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第158話 目覚めると


「……ノア?」


 目が覚めた俺の前にはノアがいた。


 前って言うのもちょっと違うか。

 ノアの体は俺の頭の下にある。枕のようでありクッションのようであり……同時に形を変えて俺の顔を覗き込んでいる。

 それは以前と変わらない、俺にとって朝を報せる光景でもあるのだが……。


「歌ってたのはノアだったんだな」


 (コア)の中にいた俺の意識まで届いた歌声。

 どうやら歌っていたのはノアだったらしく、俺が声を掛けるまで歌い続けていた。


 それまで歌声を発しているのがノアだと思っていなかった。

 ノアが歌っているところを見たことが無いのもある。が、それ以上に歌から感じる雰囲気がいつものノアと違う。何と言うか、大人びてるような……変な感じだが支援者(システム)に似ていた。


支援者(システム)さんに教えてもらったんです。マスターが起きてくれるように、祈りを込めて歌いました」

支援者(システム)に? そうか、どうりで……」


 聞いたことがある歌なはずだ。

 支援者(システム)が俺の記憶を基に選んだ歌なら、俺が聞いたことがあって当然というもの。

 

 ただまあ、ノアが歌っていた歌は日本人なら大体の人が知ってる歌なんだけどな。小学校辺りで音楽の授業で習う歌だし、何だかんだで大人になっても聞く機会がある。そんなメジャーな歌だ。


 支援者(システム)に似ているってのは……偶然だろ。師事した人に似るってのもあるかもしれんが、声色がもともと似てるんだし気にすることでもないか。


「しかし、祈りって……随分と仰々しいな」


 なんて言ったものの、祈りと言われても納得できるほどに力を感じる歌でもあった。

 実際、俺の目覚めを早めたようなものだしな。ただの歌ってわけでもなさそうだ。

 その効果の理由を知るためにも、もっと聞いてみたいところでもあるが……。


「すまん、ノア。俺って今回はどのぐらい寝てた?」

「マスターが帰ってきてから、ちょうど二週間が経ってます。

「ええっ!? 二週間!?」


 マジか、二週間!? ……こんだけ寝てたのは初めてだ。

 それじゃあ祈りもするってものか。俺の場合、普通に寝てるわけじゃないんだし……。


 ええい、過ぎたことを嘆いても仕方が無い。俺がやるべきことは現状の把握だ。

 今の立ち位置が分からんと動こうにも動けん。


「ノア、俺が寝てた間のことを知りたい。説明頼めるか?」

「勿論です。マスターが眠っている間のことを纏めた書類が『収納』の中に用意してありますので、確認してもらえればすぐにでも」

「おお、助かる」


 確かに口頭より手っ取り早い。俺の場合、『分解』してしまえば読む時間すら掛からないのだ。

 そんなわけで早速『分解』した……のは良いが。


「結構な情報量だな」


 ノアの用意してくれた報告書には俺が不在の間の概要が事細かく記載されていた。


 生活関係でいえば、コボルトやトードマンの暮らしぶりの変化。

 コボルトは魔窟の被害から、トードマンは居住地を地底湖から地上に変えたことにより住居が不足していた。

 その不足を補うために提供したのがティピーと呼ばれるテント。インディアンテントとも呼ばれる円錐型の簡易なテントだ。提供したって言っても、俺じゃなくて支援者(システム)なんだけどな。


 それはともかく、そんなティピーの出番ももう終わり。

 各集落における住居の建築に目処が立ち、今では住民全てに家が行き渡っているとのことだ。


 住居以外にも変化は目まぐるしい。

 集落と集落を結ぶ道路工事の開始及び進捗、以前は薬草の類を栽培していた耕地の拡大、食料の確保に繋がる植物の発見などなど、朗報と呼べるものが多岐に渡っていた。


 また、その過程で活躍する眷属の働きにも目を引かれる。

 取り分け興味深いのが、アーキィの『水操作』とランディの『土操作』だ。

 多分、本来は戦闘用のスキルだと思うのだが……『水操作』は治水工事に、『土操作』は先の道路工事に大いに役立っているとのこと。


 書面では簡易な図面が載っていたが、それだけでもかなりの広範囲で工事が進められていることが分かる。

 本音を言うと、すぐにでも自分の目で見に行きたい。

 どんな変化を見せているのか、どんな風にスキルを使っているのか……興味が尽きんのだ。

 

 しかし、残念ながら今は興味よりも重要なことがある。


「……アルカナがリンクスに?」

「はい、マスターが帰ってきてから三日後のことです」


 報告書によると、アルカナの動向は俺と一緒にダンジョンに来た後、カラカルに報告に行っていたそうだ。

 残念ながら、その内容については記載されていない。詳細はノアも教えてもらってないってことだろうな。

 そして、次の日にリンクスから放り込んだ聖職者風の三人組をカラカルに連行した、と……。


 うん、完全に忘れていた。そんな連中のことは。

 とはいえ、忘れてはいたものの命に別状は無いってことが分かって一安心だ。


 見た目、悲惨な状況だったからな。外傷じゃない分、どんな状態なのかが分からん。精神攻撃にポーションが効くとも思えんし……。


 ともあれ、その次の日にアルカナはリンクスへ戻った。ノアに断った上で。

 それ以降、アルカナは戻ってきていないということだ。


「そう言えば、アルカナはリンクスにどうやって移動したんだ? 入口は塞いでただろ?」


 俺がリンクスから移動した際に、繋げた入口は塞いだ……はず?

 あれ? そこのところの記憶が無い。もしかして繋げたまんま……?


「ビークが困ってました。繋げっぱなしで、どうしたら良いのか分からないと」

「マジか……。じゃあ、今も自由に行き来できる状態なのか?」


 俺が繋げた場所はリンクスの墓地とダンジョン区画最奥の部屋。ダンジョン区画って行っても、色々実験したまま放置した地底湖みたいな部屋だけど。

 部屋の中身はどうあれ、二週間も放置してたら流石に誰かの目に付きそうなものだ。にも関わらず、報告書にはそれっぽい記載は無いな。


 運良く見つかってないのか?


「応急処置ですが、地面に合った形と模様の岩で塞ぎました。見つかったとしても、岩が邪魔で入れないはずです」

「そ、そうか」


 うーん……俺しか入口の接続等々できないことが原因なんだよな。以後の対策も考えとかないと。


「ところで、マスターが目覚めたことを皆に報せようと思いますが、併せて会議の準備も進めますか?」

「お、おお……ちょっと待って」


 ぐいぐい来るな、ノアさん……。

 秘書を任せたけど、俺の方がまだ慣れてない節がある。そんないっぺんに言われても困るというものだ。

 とはいえ、やるべきことは多いのも事実。早いとこ、即決できるようにならないと。


「……そうだな、俺が起きたことを皆に報せてやってくれ。けど、会議はまだ良いや。俺も状況を把握出来てないところが多いしな。だから、俺はリンクスに行くよ。皆に説明するためにもアルカナに会わないと」

「分かりました」


 先にカラカルに行こうかとも思ったけどな。しかし、行ってどうする。

 俺が領主に説明できることなんて、たかが知れてるのだ。


 それよりも俺はアルカナに会って聞かなければならない。

 今回の騒動に俺を導いた女神のことを、その女神は並行世界で起きたことと関係あるのかを。

 


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