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第149話 疑惑の街リンクス 追跡を開始する


「俺がここに来る必要?」

「うん」


 俺がリンクスに来る意味……魔窟に関係とか? いやいや、アルカナには俺のことについて話はしていない。俺がダンジョンだとか、それに付随する能力は一切教えてないのだ。


 考えても仕方が無い。俺はアルカナに説明を求める……つもりだったのだが。


「そろそろだね」


 そう呟くと、アルカナはフードを被って姿を隠してしまった。


 こっちの理由は何となく分かる。誰かが墓地に近付く気配を感じるのだ。

 となると、アルカナはこの気配に見つからないように姿を隠したということだろうな。


「マスター君も隠れて」

「は? えっ!?」


 いきなり隠れろって言われても、俺にはアルカナみたいな便利な魔導具は無いんだよ。ええい、しゃあない!


「……これでどうだ?」

「うん、良い感じ」


 俺はベンチの裏に回って地面に伏した。

 勿論、それだけで隠れてると言えるはずがない。俺は自分にスキルを『付与』してある。


 『潜伏』と『擬態』。効果は……正直、自分じゃ分からん。


 多分、『潜伏』は『気配察知』みたいな察知系スキルを撹乱する類、『擬態』は見た目だろう。試して無いからはっきりしていないが。まあ、アルカナが良いって言うんだからちゃんと隠れているはずだ。

 それはさておき……。


「ほら、来たよ」


 アルカナの声で周囲に注意を向けると、墓地の入口らしき囲いの切れ目に人影があることに気が付いた。


 ……三人。全員人間か。黒いローブっぽい服装だが、怪しいというよりはむしろ聖職者? 神父のような出で立ちだ。一人は女性か。頭巾みたいなベールを被ってるし、シスターかもしれないな。


 ん? 遅れて来た人物もいるか。こっちは……ケットシーだな。一目で分かる。


 そのケットシーは作業員らしき男二人を連れている。そして、無骨な台車とその上に乗せられた木製の箱。大きさからして遺体が入った棺を運んできたってところか。


 むぅ……何か話してるな。遠い上にボソボソ喋ってるから全く聞こえん。

 ここは『聴力強化』で……。

 

「――葬の手続きは――」

「身内はいないから――」

「くれぐれも――」


 ぬうう……どんだけ小声なんだよ。聞き取りにくいぞ。周りの小さな雑音の方が耳に入るぐらいだ。


 そんな風に、俺が躍起になって耳を澄ましているうちに会話は終わってしまったらしい。ケットシーと男二人は踵を返して元来た道を戻っていってしまった。

 残されたのは神父っぽい男二人にシスター、それと棺が乗ったままの台車、だな。


 どうなんだろ、埋葬するなら予め墓穴を用意してそうだけどそんなものは見当たらない。おまけに参列者みたいな人もいない。この世界の葬儀については全然知らんが、身内はいないって言ってたしこんなものか?


 いや、アルカナの話を考えればこの後に行われるのは埋葬じゃないだろう。


 俺の予想が当たってるのか、神父が台車を手に掛け押し始めた。もう一人は支えてるだけ。

 シスターは……警戒員? 周囲を見回して部外者に警戒している様子が見て取れた。


 しかし、墓地には俺とアルカナがいる。

 俺にも見えてないが、アルカナに至ってはごく普通にベンチに腰掛け一部始終を見ているのだろう。真剣な顔をして警戒するシスターが、ちょっと気の毒に思えてしまう。


 ともあれ、三人は棺とともに墓地の奥に向かって進み出していた。


「マスター君、あれの後を尾けるよ」


 何となく、そんな感じもしていたよ。

 ってことは俺が来る必要があったってのと、あの棺云々は関係してるってことか?


 ……このまま行くと、後戻りできない気がしてきた。


(アルカナ、聞こえるか?)


 隠れながら堂々と会話するなら『思念波』が最適だ。俺はアルカナに思念を送って呼び掛けた。


(遅いよ、やっと使ってくれた)

(は? お前、俺が何してるのか分かってるのか?)


 さも当然のことと言わんばかりにアルカナは思念を返してくる。

 俺、『思念波』のことは教えてないぞ。


(マスター君がこういうことできるのは教えてもらってたから)

(誰に?)

(んー、女神様)


 なるほど……女神!?


(いやいや、ちょっと待て! 棺どころじゃないっての!)

(驚くのは分かるけど、詳しいことはこれから起きることが落ち着いてからの方が良いと思う。『女神の加護』があるマスター君があたしのこと信じてくれるならね。どうする? 追跡は止めとく? マスター君の答えは知ってるけど、一応聞いとくよ)


 『女神の加護』のことまで知ってるって……アルカナは本当に女神と接点があるのか? 

 あー……アルカナと会ってから頭が追いつかないことばっかりだ。悩んでる間にも奴さんらは動いてるし……。

 

(アルカナ)

(ん?)

(追跡は続ける。だけど)

(うん。マスター君が守ってくれるなら、あたしも守るよ。約束)


 約束か。守るよ、それは絶対に。俺がアルカナを放っとけない理由が増えたしな。

 しっかし、女神ね……。女神様とやらは本当に何をお考えになってるのか分からん。俺を掌の上で弄んでいるような気がしないでもないが……不思議と嫌な気はしないんだよな。


(マスター君、ぼんやりと思い耽ってるとこ悪いけど)

(すまん、切り替える)


 俺とアルカナがやり取りをしている間に、三人は墓地の奥に消えてしまった。

 何せこの墓地、殺風景だがやたらと広い。区域を分けてるのか、背の高い垣根のせいで奥まったところまで視界は届かないのだ。


 とはいえ、俺には察知系スキルがあるので全く焦ってないが。

 三人は気配がモロバレ、台車の音も消せてない。健気に台車を押しているのが見えなくても分かる。


 それじゃあ動くとするか……の前に。


(アルカナ、何かあったら指示くれ。それに従う)

(何で?)

(多分、そっちの方が良い気がする。何となくだけど) 

(……)


 ……あれ? 見えないけどアルカナが笑顔になった気する。まあ、良いや。


 ともあれ、俺は今度こそ本当に追跡を開始した。

 

 念には念を押して『消音』も『付与』。こうなってくると完全に隠密行動特化だな。

 初めこそ忍び足で進んでいたが、すぐに普通に歩き出していた。


 何と言っても足音が完全に無いのだ。服の布擦れやうっかり剣の鞘が墓標に当たっても無音。思ってたより『消音』すげえな。


(ほら、もうちょっと早く歩いてよ。見えなくなっちゃうよ)

(悪い悪い)


 アルカナに促された俺は小走りに切り替える。無音であることに感化されてか、無意識に忍者走りで。


 それはさておき、アルカナが急かす理由が分かった。

 目標は墓地の一画にある建造物に入ろうとしているのだ。


 一見すると祠かな? 石造りの小さな蔵にも見えるが、大きめの祠の方がしっくりくる。

 大きめとはいえ、大人三人と台車が入るには些か窮屈に見える……が、そもそも入口のような扉が無い。少なくとも俺から見えている位置からは。


(あれね、あたしもよく分からなかったけど魔導具で偽装された扉なんだよ。ほら)


 なるほど、面白い。

 祠の前に立っていた三人は、俺が見ている前で順番に姿を消している。


 消えるって言っても、祠の壁に向かって歩いているだけなんだけどな。

 アルカナに魔導具って言われなかったら俺も驚くだろうが、トリックがバレてたら「ふーん」程度のものだ。

 ここでもシスターが最後まで警戒しているが……全く意味が無い。しつこく辺りを見回しても無駄、あんた察知系のスキル無いだろう。


(配役ミスだなー、台車押してた男は『直感』あったのに。下っ端っぽかったし、力仕事に回されたのかな)

(そういうこと言わないの。おかげで楽に追跡できるんだし)

(それもそうか……って、あれの中どうなってんだ? すんなり入っていったけど、そんなに広いのか?)

(ふっふっふ……中に入ってのお楽しみだよ)


 この口ぶり、アルカナは中がどんな風になってるのか知ってるみたいだな。

 まあ、俺にはダンジョンがある。見た目と中の構造が一致してないなんて日常茶飯事、魔導具の扉の方が新鮮というものだ。

 それでは見せてもらおうか、魔導具の扉の性能とやらを。


(マスター君、開け方も知らないのに格好つけてどうするの?)


 ……またもや見えてないけどアルカナが笑った気がする。しかも、すっごい良い顔で。



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