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第156話 疑惑の街リンクス 母娘


 イメージを強く保つ。

 レギオンに対峙する俺とは別に、ダンジョンに意識を移した状態の俺を。


 この土壇場で試すのは『並列思考』。

 かねてより補助核(サポートデバイス)の可能性として挙げられていた能力を、今ここで発露させるのだ。


 失敗すればどうなるか? そんなものは火を見るより明らかだ。

 無防備になった化身(アバター)がレギオンの体当たりで潰されて終わる。失敗は許されん。


 ……なんつって、成功した後なら何とでも言える。


(ちょっと違和感あるかな? 慣れればそうでもないか)

(おお、放り込んだ三人はノアに発見されてる)


 レギオンの体当たりを回避する俺と、ダンジョンに視界を移した俺。二つに分かたれた思考が存在している。

 その状態でいながらも、全く違う思考を保っているのだ。これは『並列思考』で間違いないだろう。


(意外とあっさり行けたな。原理が今ひとつ分からんが)

化身(アバター)とダンジョン、視界が二つあるのがヒントになったのは良かった)

補助核(サポートデバイス)の機能って『反映』と『自動演算』だっけ? それの応用なのは分かるけど)

(無意識での計算を『自動演算』で済ませて、『反映』でタイムラグをなくしたものが『高速思考』だな)

(『並列思考』の場合は……『自動演算』に擬似的な意識を持たせるのが味噌か。『反映』は補助的っぽい)

(待てよ? 『反映』はリアルタイムで俺の判断を『自動演算』に移してるってことかもしれんぞ)


 自分で言うのも何だが面白いぞ、これ。『並列思考』を駆使した自問自答で議論ができる。しかも高速で。

 

 まあ、こんな議論はテンション上がってる今だけのことで、ぶっちゃけ仕組みや理論などどうでもよかろうなのだ。実際にできてる、それで十分。議論なんかよりも、やるべきことは他にあるしな。


(さて、『並列思考』のデメリットが分からん状態で、どこまで回避できるか)


 レギオンと対峙する化身(おれ)のやることは変わらない。ひたすら回避。

 攻撃すれば『痛覚変換』が発動してしまうのだ。アルカナのサイレントで『恐慌』は発動しないとはいえ、強化に繋がると厄介だ。今は現状維持に努めねば。


 そして、ダンジョン側の俺はというと……。


(さてさて、向こうの様子は分かってるけどちょいと急ぎますかね)


 意識は既に(コア)の中にある。

 正面に見据えるのは文字で構成された球体。『鑑定』を視覚化した物体だ。


 俺は今から『鑑定』に手を加える。

 キバとの戦闘中にやってのけたように、スキルを改造するのだ。


(あの時は、支援者(システム)化身(アバター)を任せたんだよな)


 レギオンから伸びる触手を掻い潜りながら思い出に耽る。

 思い出って言っても、そんな前のことでもないが。


(暴走キバに比べればレギオンは遅過ぎる。合体ノアの攻撃に近いところもあるけど単調だしな)


 何気に前回の模擬戦が生きてるぞ。

 あれが無ければ、今より動きに無駄が多かっただろう。紆余曲折あったが、経験としてはかなり大きい。


 スキルの改造もそうなんだよな。

 模擬戦の最中で閃いた裏技。あれが無ければ、いまだにこんなことできるなんて思い付いてないかもしれないのだ。


 そして、一度やったことがあるからこそ、この速度。


(よし、『鑑定』の『解析』は一瞬で終わった。これに足します材料は……視覚に関係あるやつ色々ぶち込んでみるか。『夜目』と『遠視』、それと肝になる『魔力感知』を忘れずに、と)


 『分解』したところでなくなるわけじゃない。使えなければ元のスキルに戻すだけだ。

 それよりも今は『鑑定』の改造……いや、ここまでいけば魔改造だな。


 何と言うか、『鑑定』は視覚系スキルの延長線にあるスキルの一つって言うのかな? 他の視覚系スキルと基礎が同じなのだ。

 そして視覚系スキルは拡張性がかなり高い。どれもが文字で構成されてる球体だが、基礎部分を除けばほとんど重複しないらしい。つまり、一つのスキルにガンガン盛れる。良いとこだけを掻き集めたスキルに。


(うわー……やりすぎたかな、これ)


 改造は面白い。多分、俺の性に合ってるのかもしれない。

 それ故、夢中になり過ぎたようだ。


 先のスキルに加えて『温度感知』、『生者判別』、『目標補足』なんかも足している。自分でも知らない間にだ。


 結果、『鑑定』だったスキルが行き着いた先は、全くの別物。『慧眼』なるスキルに変貌していた。


(ユニークスキルになってるし……)

 

 これは……大丈夫なのか? ユニークだと『付与』できるかどうか分からんぞ……って、あれ?


 そういや、そうだ。

 『鑑定』は元々俺の持つスキルだ。それを強化した形の『慧眼』は『付与』する必要すら無い。

 『付与』するまでもなく、俺のスキルとして存在している。


 じゃあ良いか。後は化身(アバター)側で実践あるのみだ。

 『並列思考』の出番は一旦ここまで。思考を化身(アバター)一つに戻して、と。


(くっそー……目が回る)


 『並列思考』のデメリットもこれか。頭がクワンクワンする。


 頭の回路が焼き付く感じ、過負荷が掛かってた状態だな。

 『高速思考』も最初はそうだった。繰り返すうちに負荷に慣れてきたけど、『並列思考』も同じか。こっちも練習なりして慣らさないと。


 んー……多少、頭が痛いけど大丈夫だな。普通に考える程度は問題無し。

 それじゃあ、次の作戦を発動させようか。


「……!!」


 相も変わらずレギオンは突っ込むしか能が無いのか。

 サイレントで無音となった空間であっても、レギオンは叫ぶことを止めていない。


 無音という認識もしてないんだろうな。

 行動パターンも全く変化無いし、知能は皆無。興味本位で『思念波』も送ってみたが返答も無し。仕留める以外に活動停止の算段は付かない。


 その仕留めるために思い付いたのが『鑑定』を強化すること。


 魔力の流れを辿るなりして(コア)の位置が分かれば、活路は見い出せる。そのための前準備として『並列思考』を体得したのだ。


 『並列思考』が体得できなかった時は……あれだな。切り刻んでダンジョンに放り込む。作戦も何もあったものじゃない、完全な力技だ。


 ともあれ、目論見どおりに『鑑定』は強化できた。

 後は『慧眼』の効果次第だが――


(――見えた!)


 『慧眼』で見る景色は、普通の視界とは様相が違う。

 全体的に色が薄い? ……透けてるようにも見える。が、これはどうにも魔力の流れを見るために自動で処理された視界のようだ。

 その証拠ではないが、レギオンの体は……全身、体外問わず紫の血管が見える。その脈動もはっきりと。


 『魔力感知』だけでは、こんな詳細まで分からなかった。『慧眼』の効果は予想以上だ。


 そして、肝心の(コア)は……あった。部屋で見た形状のままで、体の中心部に。


(マスター君、流石にきついよ……)

(悪い、すぐ終わらせる)


 アルカナのことに気が回っていなかった。


 サイレントを発動させてから三十分も経っていない。とはいえ、アルカナは俺と違って魔力に限度がある。

 歌い続けたということもあって体力面でも摩耗していたのだろう、顔には疲労が色濃く表れていた。


 ……本当にすまん。けど、謝意は言葉よりも行動で示す。


(正攻法だとかなり厄介だったよ、お前。けど、相手が悪かったな)

「……!!」


 レギオンの体当たりを回避するのもこれで最後だ。躱し際に一撃を食らわせる。


(もう力業もいらないな。必要なのは一点を貫くイメージだけ)


 剣を構えて次元力を巡らせる。

 『斬る』ではなく『貫く』、そのためのイメージに沿って。


(よし、いける!)

「……!!」


 淡い青の光を纏った剣を片手に、俺は跳んだ。

 何度となく躱し続けたレギオンの触手を掻い潜り、狙うは一点。(コア)に向かって――


(届けぇぇぇ!!)


 ――剣を突き出す!


 剣の刃では届くはずもない。しかし、俺の次元力はイメージしたままに形を変える。

 剣先から伸びた青い光はレギオンの横っ腹を貫き、体内を突き進む。


 レギオンの体は総じて肉、文字どおり肉の壁が(コア)に向かう光を阻んでいる。が、そんなものあってないようなもの。次元力の前では鉄だろうが紙と変わらない。

 一条の光は導かれるように(コア)に向かって伸び続けた。


(もらった!!)


 届かないイメージは無い。間違い無く(コア)を貫くことができる。そう確信した瞬間――


(――あなたに)

(えっ!?)


 頭に映像が割り込んでくる……!


 白い空間……見えるのは銀髪の女性と、同じく銀髪の少女。

 少女を抱き締める女性からは、強い哀れみのようなものを感じる。


 顔はよく見えない。でも、この雰囲気は……。


(全てを託します)

(おかあさん、だいじょうぶだよ)


 託す? おかあさん?


 いきなりのことで、全く意味が分からない。しかし、それを問うこともできない。


 次の瞬間には映像は途絶えたのだ。

 俺の視界にあるのは、レギオンの(コア)に向かう次元力の刃。


(待て待て待て待て! これはいかん!!)


 さっきの映像が何かなんて知らん。今の俺の状態と関係あるかも分からん。

 それでも意味はある。それだけは分かる。


(そういうことだよな! 支援者(システム)!!)


 化身(アバター)の方では次元力の制御はできそうもない。貫くことに集中し過ぎて、他の行動に移せないのだ。

 今の俺にできることと言えば、もう『並列思考』しかない。


 咄嗟の『並列思考』で、無理矢理イメージを付け足す。


 伸びた次元力がどうしようもないなら、そこからさらに形を変える。

 先端を拡散させ、包み込むように。(コア)だけじゃなく台座ごとだ。


(ぐあああ! あったまいってえ!)

 

 『並列思考』の限界からか、視界は真っ赤に染まっている。

 それでも俺は次元力の操作を止めない。

 

 無茶かもしれん。それでもやるのだ。絶対に。


(だらああ! 次元力で包んだぞ!)


 成功だ。

 俺の次元力は(コア)と台座、つまりはポーラとアリシアを包んだ状態となっている。

 レギオンから切断した以外には傷は付いていない。切除した、とも言える状態だ。


(後は……!)


 どうすれば良いか分からん! このままできることって何かあるか!?

 ……ええい、くそったれ!!


(次元力が次元を操る力なら!!)

(これぐらいできるだろうが!!)


 化身(おれ)の操る次元力と、(おれ)が指定したダンジョンの空間を入れ替える!



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