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幕間 ーフロゲル編 天の機嫌ばかりは推し量れないー


 森を出て、はや一週間。ようやく旅の終わりが見えてきた……。


 今、ワシらの前には広大な畑が広がっとる。バルバトスが言うには、麦畑っちゅうやつらしい。

 で、その向こうにうっすら見える石の壁。あの壁の向こうに目的地のカラカルっちゅう街があるってわけやな。


「思いの外、大変なものでしたね」


 少しばかしやつれた様子のソフィさんが誰にともなく呟いた。


 まあ、ワシも同じ気持ちや。この旅、思ってたより全然しんどかったわ……。


 森を出た当初のワシは、旅の中での脅威は見しらぬ魔獣と、精々が食料と水の問題程度のもんと思ってた。


 せやけど、魔獣についてはすぐに心配いらんっちゅうのが分かったな。

 案内役のバルバトスの助言もあってのことやけど、平原に出る魔獣は大したものちゃう。森に比べたら脅威と呼べるようなやつらは出てこんかった。

 むしろ見つけたら道中の食料の足しにできる分、ラッキーぐらいなもんやった。


 そのおかげもあって、食料は全く問題無かったな。携行してた分と平原の魔獣で賄えば、不安になることもなかったわ。


 それよりも問題なんは環境っちゅうか……天候やな。


 この平原、日陰になるようなもんが無い。加えて、水場といえる水場も無い。これには流石のワシも参った。


 飲み水はまあ、なんとかなる。そのためでもある人選や。

 ワシとトドル、ククル兄妹の『水魔術』で水を作り出せば、道中の水ぐらいはどうとでもなるっちゅう算段やったんや。


 しかしなあ……こうもお日さんに照らされ続けるとあかん。ワシらトードマンにはよろしくない。

 連日、日光に晒され続けた結果、体力の低いククルが体調を崩してしまったんや……。


 これには流石のワシも焦ったで。

 完全にワシの誤算や。しかも、ククルに続いてトドルの顔色もようない。


 いよいよもってやばいかなって時に、水の女神様の加護やろうか……救いの雨が降ってくれた。


 いや、ホンマに助かったで。あんま柄じゃないんやけど、この時のワシは思わず女神様に感謝の祈りを捧げたわ。


 その雨のおかげで、ククルもトドルも回復できた。そこでようやく、ワシもホッと胸を撫で下ろせたわ。


 ……と思ったら、雨は雨で問題なんやな。


「コケ……」

「まずいですね……。このままでは体が冷えて、身動きが取れなくなります」

「せめて雨を凌げる場所でもあれば……」


 弱々しく鳴いたバルバトスに続いて、ソフィさんらも辛そうや。


 この雨、ワシらトードマンにとっては救いの雨やけど、コボルトらには少々厳しいもんがあるみたいやな。

 せやけど問題あらへん。水が相手ならワシがどうにでもしたるわい。


(アクアウォール!)


 『水魔術』で作った障壁。物理的な防御力よりも、魔術なんぞから身を守るのに特化した術や。空から降る雨を弾くぐらい造作もない。


 っちゅうてもこのアクアウォール、普通やったら術者の正面にしか使えん術なんやけどな。


 そんで、ワシは普通の術者とはひと味もふた味も違う。ワシぐらいになれば、障壁の形状を変えるぐらい朝飯前や。巧みの技術でドーム上に展開したったわ。


(おお、流石や!)

(こんなんできるんやな!)


 ってのは、トドルとククルの感想や。二人はワシがどんだけ凄いことしとんのか、よう分かってるからこその感想やろうな。


 で、ソフィさんらというと……。


「便利な術ですね」


 の一言で終わっとる。ちょいと悔しいけど、まあええわ。


 そんなこんなで色々あった旅路も、気が付けば終わりが眼前。

 周囲の景色も徐々に変わって、整備された道なんかも見えてきた。何度目かの小高い丘を越えて、今に至るっちゅうわけや。ホンマしんどかった……。


「無事で良かったニャ!」


 あとちょっとで街の入り口っちゅうところで、懐かしい声が聞こえてきた。


 コテっちゃんとの再会。一週間ぶりなだけやのに、懐かしさすら込み上げてくるから旅っちゅうもんは不思議やな。


「コテツさん、出迎えていただけたのはありがたいのですが……」


 そうやな。コテっちゃんが大騒ぎするから、周りのもんもこっちを見とるで。


 好奇の目で見るのは人間とケットシー、恐れるような目で見てくるのはラビットマンか。

 久々に見る他種族やけど、感動よりも刺さる視線がむず痒いわ。早く中に入れてもらわれへんかいな?


「ニャハハ……これは申し訳ないニャ。じゃあ、オイラと一緒に門まで行くニャ」

(なんや、面倒な手続きとかあるんか?)

「それは大丈夫ニャ。領主様に皆のことを説明したら、来賓扱いにするって言われたニャ。だから、オイラが先導するだけで手続きはほとんどいらないニャ」


 ほう、来賓か。そりゃええな。それなりの待遇してくれるっちゅうことやろ。

 そのわりにはコテっちゃん以外の出迎えが見えへんけどな。


「実は……領主様の屋敷には他のお客さんも来てるみたいなんだニャ。だから、皆そっちに気が向いててこっちには対応しきれてないんだニャ」


 門までの道中で、コテっちゃんが街の内情を説明してくれた。


 まあ、どうでもええか。別に仰々しい対応して欲しいわけちゃうし。


 ……


「よ、ようこそカラカルへ!」


 門番の男がワシらに向かって大声を張り上げとる。

 ワシらが来賓やからか、それとも得体の知れへん森の獣人やからか……どいつもこいつもめっちゃ緊張しとるみたいやな。

 まあ、それはこっちも同じことか。


 うちの若い連中も表面上は堂々としとるけど、内心じゃあ門番の連中と同じように緊張しとるわ。

 考えとるのも似たようなもん、お互いがお互いに見知らぬ種族やからか。挙動の一つ一つに目が行ってまうらしいな。


 しかし、変な緊張感が入り交じった入門もすぐに終わりや。コテっちゃんが言うように、手続きなんぞなしにすんなり街へ入ることができた。


「私達の住居とは趣が違いますね。そして人も多い……」


 ソフィさん、初めて見る街の景色に感動しとるようやな。いつもは凛々しい姿を崩さんのに、今のソフィさんの顔は他の若いもんと変わらん。


「……どうかしましたか? そう言えば、フロゲル殿はあまり街の外観に興味を示さないようですが」

(ああ、ワシはアレや)


 前に、ここの領主の屋敷で暴れまわったからな。建築様式が森と違うのも一足お先に経験しとる。ソフィさんらよりかは驚いたりせえへんで。


「あの、ちょっといいかニャ?」


 なんやかんや言うても、ワシはワシで感動してたんやな。コテっちゃんのこと、ついつい忘れとったわ。

 んで、当のコテっちゃんやけど……ワシらの前に出て頭を下げとるぞ。


「ここまで本当にありがとうニャ。こっからはオイラの番ニャ」



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