれたまえ。
(先に言ったとおり、犬の俺が調査できるのは夜だけだから。昼間はコノアだけになるけど……)
「タノシミー!」
んー……手伝いを頼んでて何だけど、ちょっと心配になってきたな。
コノアを見てると、遠足に行く子供みたいにしか思えんぞ。