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第17話 ゴブリン迎撃 開戦

 

 ……空気が変わった。

 風が止み、肌を刺すような圧迫感を感じる。


 俺達は準備を整えた後、ダンジョンの前でゴブリンを待ち構えていた。

 いち早くゴブリンの接近に気付いたのはノアだ。


「マスター! 敵が近付いてきます!」


 来たか。

 待ち焦がれたようで、来て欲しくなかった。

 緊張しながら興奮しているような、妙な高揚感が俺の中から溢れている。


 戦争なんてしたことが無いからな。

 戦う前っていうのは、皆こうなるのだろうか?


 マックスや熟練の雰囲気を纏う戦士は堂々としたものだ。

 比べて、ココや若い戦士はソワソワと落ち着きが無い。

 俺は、どちらかというとココ達と同じだ。じっとしていられない。


 そんな俺達の気持ちを見透かしてか、マックスが一歩前に出てこちらに向き直した。


「皆の者、恐れる必要は何も無い。各々が役割を全うすれば必ずや勝てる! 生き残るぞ!」


 マックスの鼓舞にコボルト達が呼応する。

 ココ達も落ち着きを取り戻したのか、しっかりと前を見据えている。


 マックスはやっぱりリーダーだ。

 今ので俺も身が引き締まった。

 ノアとコノア達は、初めから落ち着いているんだけどな。


「! マスターさん! 見えました! 正面だけじゃありません! すごい数です!」


 隣にいたココが捲し立てる。

 他のコボルト達も視認しているようだが、俺には全く見えん。

 分かったから、落ち着けって。


「作戦を開始する。弓、構え!」


 マックスが簡潔に指示を飛ばす。


 俺達は事前に作戦を立てていた。

 その第一段階は、遠距離攻撃での牽制だ。

 これで撤退してくれるのであれば、それで良い。

 向かってきても、足止めや数を減らせれば御の字だ。


「放て!」


 一斉に矢が放たれた。

 コボルト達は左右に展開し、矢を放っている。

 正面は俺達の仕事だ。


(ココ! 頼むぞ!)

「はい! 任せてください!」


 俺はストーンバレットを放つ。

 威力はコボルトの弓矢の比ではない。

 直撃すれば、ゴブリンを一撃で葬ることができるだろう。

 しかし、俺は暗闇では狙いが付けられない。

 そこで俺はココに頼んだ。


「ギャア!」

「グゲッ!」


 正面から悲鳴が上がる。上手く狙ってくれているようだ。

 俺は今、ココに担いでもらっている。

 ココは『夜目』がある、暗闇でも敵を捉えることができる。

 元々、ココは弓が苦手らしいので、ちょうどいい。

 ココが狙って俺が撃つ。それだけだ。

 まあ、狙いを付ける必要が無いぐらい連射してるんだけどな。

 今の俺は、犬の形をしたマシンガンのような奇妙な物体と化している。


「弓を使う奴を優先して狙え!」


 弓を使う奴がいたのか。

 正面にもいるかもしれない。


(ココ! 弓を使う奴がいるらしい! そいつを狙え!)

「やってます!」


 おおう……。言われるまでも無いってか。

 確かにココは俺を忙しなく動かしている。

 高すぎないか? とも思ったが、どうやら高所で弓を番えている奴がいるらしい。

 ココはそいつを狙っているのだ。


 こうなってくると、俺だけ見えてないことが煩わしい。

 音と声でしか判断できないのだ。

 今のところ、コボルトに被害は無いようだが――


 突然、正面が明るくなり、火の玉がこちらに向かってくるのが見えた!


(うおっ!? ストーンバレット!)

「ゴギャッ!?」


 咄嗟に火の玉に向けてストーンバレットを放ったのが功を成したようだ。

 火の玉はストーンバレットとぶつかった瞬間に弾けて消えた。

 ストーンバレットは勢いそのままに、延長線上にいたゴブリンに命中したのだろう。


 火の玉に照らされ、一瞬だがゴブリンを見ることができた。

 その瞬間に『鑑定』――



種族:魔人・小鬼人、ゴブリン

生命力:18 筋力:16 体力:15 魔力:16 知性:12 敏捷:14 器用:18

スキル:夜目、悪食



 ゴブリンの見た目は予想どおり、ゲームなどで見かける姿のようだ。

 子供ほどの背格好で鷲鼻が特徴だ。

 一瞬見えただけでも、知性があるとは思えない顔付きをしている。


 能力も確かに弱い。一体なら何の問題も無いな、一体なら。


 しかし、一体どころではない。

 火に照らされたゴブリン達は、木の間を埋め尽くす勢いでこちらに向かっていた。

 おそらく、左右も同じだろう。

 ダンジョンのある岩を背にしているおかげで、後ろから攻められていないのが救いだ。その分の数が減るわけではないが……。


 それより気になったのは、さっきの火の玉だ。

 あれって――


「『火魔術』だと!? メイジまでいるのか!」


 マックスの声だ。

 どうやら、今の火の玉は『火魔術』らしい。

 マックスにとっても予想外みたいだな、声に僅かだが動揺が窺えた。

 しかし、流石はリーダーだ。すぐに気を取り直し、対策を講じた。


「マスター殿、メイジの対処をお願いする! マスター殿の魔術の方が強い。相殺してもらえれば被害を抑えられる」

(おう! そのつもりだ!)


 幸いなことに、メイジは数える程度しかいないようだ。

 しかも奴らは『火魔術』しか使えないようで、火の玉が何度か飛んできたぐらいだった。

 勿論、俺が相殺する。火の玉は狙ってくれと言わんばかりに、煌々と明かりを放ちながら向かってくるのだ、しかも遅い。落ち着いて狙えば当てられる。

 相殺した後はココの仕事だ。

 元凶のメイジを狙い撃つ。


 メイジを始末し終えた頃には、ゴブリンはすぐ側まで接近していた。

 コボルト達は弓から剣に持ち替えて迎え撃つ。

 作戦の第二段階だ。


「ノア! 頼む!」

「お任せを!」


 ノアは入口を囲む布陣で構えていた俺達を飛び越える。その姿は既に巨大化していた。

 敵の接近に合わせて合体するように指示していたのだ。


 2メートルを越えるスライムが、ゴブリン達の前に立ち塞がる。

 ノアの登場にその場が凍り付いた……気がする、俺は見えていないから。

 コボルト達も驚愕しているようだが、そんな場合か?


(お前ら、動け! あれは味方だ!)


 俺の一喝で思考が戻ってきたコボルト達が、ゴブリンに斬りかかっていく。

 ノアは既にゴブリンの群れに回転しながら、突っ込んでいる。


 ノアへの指示は二つ。

 一つ目は、ホブゴブリンを探して始末すること。

 二つ目は、倒したゴブリンを『収納』すること、だ。


 二つ目はすぐに達成された。


 俺は『収納』されたゴブリンを『分解』する。

 同時に『解析』し、目当てのものが手に入った。


 スキル『夜目』。


 すぐに、自分に『付与』する。

 『付与』できる上限に達しているから、『危険察知』と入れ替えておく。


 ――と同時に視界が変わっていく。

 暗闇の中でも見える。色までは分からないが、周囲の状況がはっきり分かる。


(ココ、もう良いぞ。俺も『夜目』を手に入れた。ここからは別行動だ!)

「わ、分かりました!」


 さて、やっと俺も状況が分かるわけだが……。


 周囲は死屍累々、敵のものばかりなのが幸いだ。

 特に、正面が凄惨だ。スプラッタ映画も真っ青な惨状となっている。

 ほとんど俺がやったんだけどね。


 左右は、生きてるゴブリンが多いな。

 矢を受けたゴブリンが、コボルト達と戦っている。

 しかし、致命傷でなくともダメージは大きいようだ。矢が刺さったままのゴブリンは、次々と倒されていく。


 しかしながらコボルトも無傷では無い。

 ゴブリンの武器は、棍棒と呼べる程でもない粗末な木の棒だが、集団で殴りかかってくると流石に多少のダメージはある。


 だが、こちらも無傷で済むとは思っていない。

 事前に負傷者はダンジョンに戻るように指示していた。

 何人かが、負傷してダンジョンに入ったようだ。


 ゴブリンの数は減っているのだろうが、途切れる様子は無い。

 百体は覚悟していたが、明らかにそれ以上だ。

 早いところ、ホブゴブリンを始末しないとまずいな……。


 そのホブゴブリンが、ノアに『収納』されてきた。

 流石、ノアだ! これで少しは楽になるか?

 ……いや、全然変わりそうもない。やはり複数いるようだ。


「いたぞ! ホブゴブリンだ!」


 マックスの声に従い、ゴブリンの群れを見ると……。


 ――いた! あいつか!



種族:魔人・小鬼人、ホブゴブリン

生命力:41 筋力:31 体力:46 魔力:32 知性42 敏捷:34 器用:38

スキル:夜目、悪食、統率、剣術



 ゴブリンを率いるだけあって、それなりに強いようだ。

 見た目はゴブリンよりも二回りはでかい。

 粗末だが革の鎧と剣を装備しているのが見えた。


 ホブゴブリンは、群れの奥でゴブリンに命令を出しているようだ。

 命令を受けたゴブリンは突貫してくる。

 まあ、ゴブリン程度じゃ道は開けないのだが。


 二体目のホブゴブリンか、まだ他にもいるだろう。

 ノアは別のホブゴブリンを追っているようだ。離れたところでゴブリン相手に猛威を振るっている。

 しかし、ノアには時間制限がある。


〈ノアの融合解除まで191秒〉


 時間までに、ホブゴブリンを全部始末するのは難しいだろう。

 あと何体いるかも分からないのだ。

 作戦を第三段階に移るとしよう。


(マックス! 時間を稼いでくれ! 切り札を出す!)

「承知した!」


 俺はダンジョンに駆け込んだ。

 中では負傷者が治療を受けている。

 戦えない者達も、自分達なりにできることをしているのだ。


(すまんが、場所を開けてもらうぞ)


 俺は大広間の中央、水場を背に向けてイメージをする。


 ――『創造』だ。


 新しい眷属を『創造』する。

 ノアに続いて二番目の眷属だ。

 コノアはノアの分裂体であって、俺の『創造』で生み出したわけじゃない。

 二回目の眷属の『創造』、上手くいってくれよ……。


 俺は念じた。

 強く、敵を圧倒的に殲滅するイメージを……。

 さあ、急げ、急げ!


 俺の目の前には、青白い光が集まっている。

 光は徐々に大きくなり、イメージした形に近付いてくる。

 光が収まった瞬間、俺は命じた――


(行け! お前の名は『キバ』だ! 敵を殲滅しろ!)

「御意!」


 返事よりも早く、キバは駆け出していた。



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