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第174話 自分ができることを


「なお、アルカナには冒険者ギルドの職員として派遣するのだが、場合によっては君からアルカナに依頼してもらっても構わない。情報収集能力については君も知っているはずだ。力になれると私が保証するよ」

「え? ……そうですか、分かりました」


 もしかしたら、そっちが本命なのか?

 確かにアルカナの情報収集能力は高いことは俺も重々承知している。取り分け潜入捜査に関しては、俺なんかじゃ足元にも及ばないだろう。


 とはいえ、俺はアルカナに潜入操作みたいなことをさせるつもりはないけどな。ただまあ、領主の配慮の手前、黙っておくとしよう。必要な時が来ないとも限らないし。


「それと、ソフィ殿の件なのだが……」

「ソフィの件?」


 何かあるのか? と、俺はソフィを一瞥した。


「次にマスター様がこちらに来られる際には私が同席するという件ですよ。先日、皆で決めたではありませんか」

「あー……あったな。随分と前にそんな話が」


 カラカルの騒動直後、俺が深く考えずに領主の提案を受け入れた時のことだ。簡単に言い包められる俺のことを懸念して、ソフィが俺を補佐してくれることになったのだ。

 

「私としても願ってもない話なのでね。ソフィ殿にはここ、カラカルに常駐していただきたいのだよ」


 なるほど、常駐か。今後、細かい調整することを考えたら何かと都合が良さそうだ。獣人がカラカルに派遣された後のことを考えれば、取り仕切る人物もいた方が良いだろうしな。


「ソフィがそれで良いなら俺からも頼むよ」

「分かりました。その役目、謹んでお受けいたします」


 良いね。今のところは森とカラカルだけで話が纏まっているけど、この調子で行けばヤパン全体と交流を持つ日も遠くないだろう。

 それは良い。それは良いんだけど……。


「ふむ? 何か気がかりなことがあるのかね?」

「あ、いえ、気がかりっていうか……」


 書かれていないのだ。領主から渡された文書に、俺のことが全く。


 前回の話があるから改めて取り決める必要が無いだけかもしれないけど……ここまで色々決めている中で、俺のダンジョンのことに触れていないってのはちょっとばかり寂しいってものだろう。


 それに、眷属の扱いについても話をしたいしな。今すぐでなくとも、いつかは自由に街を見学させてあげたい気持ちもある。


 何だかんだで、これも上手く事が運ぶだろう……なんて考えていた俺の見通しが甘かったのか。


「ふむ……申し訳ないのだが、君のダンジョンについては制限を設けさせてもらうつもりだ」


 制限って……マジか。自由に使うなってことだろ? 現状維持ですらないとは、俺の予想が見事なまでに外れてしまった。


「そう気を落とさないでくれ。これには理由があるのだ」

「理由ですか……」

「うむ。端的に言うと、君のダンジョンとやらは便利過ぎるのだよ。距離如何に関係無く、人や物資を運ぶことができる。物流の根幹すら揺るがすほどにな」


 まあ、それは分かる。俺自身、ダンジョンの利用法で一番多用しているのが移動手段だったりするからな。


 っていうか、俺はそれで何か商売でもしようかと画策していたりもしたのだ。『道は繋げているので後はご自由にどうぞ、使用料はもらいますけどね』みたいなことを。


 ともすれば、俺が運送を独占することになるわけだ。その結果、現在の運送を取り仕切る商人ギルドの縄張りを荒らすことになりそうだけど……そういった点が原因なのかね? 商人ギルドの面子をつぶしてしまうとか……。


 もしそうだったら、俺は了承しない。むしろ、既得権益なんぞぶっつぶしてやるわ。


「ふむ? 何やら妙なことを考えているようだが、君の思っているようなものではないぞ」

「と、言いますと?」

「まだ事件が解決していないのだ。どこに黒幕の手が伸びているのか分からない今、君の能力を逆手に取られては元も子もあるまい。移動だけであっても不特定多数の出入りは禁じ、限られた者だけの使用に留めるべきだろう」


 ……ちゃんとした理由だったな。領主が物流なんて言葉を使うから、てっきり商売関係の話かと勘違いしてしまった。


「とはいえ、誘き寄せるという手もあるがね。ただし、確実に敵を判別でき、かつ捕らえる自信があればの話だが」

「んー……無い、ですね。逆に利用される可能性の方が高いかも」


 人造人間(ホムンクルス)の判別もできない現状では、何が起きるか予想が付かない。

 魔窟の(コア)にしてもそうだな。あれは見落とすこともなさそうだけど、確実かって言われれば微妙なところだ。自信が無いなら警戒するに越したことはないだろう。


 やれやれだけど、ダンジョンについては領主の言うように制限を設けるとしよう。

 で、眷属達の方はどうかな? せめて、そっちだけでも良い方向に話を進めたいのだが……。


「ふむ、そちらについては問題無い。ただし、こちらも若干の制限を付けることが前提になるのだがね」

「おお! ……って、その制限というのは?」


 これは俺がしっかり考えて返答しないといけない案件だからな。その制限次第では保留もあり得る。眷属の皆には申し訳ないけど。


「聞くところによると、君の眷属……で良いのかな? 様々な種族の魔獣で構成されているという話ではないか。その全てをすぐに受け入れるというのは流石に難しい。時間を掛けて、ゆっくり交流していくようにお願いしたい」

「うーん……そうですね、確かに」


 俺の眷属達って、見た目はまんま魔獣だったりするからな。『創造』で生み出した者の他にも、野生のブラッドウルフみたいに後から従えた連中もいるのだ。詳しく知らない街の住民からすれば、魔獣が群れを成して襲ってきたように見えてしまうだろう。


 となると、交易に同行させる形で慣れてもらう方が良いのかな? 運搬の補助として、少数のブラッドウルフあたりからとか……。


「あの、少しよろしいでしょうか」

「ん? アトリアさん?」


 今の今まで、俺達のやり取りを見守っていたアトリアさんがここに来て口を開いた。恐る恐るといった様子で、どこか申し訳無さげだ。何か気になることでもあるのだろうか?


「僭越ながら、私にも何かお手伝いさせていただけませんか?」

「アトリアさんに?」


 アトリアさんの申し出は、俺としては願ったり叶ったりというやつだ。


 アトリアさんは魔導具の研究をしていたのだ。その知識と経験は間違いなく俺の助けになるだろう。他にもヤパンの法や作法、歴史や文化など教えてもらいたいことは山ほどある。


 しかし、アトリアさんの考えは、俺の考えていたそれらとは違うようだ。


「森に住む方々がどのような暮らしをしているのか、どのような文化を持っているのかを詳しく調べて纏める。そういったことをする者も必要ではないかと私なりに愚考いたしました。どうか、検討願えますか?」


 なるほど。確かにそういった報告をするには、ヤパンの文化を持つ人じゃないと正しく伝えられないのかもしれないな。

 俺達が説明したいこととヤパン側が知りたいことにはどうしても差異が出る。その点、アトリアさんなら国が納得できる報告も纏められるだろう。


 だけど、公的には死人扱いになっているアトリアさんにそういったことをしてもらっても大丈夫なのか?

 誰が報告を纏めただとか、話に出ないわけがないだろうしな。


「ふむふむ、なるほど。これは妙案かもしれないねぇ」


 アトリアさんの発言を受けて、オセロット男爵が一人で頷いている。


「いや、なに……アトリア殿の件はどちらにせよ本国に報告しないといけないからねぇ。そのついでに、ヘルブストの森に常駐している旨を伝えれば良いだけだからねぇ。囚われているわけでもなく、自らの意思で森の調査に赴いている、と。それを基準にしてしまえばこっちのものだよ。後から変える方が手間だからねぇ」


 なんじゃそりゃ……男爵って、思ってたより適当なのかも。

 だけど、言ってることは分からないでもない。初めっからそうだったら、案外そういうものだと認識してしまうのがこの世の常というものなのだ。こっちの世界も同じかどうかは知らんけど。


「でも、アトリアさんのことを知っている人がいたらどうするんですか? 男爵みたいにパニックになりませんか?」

「はは……私は過去の記憶と『鑑定』の結果があったからこそだよ。件の事故は二十年も前のこと、仮にアトリア殿に面識がある者がいても、同一人物だと思わないだろう。そういった者達も、貴族の姿のアトリア殿しか知らないわけだしねぇ。そんな連中がわざわざ森に顔を出さないよ。君のダンジョンで移動するぐらいに、お手軽な旅じゃなければね」


 そういうものか? と思いもしたが、怪訝な顔してるのは俺の他にいないのだ。俺の気にし過ぎなのだろう。


「ふむ、ではアトリア殿については私が派遣した使者ということにしておこうか。何かあればアーシャ・カラカルの名を出していただいて構いません。当面はそれで凌げるでしょう」

「アーシャ様……御厚情、痛み入ります」


 ちょっと意外なところまで話が決まったみたいだけど、俺が思っていたよりもトントン拍子に事が進みそうで何よりだ。

 これからどうなっていくのか、楽しみで仕方がない。楽しみで仕方ないんだけど……。


(なんや? お前、何か抱え込んでないか?)

(フロゲルには隠せないか。だけど、アレだ。ちょっと思い付いたことがあるから、今晩中に形にしてみるよ。上手く行きそうなら、明日の朝にでも発表する。それまで内緒な)

(そうか、ならええわ。変なことして皆に迷惑掛けんなよ)

 

 ああ、大丈夫。変なことには違いないけど、これは俺にしかできないことなんだ。これ以上、訳の分からんやつに邪魔されないためにも、俺は俺なりの策を講じさせてもらう。



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