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第189話 ドゥマン平原を行く ゴブリンの巣


「グゲグゲ」

「グゲゲ」

「ゲッゲー!」

「ゲッゲー!」


 ドゥマン平原で見つけたゴブリンの尾行を始めて、すでに三時間ほどが経過している。

 その成果はというと……無いに等しい。


 なにせこいつらときたら、発見した場所からろくに動きやしねえ。

 少し歩いては地面に座り込んで、何やらグゲグゲ言うばかり。当然、俺には何て言ってるのかさっぱり分からん。


 見ている限りではジョークの類か? 一匹が何か言うたびに他のゴブリンが笑ってるっぽい。だからどうしたっていうものでもないけどな。


 他にしたことと言えば……食事かな。こいつら、そこらに落ちてるものを拾っては口に入れていた。

 虫、草、何か分からん土くれ、虫の死骸なんかも平気な顔して食ってたな。

 こいつらの『悪食』は伊達じゃないってことなのだろう。見てるこっちは食欲が失せていく一方だけど。


 そんなゴブリンの行動を観察しているうちにも日は傾き、辺りは薄暗くなっている。

 当のゴブリン達も、そのことに気付いたようだ。一匹、また一匹と、意味不明な談笑をやめて立ち上がった。


「グゲ」

「グゲ」


 今の「グゲ」はどういう意味なんだろう。

 『帰る』か? そもそも、こいつらって夜になったら住処に帰ったりするもんかね?


 よくよく考えたら、俺ってゴブリンの生態なんか全然知らん。こいつらにも『夜目』があるし、夜行性の可能性だってあるわけだ。ともすれば、夜だからといって住処に帰るとは限らなくなる。


(うーむ……このまま尾行続ける意味ってあるのか?)


 尾行すれば平原にゴブリンがいる意味が分かるかと思ったんだけど、ただ自然に存在するだけなら意味なんて初めから無い。

 俺が平原にいないはず、だなんて思いこんでたのが尾行のはじまりだったからな。

 このまま収穫がなさそうなら、いい加減切り上げることも考えるか……。


 そう思い始めたところで、ゴブリンに変化が起きた。

 今の今まで知性の欠片も見せなかったゴブリンが、隊列を組んで歩き出したのだ。


(いきなり何だ? 何かに操られてるってわけでもなさそうだけど、不自然過ぎる。歩き方も全然違う。真っ直ぐ何処かに向かってるっぽい。これはもうちょい尾行した方が良さげだな)


 様子が一変したゴブリンの後を付いていくこと、三十分。俺には目的地が何なのか見当が付いた。


 恐らく、住処だろう。

 平原のあちらこちらから、別のゴブリンと思しき気配が一箇所に向かって歩いているのが感じ取れるのだ。

 それも、俺がつけている五匹と同じように整然とした隊列を組んだ気配で。


 その光景、一言で言うと異様だ。

 姿こそ見えていないが、隊を組んだゴブリンが一箇所に向かって進んでいる。俺が以前、森で戦ったゴブリンの群れの動きと比較しても、同じ種族のものとは思えない。


(見た目は同じなのに、習性が違うなんてことあるのか?)


 そうは思っても、目の前で起きていることが真実だろう。


 ともあれ、今は尾行の他にできることもないのだ。

 俺はそのまま気付かれないように、ゴブリンの後ろをつけていく。


 ほどなくして、俺の眼前にゴブリンの住処が現れるのだが……。


(住処っていうか、巣だな。見た感じは)


 俺のイメージにあるゴブリンの住処は、何かしらの建造物、または洞窟のような地形を転用して住み着いているものだった。

 しかし、俺の視界にあるのは……穴だ。平原の地面にぽっかりと空いた、ただの穴。蟻の巣をでかくしたような穴に、集まったゴブリンが整然と入っていく。


(うーむ……蟻よりもちゃんとしてやがる。本能でできるレベルとは思えんぞ)


 巣の出入口は複数のゴブリンが同時に出入りできるほど大きくはない。にも関わらず、無用な混雑を避けてか、順番を守って一匹ずつ。

 そのおかげか、集まったゴブリンはそう時間も待たずに全てのゴブリンが中へと収まっていた。


 数はなかなか多い。百から先は面倒だから数えてないけど、百をちょっと越えたぐらいかな?

 その中に変わったゴブリンはなし。全部が全部、ただのゴブリンだった。


 ただ、外に出ていた目的は何となく察しが付いた。

 ほとんどが狩り目的で彷徨いていたのだろう。俺が後をつけていたやつら以外、大体の群れが何かしら収穫したものを手に持っていたからな。


 ゴブリンにも真面目なやつがいれば、不真面目なやつがいる。俺が観察してたのが、ただ不真面目だったということらしい。


 まあ、そんなことはどうでも良いか。

 周囲からゴブリンの気配が消えたなら、早速巣穴の調査に入るとしよう。


(さてさて、巣の大きさはどんなもんかね)


 俺は隠れていた草むらから姿を現し、頭を突っ込んで中を覗き込む。

 流石に暗いけど、『夜目』があるので問題無し。結構奥まではっきり見えるのだが。


(ううむ、見た目よりも奥は深そうだ)


 内部はまさに蟻の巣の様相を呈していた。

 巣穴から続く道は曲がりくねり、途中でいくつもの分岐があることが見て取れる。その奥からはそれぞれ、ゴブリンの反応が多数。部屋にでもなっているのだろうな。


 見える範囲からでも、横だけでなく縦にも続く立体的な構造だということは分かるのだが、問題はそれがどどれぐらい深い巣穴かどうか。

 視覚からでは計りかねるので、察知系スキルを試すものの……。


(駄目だ。ゴブリンの気配で部屋の分布がどうなってるのか感知できるけど、巣の全貌までは掴めん。俺のスキルの範囲よりも奥まで続いてるみたいだな)


 あくまでスキルで感じた印象を元に考察すると、縦よりも横に長い巣穴。縦の深さは数十メートルほどで、横には数百メートル以上は伸びている。下手したらもっと、キロを超えるかもしれないな。

 その節々に部屋があるようで、感知できるゴブリンの総数は……千いってるんじゃないか、これ。マジで蟻みたいにワラワラいるぞ。


(うーむ……どうしたもんか。入って調査するって手もあるけど、そんなことしてたらテンプルムにいつまで経っても辿り着けそうもないな)


 誰か代わりに調査を頼むっていうのも考えたけど、「誰に?」って話になる。


 この巣穴の通路は当然ながらゴブリン用。ゴブリンであっても、一匹が通るので精一杯なほどに狭いもの。

 俺ならともかく、コボルトやトードマンでは移動すらままならないだろう。キバやビーク達なんか、入ることすら不可能だ。


 無理やり適任者を探すならノアぐらいしか思い当たらんが……却下。

 ノアはもう一人の俺の世話で忙しい。言い換えると、ダンジョンに残ってもらわなければ俺が困るのだ。

 

 サイズだけならコノアやラビ、ビビ達ホーンラビットもいるんだけどな。

 無論、こっちも却下。危険なところに派遣できるわけがないだろう。


(まあ、ここであれこれ悩んでても仕方ない)


 ドゥマン平原の北部にゴブリンの巣があることは判明した。

 その情報は、森で生活している俺にもリアルタイムで伝わっている。本格的な調査は、向こうの俺が指揮することもできるのだ。なので、犬の俺がするのはここまで。


(取りあえず、記録代わりに俺のダンジョンでも繋げよう。調査の起点にもできることだしな)


 ゴブリンの巣穴のすぐ側に、俺のダンジョンの入口を繋げて……と。


(さて、尾行ミッションはひとまず終わりだ。収穫はゴブリンの巣の発見。まあまあってとこだろ)



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