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第167話 助け、助けられ


「……では、貴女は本当に蘇ったということですか?」


 領主がアトリアさんに問い掛けている。対するアトリアさんはというと、迷いの無い瞳で領主を見据え、はっきりと「はい」の一言。まあ、それ以外の答えは無いんだけどな。


「ふむ、アルカナから受けた報告の続きと考えれば良いだけか。二人に嘘は無い、疑っても仕方が無いのだろう」


 納得してもらえたみたいで何よりだな。


 俺とアトリアさんは、できる限りの説明をした。

 リンクスの知られざる顛末から、アトリアさん母娘が蘇るまでの経緯。誓って嘘は吐いていない。


 なにせ、領主は嘘を見抜くことができるのだ。それを知りながら、わざわざ嘘を吐こうとするわけがないだろう。

 ましてや、この場にはソフィとフロゲルもいる。今の状況では、二人とも俺を庇うどころか、一緒になって真相を探ろうとしている。俺が隠しごとをしようとしても、瞬時にバラそうとするだろう。というか、してきた。主にフロゲルが。


(マスターは嘘以前に説明できとらんもんな。アトリアさん本人から聞いた方が分かりやすかったで)


 うるせえ! 俺だって、上手く説明できるものならそうしたいっての!

 そもそも、俺だって分からんことだらけなんだよ。さっき会ったばっかりなんだからな。

 

「しかし、不死(アンデッド)と化した者が意識を取り戻すなど聞いたことが無い。貴女でなければ、不死(アンデッド)という時点で信じなかったかもしれませんなぁ」


 一時はパニックのような状態に陥っていたオセロット男爵も、説明の最中にすっかり落ち着きを取り戻していた。最初こそ顔にハテナが飛んでいた状態であったが、説明を理解してからはアトリアさんを食い入るように見つめている。


 その瞳に宿るのは……分からん。男爵は所謂、糸目というやつだ。見開くぐらいに驚いてもらわないと、目から感情が読み取れない。声色から判断するに、悪い感情を持っていないようだが。


「オセロット男爵はすっかり年を召されたようですね。私の知る男爵は成人したばかりの若者だったというのに」

「いや、はは……。二十年も経てば、ケットシーも老けるというものですよ。こんなことを言って良いのか分かりかねますが、貴女は変わりなく元気なようで何よりです」


 うーむ……二十年か。


 説明する中で判明したことなのだが、アトリアさん母娘が命を落としたのは何と二十年も前のこと。そして、アトリアさんとオセロット男爵は古い知人ということらしい。


 そう言えば、どさくさに紛れて聞き流していたが、領主はアトリアさんが亡くなったのは生まれる前のことだと言っていた。だとすれば、アトリアさんが現領主のことを知らなくて当然というものだ。そして、カラカルの領主が先代のままだという認識を持っていたことも。


「アーシャ様、知らずとはいえ御無礼な振る舞いを働き、申し訳ありません」

「いえ、こちらこそ貴女が公爵夫人と知らずに失礼なことを」

「恐れ入りますが、公爵夫人というのは……」


 相手が領主でも、そこは譲れないようだな。アトリアさんの口調は静かだが、圧を感じる。


「なるほど、承知しました。確かに、貴女を公爵夫人というのは失礼に当たるかもしれませんからな」

「それは、どういう意味でしょうか?」

「ふむ、その前に」


 アトリアさんの問いに答えないまま、領主はオセロット男爵の方に目を向けた。

 それだけで何かを察したのか、男爵は続くように口を開く。


「そうですなぁ。本題の前に、改めて自己紹介をさせていただけると助かります。お二方も、お話しておきたいことがあるのでは?」


 お二方、というのはソフィとフロゲルのようだ。二人とも男爵の言葉に頷いている。


(アトリアさんにはちょっと悪いかもしれへんけどな。でも、聞いといて損は無いで。ワシの勘やと、ちょーっとだけわだかまりが消えるはずや)

「マスター様には、特にお話しておかなければなりませんからね。コボルトとトードマンも歩みを進めているということを」


 ……うん、よく分からん。アトリアさんに至っては尚のことだろうな。はっきりと首を傾げているし。


 だけど、分からないながらありがたくもある。

 ずっと気になっていたのだ。ソフィとフロゲルが、領主どころかオセロット男爵とも普通に接していることに。そもそも、カラカルにいることもな。


(お、マスターの注意はこっちに向いとる。なら、ワシらが先でええんかな?)

「どうぞ、構いませんよ」


 男爵の了承を得たフロゲルが、思念を使って語り始めた。


(ワシらがここに来たのは三日ぐらい前のことやな。目的はアレや。マスターの尻拭い)

「俺の尻拭い?」

「フロゲル殿、言い方というものがありますよ。我々が森を出た理由はマスター様の果たせていない約束を果たすためです。恩を返すためであって、尻拭いのようなものではありません」

(おう、そうやったな。そういうことにしといたる)


 恩ってのはともかく、俺が果たせなかった約束とは? 全く、ピンと来ないな。


(なんやねん。コテっちゃんとの約束を忘れたんか? ケットシーの子供を保護するっちゅう約束したんやろ)

「ああ、アレか! って、えっ? じゃあ、もしかして……!」

「その約束は我々が果たさせていただきました」


 うおお、マジか!


 忘れていたわけじゃない。けど、手が回せなかったのだ。

 いざ計画を実行に移すって時に、アルカナの救助依頼を受けたからな。言い訳になるかもしれんが、緊急性の低い案件は後回しにせざるを得なかった。


 とはいえ、放置することに何も感じていなかったわけじゃない。事が落ち着き次第、計画を再開するつもりもあったのだ。それをこの二人は……!

 

「本当に助かったよ! 感謝してもしきれないってやつだ!」 

「マスター様、私とフロゲル殿だけではありませんよ。森からこの街に来るに当たって、コボルトとトードマン、双方から代表者を募っています。道案内としてバルバトス、そして何より、アーシャ殿の厚意があってこその賜物です。今もアーシャ殿には、保護された子供達のために別室を貸していただいておるのですよ」

「ふむ、それぐらい容易いことだ。本来であれば、カラカルの問題は私が解決すべきことなのだが……如何せん、商人ギルドに関しては公然と口が出せない約束事もあるものでね。二人の申し出には、こちらこそ感謝している」

(ま、詳しいことは暇見て話したる。ワシらにとっての冒険をやな。その中で色々ハプニングもあったんやで? ソフィさんの泣き言なんか、森におったら聞かれへんわ)

「フロゲル殿、貴方も平原で遺言を残そうとしたくせに、どの口が言いますか」

(ワシは思念やから、口では)「ゲッコゲコー!」


 おいおい、何やってんだよ……。せっかく良い話の流れだったのに、これじゃあ、森の日常と変わらんぞ。


 領主も男爵も、アトリアさんまでもぽかんとしてしまっている。

 結構な立場の二人が、こんな子供みたいなやり取りするなんて見た目からは想像できないからな。呆気に取られるのも無理はない。


「オホン、まあ細かい話はさておき、お二方の計画はコテツを通じて私にも届いていた。それ故、私も準備をしていたのだよ。森から獣人、それも指導者に当たる方が訪れるための準備をな」

「私としても、非常に良いタイミングで訪れたものですねぇ。この二週間ほどは私の人生においても、かなり濃密な意味を持ちますから。ソフィ殿とフロゲル殿との出会いもそう、一行が起こした騒動もそう、ヤパンにいたら味わえない刺激的なものばかりでしたよ」


 んー……男爵のこの口ぶりだと、俺の立てた計画以外にも何かやったのか? しかも、騒動と言うレベルのことを。


「しかし、そんな私の人生もマスター君との出会いがあってこそだねぇ」

「出会いですか?」

「平原だよ。賊に襲われていたところを救ってもらった。私にとって、君は命の恩人なんだ」



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