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第132話 仕事を与える


 ビークは不完全とはいえ、自分の意思で進化できる。

 そこで少し気になった俺は、ビークを『鑑定』してみると……やっぱりか。

 進化が解けても『次元力操作』が残ったままだ。


 ビークだけじゃない。他の眷属達も目に見えない変化が起きていた。

 驚くことに、誰もが新しくスキルを身に付けているのだ。

 

 とりわけ、俺を驚かせたのはキバだ。


『我の中にもう一人の我がいるように感じます』


 その言葉が表していたものは、キバに宿った『不屈』だったのだろう。キバは新たにユニークスキル『不屈』を手に入れていた。


 効果は定かではないが、キバにとって必要なスキルかもしれない。

 俺も『不屈』には助けられている。自分じゃ耐えきれない場面でも、土壇場で支えてくれるのだ。発動するタイミングが分からないので、存在自体を忘れがちだけど……。


 そして、ノアにもユニークスキルに『変形』が加わっている。

 これはコノアとの合体後に発現していたスキルだ。通常時のノアでも、体の形を自由に変えることができるようになったというところだな。


 だけど、ノアよりもコノアの方が変化は大きいようだ。

 『魔力放出』……二十体いるコノア全員が、このスキルを扱えるようになっていた。

 ただ、コノアの能力値を考えると威力はそこまで無さそうだし、護身手段ぐらいのものとして考えた方が良さそうだな。一応、人に向けて撃たないようにしっかり言い聞かせておこう。


 さて、俺と戦闘した眷属達がスキルを手に入れたのは何となく理由が分かる。

 興味深いのは、戦闘に参加していない者達も各々が成長していることだ。


 野生のブラッドウルフを統率できていたことからも分かるように、ルズには『統率』が確認できた。

 それに加えて『調教』なるスキルまである。俺も知らないスキルだ。入手の経緯は推して知るべしというところだろう。


 勿論、他のコウガ達にも新しいスキルがある。


 好奇心旺盛なシナバーに『植物学』、フェズに『菌類学』、パプリカに『薬学』が。

 豪快なバッカスに『狩猟』、強気なヴォルカンに『威圧』、走ることが好きなマゼンタには『脚力強化』が。

 いつも冷静なアガットには『気配察知』と『魔力感知』の二つ。

 おとなしいモナミには『消音』と『潜伏』の二つ。

 そして、いつもぼーっとしてるコーラルには三つ。何故か『毒液』、『麻痺液』、『状態異常耐性』だ。


 いや、コーラルだけ明らかに変だろ。種族を間違ってるようなラインナップだ。俺としては面白いけど。


 面白いといえば、ランディとアーキィだな。

 ソイルリザードのランディには、本来『土魔術』があった。しかし、今は無い。『土操作』に変わっているのだ。

 アクアリザードのアーキィも同様、『水魔術』から『水操作』に変わっていた。


 これは劣化ではなく、スキルの進化に当たるのだろうか?

 魔術という概念から意志で操作できるもののような……うん、分からん。けど、多分そんなところだろう。

 そして、二人のスキルが変化した切っ掛けは……。


「何スか?」


 俺の視線に気付いたビークが首を傾げる。


「ビーク、ダンジョンをイジってる時ランディとアーキィはどうしてた?」

「一緒にいたッスよ。二人とも、興味津々だったッス!」


 やっぱりな。ビークの『生成』を側で見ていた影響だろう。


 ともあれ、眷属達が成長しているということは喜ばしいことだ。

 スキルの習得には鍛錬が必要って話だったけど、思っていたより全然早い。

 努力の成果って、こんな早く結果が出るものでもなかろうに……。


 なんて考えてもつまらないか。次元力のおかげと考えれば大概のことは納得できるしな。


「よし! じゃあ次の話に移ろうか」


 俺の言葉で眷属達の視線が俺に集中する。

 ダンジョン内は先程までの喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 

「本当はもっと早く決めるべきだったんだけど……皆にはそれぞれ役割を持ってもらおうと思う」


 俺は眷属には自由な行動をさせることが多かった。

 呼べばすぐに来てくれるし、頼めば何でもやってくれる。今まではそれで良かったんだけど、どうにもそれはいけないようだ。


 役割が人を育てる……というわけではないが、自分に役割や責任があればそれが自信に繋がる。

 枷と考える場合もあるだろうけど、意外と心の拠り所になる場面もあるのだ。


 我ながら今さらだと思う。

 もっと早く気が付いてれば、キバにも不憫な思いをさせることはなかっただろうに……。


 ええい、人間万事塞翁が馬! 雨降って地固まるだ!

 反省しても引き摺らない、それが俺の持論だ。眷属達が心配そうに見てるしな!


「おほん! えー……ビークはもう分かってるな?」

「うッス! ダンジョンの番人ッス!」


 「おー!」という眷属達の感嘆の声が響く。皆に人間のような手があれば、ここで割れんばかりの拍手が送られていることだろう。


「ビークの流れから、次にランディとアーキィな。二人はビークを補佐してくれ。まあ、今までどおりだ。加えて、二人のスキルでダンジョンに変化を与えることも許可する。そこはビークが面倒見てやれよ」

「こ、光栄……!」

「ありがとうございます!」

「じゃあ、二人とも改めてよろしくッス!」


 再び響く眷属達の声。さっきよりも大きいな。

 祝福も含まれてるのだろう、その様子に見ている俺も嬉しくなる。


「で、次はキバ」

「はっ!」


 おお……すげえ期待の眼差しだ。

 その期待に応えられるか分からんが……。


「キバの仕事はコウガとブラッドウルフの統括……だけど、基本的にそっちはルズに任せる」

「は? はぁ……」


 キバはあからさまに肩を落とした。

 まだ途中だっての。


「キバはダンジョン内外の守護全般、それと俺の代行な」

「そ、それは……?」

「何かあった時、お前が前に出て皆を守るんだよ。ダンジョンだけじゃないぞ、コボルトやトードマンも守らないといけない大事な役割だ」

「おお! その役目、有り難く! ……それと、マスターの代行というのは?」


 ぶっちゃけ、パシリでもあるけど物は言い様だ。


「俺の手が回らない業務をお前に任せる。当面はヘルブストの森の地図作成、重要任務だぞ」

「重要任務……!」

「返事は?」

「御意!!」


 よしよし、当面も何も今のところは他に思い付くものが無いけど、上手くいきそうだな。


 地図の作成は以前から進めている。

 コボルト達の助力もあって、徐々にではあるが森の北部の全体像が見えてきた。

 しかし、せっかくなのだ。単純な地図だけでなく、生息する生物の分布も分かれば今後の活動の役に立つだろう。


「シナバー、フェズ、パプリカはキバとともに森に生息する植物の情報の入手を頼む」

「「「はい!」」

「で、キバにはこれを――」


 生物と言うからには勿論、魔獣も含まれている。

 なら、これをキバに『付与』しておけば魔獣の情報も手に入るだろう。

 当のキバはよく分かってないみたいだけど。


「これは?」

「『鑑定』だ。これで判明した魔獣の情報も残してくれ。頼むぞ」

「スキルまで! 必ずや期待に応えましょうぞ!」


 うんうん、やる気があって何よりだ。

 キバが頑張ってくれれば、俺の冒険者としての依頼も達成できる。あえて言わないが、代行とはそういう意味なのだ。


「ルズはブラッドウルフの訓練と引き続きキバの補佐だ。他のコウガはコボルトやトードマンの守護、手が空いた時はルズの補佐をしてくれ」

「はっ!」


 ふう……後はノア達か。気のせいか、ノアがこっち見てる気がする。コノア達も。


「えーっと、ノアは……秘書だ」

「秘書?」


 思い付きだけど、案外ぴったりかもしれない。


「ノアは俺の補佐全般。何をしろってのはちょっと思いつかないけど、用事は色々頼むと思う」

「分かりました!」

「コノアハー?」

「コノアは皆のお手伝いだ。大変だけどできるよな?」

「デキル!」


 嬉しそうにピョンピョン跳ねるコノアには申し訳無いけど、本当に何も思い付かなかった。

 ノア達に関しては、正直言って今までと何も変わらないんだよな。


「俺からは以上……だな。よし、解散! 各々の仕事に邁進してくれたまえ!」


 やれやれ……柄にも無いことをすると疲れる。

 けど、この後はさらに疲れることになるだろう。これから謝りに行かないといけないんだからな……。



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