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第179話 視察続行、各集落へ


 自由人アルカナと別れた俺は、そのまま視察を続行。グラティアの次は北に位置するサナティオへと足を運んでいた。


 グラティアは交流の中心地。それじゃあサナティオは何かというと、ズバリ職人が集う場所なのだ。


 サナティオは霊素を放つ巨岩をシンボルとしており、所々にコボルトの職人達が精を出す作業場が立ち並び、開墾された土地には薬の材料となる植物が栽培されている。


 そんなサナティオも、この一か月でさらなる変化が起きていた。


 ひと目で分かるところと言えば、敷地をかなり拡張したところかな。


 ヘルブストの森のコボルトが集まったことで一気に増えた職人の数。そこにトードマンも加わったのだ。人が増えたら必然的に場所を取る……ってなわけで、段階を経ながら土地が拡張されていったのである。


 今ならひょっとすると、かつて大集落と呼ばれていたアモルよりも大きいかもしれないな。

 まあ、どれだけ大きくなっても俺が訪れるのは大体同じ作業場なんだけど。


「ペス、調子はどうだ?」


 俺はコボルトのペスがいる作業場を訪れていた。


 ペスは薬師、出会ってから結構な頻度で世話になっているコボルトの一人なのだ。

 そして今回のカラカルとの交流に際しても、薬品類の提供といった面で一翼を担っている人物でもある。そんなペスなのだが。


「マスター様、ちょうど良いところに! これ、見てください」


 俺が声を掛けると、ペスは満面の笑みを浮かべて走り寄ってきた。

 その手には、紙で包まれた小さな物体が。


「試作品です。薬効は通常種と変わりありません」

「ほうほう、なるほど」


 俺はペスの持つ物体を受け取り、包装紙を剥がしていく。

 中身の性質からか、紙がひっついて剥がしにくいな……。


「おお……!」


 包装紙に包まれていた物体。見た目は、ちょっと緑がかったべっこう飴といったところか。

 触れると……やっぱりベタベタしてる。けど、取りあえず口にポイだ。


「うん、甘い!」

「そうですか、それは良かったです! 苦味が邪魔にならないようにしつつ、薬効はそのままに。味と薬効のバランスに苦労しましたからね……」


 俺が口に入れたものの正体は、新種のポーション。飴にしたタイプのものだ。


 というのも、俺達が使うポーションは液体、基本的に瓶へ詰めたものを運用している。しかしそれは、保存や運搬がしやすいとは言い難い。


 そこで考えたのはポーションの固形化。案として浮上したのは、錠剤か軟膏かの二択だった。 


 ペスによると、軟膏は軟膏で鋭意製作中とのこと。それよりも俺の要望に応えて、錠剤タイプ……というより飴の開発を優先してもらったのだ。


「俺の用意した蜜と、ポーションを混ぜるだけで良いと思ったんだけどな。そう簡単にはいかなかったか」

「煮詰める工程がありますからね。焦げ付かせると薬効がほとんど無くなりますので、『料理』できる人の協力が必須でした」


 なるほど、やっぱり素人考えではそう上手くはいかないもんなんだな。


 だけど、ペスはやってくれた。薬効は勿論、味も良ければ問題無し。これで完成したといって差し支え無いだろう。ただ……。


「改善点は包装かな……。紙はひっついて、そのまま食べないといけなくなるだろ。紙以外のものっていったら……貝殻にでも入れてみるか?」

「なるほど、貝殻ですか。試してみます!」


 確か、ニッキ貝だったかな? 二枚貝の貝殻を容器にしたお菓子だ。

 俺も一度だけ食べたことがあるけど、味よりも貝殻の印象しか残っていない。そのおかげで、なんとなく今思い出せたんだけど。


 ともあれ、ものは試しだ。俺の意見に拘らなくても良いからと、ペスには引き続き試行錯誤を頼んで作業場を後にした。

 次に向かうのはアモル、コボルト達の大集落だった場所だ。


 アモルはコボルトの集落の中では最も変化が無い。というか、変わらないことに意味がある。


「コボルトにとって、大集落はかけがえのない故郷でもあるのです。時が過ぎても、かつての姿のまま。そうあって欲しい場所なのです」


 と、マックスとソフィから言われたのだ。


 勿論、俺は反対なんてしない。っていうか、大集落に関しては俺が口を挟むのもおこがましい。部外者なんだから、原住民の意見を尊重しないでどうするって話である。


 結果、アモルはかつての大集落とほとんど変わりない。魔獣の襲撃の傷痕は、見事なまでに消え失せていた。


 ただまあ、生活が便利になるものは取り入れてたりはするけどな。

 清潔な水場だったり、小さな用水路だったりはあった方が良い。変わらないことに固執し過ぎても良くないのだ。


 そんなアモルには、特にこれといった用事は無い。本当に様子を見て回っただけで、今回の視察は終了した。


 ……で、最後に俺は、トードマンの集落へと足を運ぶことにした。


 ぶっちゃけ、どのコボルトの集落も、ここの変化に比べれば大したものではない。


「ランディ、アーキィ……またやってたのか」


 俺が集落に入ると目に飛び込んできたのは、俺の眷属であるソイルリザードのランディとアクアリザードのアーキィがトードマンの集落の改装工事に勤しんでいる姿だった。


 二人は俺が来たことに気が付くと、作業を止めてこちらに向かってきた。


「マスター、どうでしょうか? 手前味噌ですが、なかなかの出来栄えだと自負しております」

「自信あり」


 ああ、うん……自信もって当然の出来栄えだよな……。


 なにせ、この集落は自然の要塞と化している。恐らくだが、ヘルブストの森にある集落で、ここよりいかつい集落は無いだろう。


 その全貌はというと、まずは要塞たらしめる堅牢な岩壁が目に入る。

 集落全体を包み込む岩壁は、直立しているのではなくドーム上。開口部がいくつかある以外は、ほぼほぼ岩なのだ。

 そして、岩壁の内側にもまた岩が。


 何と言うか……地上に洞窟を再現してるっていうのかな? 正直、意味が分からん。

 さらに意味が分からんことに、洞窟だけでは飽き足らず地底湖まで再現してやがる。


 一番似ている景色は、俺のダンジョンの一室。滝や川、地底湖がある部屋のスケールを、そのまま大きくしたように見て取れた。


 それであっても集落は集落。

 岩で囲まれていても、小川や地底湖が存在していても、トードマンの住まいは点在しているのだ。


 これ、本当凄いな。

 ダンジョンの中に村があるとしたら、こんな景色なんだろうって考えてしまうほどに。


「……凄いは凄い。純粋にそう思うよ。だけどなぁ、ここって俺のダンジョンじゃないだろ? あんまり無理すんなよな。特にランディ……お前、魔力切れで何度かぶっ倒れただろ」


 最初は本気で焦ったものだ。ランディがスキルを使いすぎて意識を失ったと報告を受けた時は。


 連絡を受けた俺が『次元力操作』でランディを応急処置したので事なきを得たものの、駆けつけた時のぐったりとした姿を見た時は最悪の事態を想定してしまったほどだ。


 そんなことがあったにも関わらず、同じ失敗をランディは繰り返した。

 その度に俺はランディを叱責したんだけど……。


「限界を超えれば、力が増す」


 ランディはそう言って聞かない。しかも、実際に倒れる度にステータスが上がっていた。


 こいつ、戦闘民族か何かか?

 

「だけど、不必要な無理は厳禁だ。お前の真似をして、他の眷属も似たようなことをやり出してるしな。変なブームは起さんでくれよ」

「了解」

「ちょうど、ここの工事も区切りを迎えましたしね。必要な無理を探していくとしましょう」

「然り。必要であればよし」


 違う、そうじゃない……って言っても、聞かんのだろうな。こいつらは。



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