第184話 ポーラの望み
今回は短めになります。
「俺の力が欲しいって……」
待て待て、それってどういうこと? 俺を殺して能力を全部奪いたい的なやつか? ポーラの表情からじゃ、言葉の真意はさっぱり分からん。
俺はポーラの言葉に若干身構えつつ、アトリアさんの方に目を向けるが……アトリアさんも分からないみたいだな。目に見えて動揺している。
そんな困惑する俺とアトリアさんを置いて、ポーラは俺を見つめるばかり。どうやら攻撃してくるような意思は見えないが……。
「あなたは他者にスキルを与えることができるって聞いてる。だから、あなたの力が欲しい。あなたの持つスキルが」
「あー……なるほど」
そういうことか。ポーラが言ってるのは俺の『付与』のことだったんだな。
確かに俺には他人にスキルを与えることができる『付与』なんてスキルがある。
『付与』はスキルを与えるだけでなく、名前を与えて『名付き』にしたり、進化を促すことだってできる有用なスキル。
それと同時に、俺が多用することに躊躇を覚えるスキルでもある。
いかんせん、『付与』には大量のDPが必要なのだ。進化や名前を与える場合は、眷属を新たに『創造』する時に匹敵するほど大量のDPが。
それだったら、『付与』するよりも『創造』することにDPを回したいってのが、俺の本音。
実際、そこまで必要に迫られるものでもないしな。眷属に対する報奨あたりにしか使うつもりはない。
加えて、眷属達は眷属達で『進化は自力で、望むスキルは自分で習得』という目標を掲げているのだ。そこに俺が余計な真似をするのも無粋ってもんだ。折を見て使う以外には、封印するのが妥当ってとこだろう。
とまあ、俺の事情はさておき、今はポーラだ。
「ポーラは『付与』して欲しいんだな?」
「……」
無言で頷くポーラ。少しばかし上目遣いなのは狙ってのことなのか? そんな目で見られたら、何でも与えてしまいたくなる衝動に駆られるが、ここははっきり言わなくては。
「ポーラ、すまないけど無理だ」
「無理? どうして?」
どうしてもって言われてもなぁ……。
「『付与』なんだけど、『創造』したものにしか使えないスキルなんだ。ビーク達は俺が『創造』した眷属、だから『付与』はできる。だけど、ポーラはそうじゃないだろ? 俺が『創造』したわけじゃないから、ポーラには『付与』できないんだ」
とはいえ、他人に試したことがあるのかって聞かれたら、答えは『無い』。なので、できるかどうか分からんというのが実情ではある。
はじめに受けたチュートリアルの説明で、『付与』はそういうスキルだって認識してるからな。今の俺ならもしかしたら……っていう考えもあるが、それをポーラに試すわけにはいかんのだ。
取りあえず、今は眷属にしか使えないってことで納得してもらうしかないだろう。
しかし……ポーラはなんでスキルなんかが欲しいんだ? それ、聞いてみるか。
「なあポーラ、今の生活で足りないものがあるのか? スキル以外で済むなら何とかするけど」
「スキルじゃないと、わたしの望みは叶えられない。わたしが欲しいのは『創造』と『生成』。他の何かで変えられない」
よりにもよって『創造』と『生成』か。なら、なおさら難しい話だな。
「言いにくいんだけど、ポーラに『創造』は無理だと思う」
「……!」
ここにきてはじめて、感情らしい感情を見ることができたな。
ポーラは俺の言葉を聞いて悔しそうに唇を噛み締めている。
しかし、無理なものは無理だ。誤魔化すために言ってるわけじゃなく。
「さっきの話の補足になるけど、『付与』は『創造』したものにしかできないってだけじゃない。対象に適正がないと『付与』もできないんだ。俺だってそう。この体は『化身』っていうスキルで創った体なんだけど、体に適正の無いスキルは『付与』できない。つまり、俺自身でも使えないスキルがあるんだ」
「わたしに、『創造』と『生成』はできない?」
「もしかしたら、『生成』はできるかもしれない。けど、『創造』は無理だろうな」
もしも俺以外に『創造』が使える者がいるなら、とうに『付与』している。だけど、俺の眷属の中でも『創造』の適正がある者はいないのだ。
種族的に一番適正がありそうなノアでも無理、最も想像力のあるビークでも無理だった。ポーラに使えるとは到底思えん。
そんな俺とポーラのやり取りを見かねたのか、アトリアさんがポーラに優しく問い掛けた。
「ポーラ、あなたは何を望んでるの? あなたが何をしたいか分からないから、マスター様もどうして良いのか分からないわ。全部話してちょうだい」
「……」
そうだな、アトリアさんの言うとおり。今のままじゃ、ポーラが何をしたいのか全く分からん。
というか、さっきからポーラの答えを聞いていると、俺に与える情報をできるだけ絞ろうとしているように思える。
これはアトリアさんの言葉に便乗して、詳しく話を聞く必要がありそうだ。
「俺も聞きたいな、ポーラの望み。それがどんなものでも協力するって約束するから、全部教えてくれないか?」
「わたしは……」
俺とアトリアさんの言葉を受けて、ポーラはおずおずと口を開いてくれた。
その内容を聞いて、俺とアトリアさんは思わず顔を見合わせる。
……これは内緒にしたくなるわけだ。
どうやら、ポーラは俺のダンジョンをこっそり改造しようとしていたらしい。