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第125話 立ち塞がる関門 『生成』


「これなら避けれないッスよね!」


 ビークは再び地面を強く踏みしめると、泥沼化していた地面に動きが生み出された。


 地面が泥沼……つまり半ば液体となっているので、当然ながらその動きは水の流れによく似ている。

 動きが徐々に速度を増していく中で、その流れが円を描きながらビークに集まっていることが見て分かった。


「これは……渦か?」

「そう、渦ッスよ! だけど、こんなことしちゃったりして!」


 ビークはフフンとふんぞり返りながら、軽く足踏みをした。

 次の瞬間、俺の『危険察知』が反応する。


 ここにいるとまずい!


 ――ドボォア!


 渦を巻く濁流から岩の塊が突き出てきた。俺に向かって……ではなく、全く違う方向に。


 だが、ビークの狙いは元々この方向だったのだろう。

 突き出た岩は壁に当たるか当たらないかの長さ、それが角度を変えて何本も伸びている。

 その岩の塊に渦の流れが加わると――


「おま……くそっ!」


 壁に張り付く俺を掠め取るように、岩の塊が横薙ぎで迫ってきた。


 壁を蹴って避けるには避けたが、足場の無い地面に着地できるはずもない。『噴射』を使って、再び壁に張り付いた。

 しかし、この攻撃……一度避けただけでは回避したと言えるものではない。

 渦を描いているせいで、一度避けた岩が巡り巡ってまた迫ってくるのだ。


 何というか、ミキサーに放り込まれた食材になった気分だな。


 それでも安全地帯があるようだ。

 見る限り、観客席までは攻撃が届いていない。こんなあからさまな安全地帯というのもおかしい話だが、壁に張り付いているよりはマシだろう。さっさと避難しようとしたところで――

 

「先に言っとくと、ちょうど今の間合いが自分の『生成』の範囲の限界なんスよ」


 俺の行動を読んでたのか、ビークは何故か自分の有効射程を教えてくれた。

 このタイミングで言われても、それを信じて良いものか?


「疑ってるッスね……。本当ッスよ」

「何でそれをわざわざ俺に教える必要があるんだよ?」

「マスターなら弱点晒しても正々堂々勝負してくれるかなって思ったッス。自分が先にぶっちゃけたんスから、真っ向勝負してくれるッスよね?」


 むむむ……こいつ、俺がそんな熱血真面目野郎じゃないことを分かって煽ってやがるな。

 しかし残念だったな。その手には乗らん。

 ただでさえハンデがあるのに、そこまで付き合ってられんのだ。俺は遠慮無く観客席へ逃げ――


〈マスター〉


 ……駄目ですよね。ええい、分かった!


「後悔すんなよ!」

「うはっ! 威勢が良いッスね!」


 せめて威勢ぐらいはな! しかし、困ったぞ……。


 攻撃は何とか回避できている。

 パターンがある程度決まってるおかげで、回避しているうちにほとんどリズムで避けられるようになっていた。


 その中で反撃も試みている。

 しれっと『噴射』にDPを混ぜて部屋全体に『発電』してやろうと画策したものの、ビークが「何かしてるッスね?」と、空気を『生成』し始めた。


 要は換気ということだが……それだけで俺の電撃が防がれるとは……。


 『生成』した空気はビークの周りから発生する。新しい空気が古い空気を押し出すおかげで俺のDPがビークまで届かないのだ。

 これでは電路が構築できず、いくら『発電』しようともビークにダメージは与えられない。

 伝導体をエレクトロードパイソンの体液に変えても同じこと。ビークに触れられなければ意味が無いだろう。


 こうなってくると『毒液』でも『麻痺液』でも、『噴射』を介した攻撃はやるまでもなく結果が見えている。


 ……開幕速攻で仕掛ければ良かったと後悔させられてしまった。


 とはいえ、俺は回避しながらも周囲の確認は怠らない。


 ビークは確かに器用だが、意外と抜けているところがあるからな。

 安全地帯が良い例だ。こいつ、一つどころか二つもあることに気付いているのだろうか?

 

 ……どちらにせよ、やってみるか。


 俺は二つ目の安全地帯に向かって壁を蹴った。


「待ってたッスよ!」

「だろうな!」


 俺が見つけた二つ目の安全地帯、それは渦の中心。ビークがいる場所だ。

 ビークも流石に気付いていた……というより誘っていたのだろう。俺が飛び込むタイミングに合わせて、腕を振り抜いていた。


「もらったッス!」


 ビークの右腕がカウンターの形で俺に迫ってくる。


 惜しいな。ビークは知らないだろうけど、今日一日で俺の切り札は一気に増えてるんだぜ?


 俺の視界は『高速思考』でスローに見える。

 長時間使えないのでここぞという時しか使えないが、使うならここだ!


「おらぁ!!」

「――うえっ!?」


 俺は急ブレーキでビークに空振りさせた後、脇をくぐって背後に回った。

 空中での急停止と方向転換に面食らったビークの顔も、俺の視界はばっちり捉えている。


 さて、至近距離なら『生成』の邪魔は入らない。直接、電撃を叩き込む!


 ――バチチチィ!


「あがががが!!」


 特別なことは必要無い。触れて『発電』、それだけで電撃は可能だ。

 威力は遊びで電気を流した時よりも少し強め、さぞかし気持ちが良いことだろう。


 そんな電撃を受けたせいでビークの『生成』が途切れたのか、渦は勢いを落とし、岩は濁流に沈んでいく。

 足場はまだ安定しないので、俺はビークの背中にくっついた状態でいるが……。


「お前、倒れないのか?」

「うごぉ……効いたッス。マジでマスターはどんだけ成長してるんスか……?」


 当の俺だって、こんな急成長することになるなんて思ってなかったっての。

 まあ、これで俺も結構強いってことが証明されたのかな? 今まではノアやキバ、ビークの方が強いって思ってたけど、ちょっとは偉そうにしてもバチは当たらんだろ。


 それはさておき……。


「ビーク、地面を戻してくれよ。もういいだろ?」

「ああ、そうッスね。これはもう必要無いッス」


 俺が背中に張り付いたまま、ビークは地面に両手を当てる。

 ビークが触れた地面から波紋は広がり、瞬く間に元の地面に戻っていった。勿論、飛び出た岩の塊もきれいさっぱり消えている。


「お前は『生成』する時、そうするんだな」

「マスターみたいに何にも無いところにいきなりドーンはできないッスよ。しかも、そのやり方って難しくないッスか?」


 確かに難しい。

 もしかしたら、波紋で位置を調整することもできるかもしれない。今度試してみよう。


 ともあれ、これでビークにも勝ったってことになるかな。

 ノアとキバに比べれば平和っちゃあ平和だけど、これぐらいがちょうど良い。仲間内で死闘なんてする意味が分からん。


 ビークの背中から降りた俺は、部屋を出る通路に向かって足を向けた。


「じゃあ、クリアってことで――」

「いやいや、まだ終わらんッスよ」


 俺の言葉を遮ったビークは、やれやれといった様子で肩を竦めていた。


「でも俺の勝ちだろ? 後から三本勝負ってのは無しにしろよ」

「うーん……それは分かるッスよ。自分もこんなつもりじゃなかったッスから。でも、マスターは自分との勝負で何か掴めたッスか?」


 掴む? 何を?


「はは……その様子じゃ、駄目ッスね。はぁ……まだものにしたわけじゃないから、やりたくなかったッスけど」

「お前……さっきから何言ってるんだ? そう言えば、戦う前に『手向け』がどうのって言ってたな。あれはどういう意味だ?」

「それはまあ……直に分かることッスから、自分の口からは言えないッス。ふぅ……」


 直に分かるってどういうことだ? しかし……。


「お前、今から無理しようとしてないか? キバの件もある。正面きって無理はさせんぞ」

「……無理するッスよ。マスターでも……いや、マスターにだからこそ無理しないといけないッス」


 またか……何がこいつらをそうさせるんだ……?

 


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