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第148話 疑惑の街リンクス 公爵の狙いとは

すみません、更新が遅れました。


「アルカナ……!?」


 俺の鼻先を摘んで笑顔を見せる少女はアルカナだった。


 そのあまりに突拍子もなく微塵も予想していない形での再会に、俺の思考は全く追いついていない。ただただ、目の前のアルカナを凝視するしかできないでいた。

 そんな俺のことなど気にする素振りも見せずに、アルカナは俺の右手首を掴んで一言。


「それじゃあ、行こっか」

「は?」


 「ちょっと待て」と言う暇すらない。俺の手を引くアルカナは、冒険者ギルドの中……ではなく、大通りとも違う人気の少ない路地に向かって歩き出していた。


 ……いやいや、おかしいだろ。こいつの行動一つ一つが意味不明だ。

 いくら俺でも、このまま黙って付いていくほど頭が平和じゃない。


 多少乱暴ではあるが、力任せに……って、振り解けない? 


 それでも俺の抵抗は伝わったのだろう、アルカナは俺を一瞥して口を開く。


「マスター君、説明は後でするから今は付いてきて」

「あ、ああ……」


 アルカナの顔に笑みは無い。俺を見据える目は真剣そのものだ。

 『威圧』でもない、有無を言わせない迫力に俺は思わず頷いていた。


 真剣な表情のアルカナはともかく、前もこんなことあったな。

 カラカルで冒険者ギルドに連れ込まれた時だ。あの時も俺はアルカナに腕を引っ張られて連行されたのだが、抵抗むなしくなすがままにされていた。


 しかし、今回はちゃんと力を込めた。逆に引っ張り返すぐらいには抵抗したのだ。

 アルカナの何処にこんな力が……。

 

 そんな疑問に答えが出るより先にアルカナの歩みが止まった。どうやら目的地に着いたらしい。


「ここは?」


 これといった建造物がない更地……でもないな。

 だだっぴろい広場に規則正しく並び立った石碑や木碑。苔が生えて寂れているものもあれば、手入れされてきれいに整備されたものもある。中には花が添えられているものも目に入るな。

 俺の知るものとは若干様式が違うが、雰囲気がよく似ている。恐らく墓地だろう。


 俺の手を離したアルカナは、墓地に似つかわしくない明るい笑顔でそれを肯定した。

 

「ここなら人が少ないからね。それに、後で来るんだからついでだよ」


 後で? ……墓地に?


「さてと、何から説明しようか?」


 そう言うと、アルカナは墓地の隅にあるベンチに腰掛けた。

 座った隣をポンポンと叩いているってことは、座れってことだよな? ……やれやれだよ。


「何からも何も無いだろ。全部だ、初めっから」

「やっぱり?」


 ニッと笑ったアルカナは、領主から依頼を受けたところから順を追って説明を始めた。


 しかし……説明を求めておいて何だけど、細かいことは俺の頭に入っていない。アルカナは俺達が心配していたような事態には陥らず怪我も無い。それだけで何よりなのだ。

 一頻り説明を聞いたら俺のダンジョンで一緒に帰るとしよう。


 そう考えた俺は、いつしか心穏やかにアルカナの話を聞き入っていた。


「そんでね、あたしはリンクスに着いた後は屋敷に忍び込んで公爵を見張ってたんだよ」

「はあ?」


 訂正、全然心穏やかになりきれん! こいつ、今とんでもないこと言ったよな!?


「お前、忍び込んだってマジか?」

「うん、マジ」


 あっけらかんと言い切るアルカナ。

 話が違うぞ、領主。目立つ行動は禁止してたんじゃなかったのか……?


「うんまあ、言われてたんだけどね? でも、それどころじゃなくなったから。見つからない自信もあったし」

「見つからないって……」

「マスター君だから教えちゃうけど、あたしの最大の特技は『潜伏』! それに奥の手も使えば本当に見つからないよ。マスター君もさっきあたしが後ろに回ったことに気付かなかったでしょ?」

「奥の手?」

「ふふん、こうやってね」


 またもやニッと笑ったアルカナは羽織っている草色のローブに手を掛けた。

 そのままフード部分を頭に被せた瞬間――


「えっ!?」


 ――俺の目の前にいたはずのアルカナが消えた。


 景色に溶け込むように消えたアルカナに『気配察知』も反応しない。姿が見えなくなっただけかと思い、恐る恐る手を伸ばしてみたが触れられない。アルカナの存在自体が消えてしまったように。


「このローブは魔導具なんだよ。フードを被るとあら不思議、存在が感知されなくなるみたい」


 声がする位置はアルカナが座っていた場所。どうやら動いていないらしい。

 ……触れられなくなるとか、そんなのアリか?


「でも欠点もあるよ。この状態だと、あたしは他のスキルが使えない。魔術もね」


 フードを外したらしいアルカナは姿を現した。俺の手はまだ伸ばしたままなのに。

 つまり、アルカナと俺の手が同じ場所に存在するというわけで……!


「あー、何処触ってんのー?」


 いやいや、触ってねーし! 弾かれたし!

 って言うか、もしも俺の手がアルカナの腹を貫くとかしてたらどうするつもりだ!?

 合体するとかいう可能性もあるかもしれない、とにかく正気とは思えんぞ!


「あはは! そんな顔しないでよ。大丈夫、あたしが元に戻るとお互いが干渉して弾くみたいなんだ。あんまり大きいもので試したことないけど、小さいものだったら今みたいにね」

「おい、それでも止めろ。心臓に悪いっての」

「ごめんごめん。でね、本題。リンクス公爵は皆が思ってるよりヤバいよ」

「ヤバい?」

「うん。カラカルを襲った犯人かどうかは分からないけど、関係はしてる。狙いは多分……死体」


 聞き返そうとしたが、俺は言葉を詰まらせた。

 もしかしてだけど……アルカナが俺を墓地に連れてきた理由って、死体が関係してるのか?


 そんな俺の様子を察してか、アルカナは周りを見回しながら話を続けた。


「この墓地、実は何処にも遺体なんて無いんだ。全部掘り返されてる、リンクス公爵の命令で。街の住人のほとんどは知らないけど、中には知ってる人もいるよ。作業させられた人だろうね。だけど口止めされてるみたい、言ったらどうなるか……分かる?」

「自分が死体になる」

「うん」


 ……マジか。でも、何で死体がいるんだ?

 墓地だけでも相当な死体がある。死体欲しさにカラカルに目を付ける意味が分からん。死体マニア……なわけないよな?


「あたしも死体を収集してるだけじゃ屋敷に忍び込むなんてしないけど、リンクス公爵の噂も聞いたから……

思い切って忍び込んじゃった」

「思い切ってって……無茶するなよな。んで、その噂ってのは?」

「噂は何らかの実験に使ってるかもって話だったんだけど、実際は……ううん、ある意味当たってるかも。リンクス公爵は亡くなった家族を蘇らせる儀式に死体を使うみたい」

「蘇らせるって……死んだ人をか? 死体を使ってそんなことできるわけ――」


 ――いや、断言できなくもない。


 俺にも『創造』がある。死んだ者を生き返らせるとは違うけど、新しい生命を生み出すことができるのだ。『創造』と似たスキルなんかがあれば、あながちできないとも言い切れない。


 死体を利用っていうのも、『分解』みたいなことに使えば合点がいく。

 生き返らせるために必要な力を死体で賄う……あり得るな。


「アルカナはその儀式がどんなものか知ってるのか?」

「んー……屋敷に忍び込んでる時、公爵の部屋は入れなかったんだけど独り言は何度か聞いてた。死体のことを贄って呼んでたり、神に捧げるとか何とか。具体的な方法はさっぱりだけど、第三者がいるかもしれないね」


 贄に神か。

 神はともかく、俺の推論と照らし合わせても合致している点が多いな。


「リンクス公爵の亡くなった家族っていうのは?」

「夫人とお嬢様。何年も前に事故でだって」

「事故?」

「こっちも詳しいことは分からないよ、街の人に聞いても教えてくれないから。隠れて話を聞こうにも、そんな話、誰もしないしね」


 これは偶然か?


 カラカル領主の両親も事故に見せかけられて亡くなっていた。リンクスも同様だとしたら……その『神』ってのが怪しい。ともすれば、一連の事案はそいつが元凶の可能性が高くなるのだ。


「マスター君、何か考えてるね?」

「ん? ああ、俺なりにな。あー……そうだ、一旦帰るか。アルカナの無事も報告しとかないといけないし」


 アルカナのペースにすっかり振り回されていたけど、元々の最重要事項はアルカナの救助だった。

 って言っても、その必要は無かったみたいだけどな? まあ、迎えに来ただけと思えば良いことだ。


 そういえば……何でアルカナは領主に無事を知らせなかったんだろう。


 そんな俺の問いに、アルカナは何事も無いように澄ました顔で答えを返した。

 

「マスター君がリンクスに来る必要があったからだよ」



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