幕間 ーフロゲル編 少数精鋭ー
(さてさて、あとはコテっちゃんを待つだけやな)
ワシはコテっちゃんに頼まれたように、カラカルに行くためのメンバー集めに奔走した。
そりゃあ見知らぬ土地を踏破する、一週間ほどの旅路なんや。体力は当然いるやろ。
せやけど、体力だけじゃあかん。向こうに着いた後のことを考えたら、ちょっとやそっとじゃ物怖じせんような度胸も必要やろうな。
そんなわけでワシの独断と偏見で集めたメンバーは全部で七人。あんまり大所帯やと食料やら何やらが掛かり過ぎるからな。少数精鋭っちゅうやつで行く。
そのメンバーとして、まずはワシ。
ソフィさんに色々言うたけど、まあ、大体が本音や。好奇心云々も含めてな。
んで、ソフィさん。
本人たっての希望やからな。ワシが無理に止めたりできへんわ。
体力面がちょっと心配やけど、まあ大丈夫やろ。本人曰く、昔は自分で狩りに出かけてたっちゅうし、その時に使ってた装備を着込んで気合十分みたいやしな。不安なとこはワシがカバーすりゃええか。
あとのメンバーはコボルトとトードマンの中から選んだ若者や。
コボルトからはアビィとゾーイ、二人とも前までソフィさんの側近として働いてたっちゅうことで即決した。
ちょっと固いとこあるみたいやけど、ソフィさんの影響か? まあ、礼節とかはきっちりできてるし、体力も申し分無い。ソフィさんもこの二人やったら安心やろ。
で、トードマンからはトドルとクルルの兄妹。
おちゃらけた行動が多い兄のトドルと、しっかり者の妹のククルはええコンビや。『水魔術』の筋もええし、肝も座っとる。この二人やったら向こうに行っても雰囲気に呑まれたりせんやろってことで連れてくことにした。
そんな七人のメンバーが、ここ、集合場所であるグラティアの広場に陣取った。
誰も彼もがええ顔しとるわ。この面子やったら平原の旅路も大丈夫やろ……って、誰か一人足らへんか?
「あの……僕はここにいて良いんですか? 場違いな気が……」
(おお、そうや! お前もおったな!)
おどおどした様子でワシに話し掛けてきたのは、コボルトのルークっちゅう若者や。
何か知らんがマスターもこいつには目を掛けてるみたいやし、ノアちゃんとキバとも仲がええらしい。
まあ、一人ぐらいはワシの興味本位でもええかなーっちゅうわけで、たまたま出くわしたこいつに決めた。
なんや、キバと一緒に調査に出かけるとか何とか言い出したけど、そんなん知らん。キバには他のもんと組めって言うといたし問題無いやろ。
(もっと堂々とせえよ。選ばれし者なんやで? お前は)
「いや、選ばれたくないんですけど……。急に森を出るって言われても困りますよ……」
困ってもらっても構わへんで? それでも連れてくけどな。
そうこうしてるうちに、コテっちゃんが来たみたいやな。
道中の案内をしてくれるデカイ鳥のバルバトスをはじめ、途中まで支援してくれるブラッドウルフらとコノアちゃんを引き連れての登場や。
コテっちゃん、ワシらの姿を確認するなり……っていうよりかはソフィさんの姿やな。ソフィさんを見て驚いとるわ。目ん玉をまん丸くしてからに。
「そ、その格好……ソフィさんも行くのかニャ?」
「ええ、私では不服ですか?」
コテっちゃんは何か説明して欲しそうにこっち見とるけど、説明しても何も変わらんやろ。それより、コテっちゃんの方こそ、これからワシらが取るべき行動を説明せんかい。
「うむむ……分かったニャ」
腑に落ちない顔をしつつも、しっかり説明してくれるコテっちゃん。その内容を耳にして、集めたメンバーの顔も引き締まる。
コテツっちゃんの立てた計画の概要はこういったものや。
まず、ヘルブストの森を出るまでが第一段階。
そこまでの移動は、コテっちゃんが連れてきたブラッドウルフに乗せてもらうことになっとる。
ブラッドウルフっちゅうても、マスター子飼いのコウガとか呼ばれてる連中のことや。
野生のブラッドウルフから従えたやつらは、ワシらが乗るには小さいからな。しかも体力が足らん。森を出るまでにへばってしまうやろ。
その点、コウガの連中は大したもんやで。差はあれども、どいつもこいつもひと一人乗っても平気な顔しとる。
そんな連中に乗せてもらって、森と平原の境まで移動する。時間はそうかからんやろ、ってのがコテっちゃんの見積もり。
そんで、森と平原の境まで来たらコノアちゃんの出番。コノアちゃんに必要なブツを出してもらう手筈になっとるっちゅうわけやな。
バルバトスに引っ張ってもらう荷車の他に、向こうで渡す予定の品物。道中の食料もその時に用意してもらう。
全部揃ったところで、改めて旅の準備。そこからが第二段階、カラカルへの旅の始まりや。
「急な旅程で申し訳ないけど、大丈夫かニャ?」
(大丈夫も何も、そのつもりで準備したんや。集まってくれた連中の顔見てみい。無理難題を押し付けられた顔なんぞしとらんやろ?)
一人を除いてな。
「……本当にありがたいニャ。オイラ、この御恩は一生忘れないニャ」
(その言葉は全部上手くいったら言うてくれ。まあ、ワシは美味いもんでも食わしてくれれば十分やけどな)
「コテツさん、フロゲル殿、そろそろ……」
おお、そうやな。ソフィさんが出発を促しとる。
いつまでもここにおったら、人が集まってしまって動き難くなってしまう。
それを避けて、旅のことは必要最小限のもんにしか話しとらんのや。今でも結構な人だかりができつつあるしな。あとのことはコテっちゃんに任せて、ワシらは行くとしようか。
おっと、これだけは言うとかんと。
ワシは他の面子がコウガの背に乗った頃合いを見計らって、コテっちゃんに話し掛けた。
(ノアちゃんにも言うたんやけど、マスターが起きてもワシらのことは言わんでええで)
「えっ? 何でニャ?」
(まあ、アレや。あいつが起きるより先にワシらが到着できたら、あいつは度肝抜かすやろ? あいつの代わりに森を出るんや。驚いた顔拝ませてもらってもバチは当たらんやろ。もし途中で起きても、あいつが聞いてくるまでは放っとけ。ワシらのことよりも気にせにゃならんことがあるはずやしな。そっちに集中させたらんとあかん)
「なるほど……」と納得してくれたコテっちゃん。
素直なんはええことや。人が良過ぎて、騙されんか心配になるけどな。現に、ワシの言うたことをそのまま信じとるし。
(よっしゃ! んじゃ、行こか!)
ワシの声に応じて、コウガ達は一斉に走り出した。
流石に早いな。この調子やったら、ホンマに森を出るまで時間掛からんかもしれへん。
って言うか、早く出たった方がええやろな。
「こ、これは! ちょっと待って……!」
(ソフィさん、喋ったら舌噛むで! ちょっと間の辛抱や、我慢せい!)
ソフィさん、ブラッドウルフに乗るのは初めてなんやな。あまりの速度に腰が引けとるわ。
それでもどうにもならんのや。このまま耐えてもらわんことにはな……!
……
「うう……このような移動、二度と御免被ります……」
と、地面に足をつけるなり、その場でへたり込んだソフィさん。疲れ切るのも無理ないわな。
あっちゅう間に森を出られるかと思ってたけど、そうは簡単にいかんかった。
ここ、森と平原の境に着くまでに半日は掛かってしもうた。
初めて見る平原の景色を前にして、感動よりも疲れが先に出てしまっとるんや。ソフィさんだけじゃなくて、ワシも含めた皆が。
これはすぐには動けんぞ……。
「魔獣と遭遇もしましたし、思ったよりも時間が掛かりましたね」
(お前、元気やな……)
皆が疲労の色を見せてるのに、ルークだけが平然としとる。
そう言えば、こいつはキバの背に乗って動き回っとんのやな。この中じゃあ、一番ブラッドウルフに乗り慣れてるっちゅうことか。意外なもんやな……。
「じゃあ、僕はバルバトス――」
「コケッ!!」
「……さんと荷車を繋げます。コノアさん、用意してくれますか?」
「イーヨ!」
……これはマジで意外やわ。ルークが役に立っとる。
他の連中が休んでる間にバルバトスの方の準備は終わってしもうたぞ。
「ええっと、どうします? コウガの皆さんは暗くなる前に帰ってもらった方が良いと思いますけど……帰ってもらって良いですか?」
(お、おお……そうやな。そうしてもらおうか)
ルークの判断ももっともや。
ワシはここまで運んでくれたコウガに礼を言って、グラティアに帰ってもらうことにした。
(ありがとうな。帰りも気ぃ付けて)
「ご武運を!」
「貴方がたの旅の無事をお祈りしております」
「ガンバレー!」
ワシらより疲れてそうなもんやのに、大したもんやでホンマ……。
さて、颯爽と駆けて行くコウガの背中が見えんようになったところで、ワシらもそろそろ動き出すとしようか。真っ青やったソフィさんの顔も大分マシになったみたいやしな。
(さあバルバトス、こっからはお前が頼みの綱や。ワシらの命、預けたで!)
「コケッ!」