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第142話 思いが繋ぐ標

今回は短いです。


「さっきも言ったとおり、俺はアルカナを助けに行きますよ。たとえ、誰かに止められたとしても」

「……ありがとう」


 俺の言葉に、領主は年相応とも取れる笑顔を向けている。

 眩しい笑顔とはこのことか。普段の凛とした表情とのギャップが著しい。


 俺は思わず目を逸らすと、コテツも同様だ。どぎまぎした様子で視線が浮ついている。


 何をしとるんだ、俺達は……。


「話を戻しても良いかな?」

「「はい!」」


 いつもの領主に戻っている。今はこっちの方がありがたい。


「まずは状況を整理する。次に指針だ。行動はそれからにしよう」


 そう切り出す領主に、コテツが頷く。

 残念ながら俺は何の情報も持っていない。ここは二人の話に耳を傾けるしかできなさそうだな。


「リンクスからの商人の数に変化はないニャ。ネルさんからもこっそり聞いたし、オイラの目でも確認してるから間違い無いニャ」

「ふむ、私の方もカラカル訪問者の内訳を確認している。リンクスからの往来に変化は無い」


 なるほど、コテツと領主からの情報では、街そのものに怪しいところは無いのかもしれない。

 そもそもリンクス公爵がクロと決まったわけでもなく、公爵に疑いの目を向けさせようとしている者の仕業の線も残っている。

 素直にリンクスに向かったところで、何も掴めない可能性すらあるのだ。


 そして……考えたくはないが万が一ということもある。

 事態が事態なだけに最悪の結末も考慮すべきなのだが、領主はそれに気付いているのだろうか?


 俺は領主に目を向けると、考えを察したのか小さく頷き口を開いた。


「ふむ、先にこれを見せておいた方が良いかもしれんな」


 そう言うと、領主は懐から取り出した物をテーブルに置いた。

 それは青い宝石をあしらったペンダント、領主の屋敷でコノアが見つけたものだ。


「これは……一体何ですかニャ?」


 コテツがペンダントを凝視している。もしかして、『目利き』しているのか?

 それに対して、領主は明らかに眉を顰めている。

 

「……感心せんな、商人の悪い癖だ」

「あっ! し、失礼しましたニャ!」

「これは大事な物でな。友人から……アルカナからもらった私の宝なのだ。あの時……コノアが見つけてくれたことに感謝しているよ。これは私とアルカナを繋ぐ標なのだからな」


 んん? よく分からん。

 ペンダントが標って、発信器的なものか? 


「にわかには信じ難いだろう。まずはこれを見給え」


 領主がペンダントに手をかざすと……宝石が光を放ち出した。

 放つと言っても淡い灯火のような光だ。宝石と同じ、青い光がわずかに確認できる程度の。


「この宝石が光を放つ限り、アルカナは生きている。一種の魔導具、生存と場所を指し示すためのな」

「アルカナの場所も、ですか?」

「うむ。今は距離が離れているために弱い光だが、距離が近付くとはっきりしたものになる。さらにはアルカナのいる方角まで分かるのだよ」


 領主が手を離すと、光は収まりを見せた。


 うーん……仕組みは分からんが、かなりの手がかりになることは分かった。

 発動方法さえ理解していれば、誰でもアルカナを探せる魔導具なのだろう。

 何よりアルカナの生存が確認できるというのが大きい。これに光が灯る限り、アルカナが無事だという希望が持てるのだ。


 だが、逆もまた然り。


「もしもこのペンダントが光を失う時、私は大切な友人を失う時だ」

「……」


 何処かで生きている、そんな希望すら欠片も残さず消え去ってしまうことになる。


 ……それだけは嫌だ。絶対に嫌だ。

 今、生きているなら何が何でもアルカナを救う。


「領主様、これを発動させるにはどうすれば?」

「発動方法か。手を添えてアルカナを思えば光が灯る。それだけだ」

「えっ、それだけ?」

「うむ」


 力強く頷く領主、その目に嘘偽りは無さそうだ。

 そして、やってみせろと言わんばかりの眼差しを向けている。


 ……やってみるか。


 俺が領主に倣ってペンダントに手をかざした。そのままアルカナを思い出す。別れ際の、寂し気な顔を――


「おお!」

「ニャんと!」


 ――光った。……っていうか、光り過ぎだ!


 灯火なんてものじゃない。直視できないほどの眩い光を放っている。

 咄嗟に両手で光を覆うものの、指の間から溢れた光が辺りを照らし続けていた。

 

「こ、これどうすんの!?」

「加減できないのか!?」


 加減って言われても……ええっと……イメージを変えよう。いたずらっぽく笑ったアルカナに。


「ふぅむ……収まったな」

「ビックリしたニャ」


 何だこれ? 今は領主と同じぐらいの光に留まっているが、原理がさっぱり分からんぞ。


 どうしたものかと領主を一瞥すると、領主は軽く咳払いをしてから切り出した。


「……君のアルカナへの想いはよく分かった。君にこのペンダントを託そう。どうか、これでアルカナを救ってやってくれ」

「そういうことかニャ。種族を超えた……ロマンチックではあるがニャ」


 待て、違うぞ。そういうのじゃない。

 完全に誤解だ、多分……。


「そんな顔するんじゃないニャ。自分の気持ちに整理をつけるには時間が掛かるものニャ。それより、他にも考えないといけないことがあるニャ」


 コテツ……これが済んだら覚えとけよ。



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