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第155話 疑惑の街リンクス 次の一手は

少し短めです。


「オアアアアア……!」


 失敗しましたとか冗談言ってる場合じゃないな。


 既にレギオンはその全貌を顕にしている。

 地下へと続く道はレギオン自身で崩されているが、後続する肉片が見当たらない。今目の前で蠢く塊がレギオンの全てなのだ。


 それを証明するかのように、地下からの気配は完全に消えている。それはもう、きれいさっぱりと。

 とどのつまり、儀式の部屋そのものがレギオンであり儀式に使用された数多の死体。そして内部には(コア)であるポーラと台座であるアリシア公爵夫人が存在しているということでもある。


 訳が分からんうちに、えらいことになったもんだ……。


(ほら、マスター君、ぼーっとしてる場合じゃないよ)

(ん、分かってる)


 ぼーっとしてるわけじゃない。

 切り札が不発に終わったからこそ、改めて情報収集に努めてるのだ。


 今のレギオンはぱっと見、肉色の芋虫。蠢く手足が見た目にもおぞましい。

 しかして形こそ芋虫みたいなものだが、大きさは無論比にならない。 


 目測で体高は5メートル強、全長は20メートル以上。湖の悪魔こと、エレクトロードパイソンを超える巨体なのだ。


 そんな全貌が見えたが故に、作戦の練り直しを余儀なくされる。


 俺にとっての第二案、キバを召喚しての正攻法は却下だ。


 何分、レギオンはでか過ぎる。

 みじん切りにして(コア)を破壊するという手段が分の悪い賭けになってしまった。


 レギオンの中心部に(コア)が存在するとしたら……キバの爪でも牙でも届きそうにないな。

 その前に『痛覚変換』からの『再生』、あるいは『増殖』に阻まれる結果が頭の中のシミュレートで弾き出されてしまう。


 ともすれば、他の方法で(コア)を破壊することになるわけだが……。


(不本意だけど、少し様子見るしかないか)


 一応、俺の中で別案も浮かんではいる。

 それでもまだ情報が欲しいのだ。とりわけ、レギオンの動きと狙いについてを。


「オアアアアアア!!」

(来るよ!)

(大丈夫、見えてる!)


 レギオンは攻撃体勢に移った。

 地面に触れる部分の手足を器用に動かし、這い出した。当然ながら俺に向かって。

 

(体当たりか。『恐慌』で動けなくなってたらおしまいだな!)


 その巨体だ。さほど速度は出ていなくても質量がとんでもない。

 運動エネルギーをまともに受けてしまえば、武装してようが関係無い。押し潰されてしまうだろう。

 下手したら『悪食』あたりでレギオンに取り込まれる可能性すらあるわけだ。


 しかしながら、こんなもの当たらん。

 真っ直ぐ突っ込んでくるだけなのだ。横に跳ぶだけで十分回避でき――


「アアアアアアア!」

(げっ! 『変形』か!)


 ――横切る最中に、レギオンの腕が視界に入る。


 人の腕の形は残していても、関節なんぞ有って無いようなもの。

 しなり、くねる腕は触手のように、俺に向かって伸びてきた。一本ではなく何本も、数えてなんぞいられるか!


(ああ、くそ! この手の『変形』とか勘弁しろっての。肉スライムか、この野郎!)

(こんなのとスライムを一緒にしないでよ!)


 ゴン!


 ――うえっ!? 触手を回避したと思ったら後頭部に衝撃が……!


 何か知らんが、アルカナに頭突きされてしまった。

 例えにスライムを使ったのが嫌だったのか。


(スライムはね、原点なんだよ。原点にして至高。レギオンとは違うの!)

(分かった。悪かったって!)


 ムキにならなくても良いだろ。ほんの例えなのに。


(それよか、アルカナは降りろ! さっきの攻撃が来るなら一人の方が避けやすい!)

(うーん、仕方無い。あたしは別の形で援護した方が良さそうだしね)


 その言葉の直後、俺の背中から重みが消えた。


 アルカナが素直に降りてくれた……と思ったのも束の間、俺の視界の隅にはアルカナの姿が映っている。フードを外したアルカナの姿が。

 

(お前、それだと『恐慌』が――!)

「大丈夫」


 俺を制したアルカナの言葉は、思念ではなく声。


 今の今まで『思念波』だけで会話していたのは、偏にレギオンの叫びで掻き消されるからだ。

 にも関わらず、アルカナの声はレギオンの叫びに掻き消されることなく俺の耳に届いている。


 そして言葉に続いて紡がれたのは……歌。


(『風魔術』、サイレント)


 透き通る歌声が辺りを包んでいる。

 アルカナの歌以外は何も聞こえない。声量で勝るはずのレギオンの叫びさえ聞こえないのだ。


(あたしは歌うから本当のサイレントとは違うけどね。でも、こうしている間はレギオンの叫びは墓地から漏れない。これ以上、誰の心も蝕まれることはないよ)

(……凄いな)


 アルカナの言葉どおり、今この場にはアルカナの歌声しか聞こえない。

 レギオンはこちらの事情などお構いなしに動いているが、一切の音が立っていない。全てアルカナの歌であるサイレントが掻き消しているのだ。

 

(音は消えてもレギオンの姿が消えたわけじゃないからね。そのうち誰かに気付かれるかも)


 まあ、散々大騒ぎしてるしな。

 いくら人気の無い墓地って言っても、こんなだけでかいのが暴れてたら目立ちもするか。


 ともあれ、レギオンの叫びが聞こえなくなったことで俺にも精神面で余裕ができてきた。

 何気にきついのだ。言葉にできない焦燥が常に纏わりつく感じは。


 そんな精神攻撃からの解放は、俺の閃きを促進させてくれる。


(見えたな。レギオンの狙いはやっぱ俺一択か)


 アルカナが姿を現しても、レギオンは俺しか狙わない。つまりはそういうことだ。

 嬉しかないけど、こいつは俺しか見えてないってな。


 そんな執拗なアプローチを躱しているうちに、俺の中でちょうど良い距離感も測れるようになっていた。

 一定の距離を保てば、レギオンの攻撃は喰らわないのだ。


 何せレギオンの攻撃は単調、知性の欠片も感じさせない体当たり一辺倒。

 『恐慌』さえ封じられれば、意外とどうにかできる相手っぽいな。


 とはいえ、『痛覚変換』の壁はいまだ破れていないのだが。


(マスター君、避けてばかりじゃどうにもなんないよ)

(んー……もうちょっとだけサイレント続けられるか?)

(あたしは大丈夫だけど……)

(なら、もうちょっと頼む)


 些か慎重になり過ぎたかな?


 とはいえ、俺もこの土壇場であっても閃いた以上試したいことがある。

 そのためにも、アルカナには悪いがもう少しだけお付き合い願うとしよう。


(……よし、シミュレート上はできた。頼むぞ、もう一人の補助核(おれ)!)


 

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