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第13話 いざ、森へ

 

「案内って……ええっ!?」


 ココは間の抜けた声を上げて驚いている。

 言ってる意味、分かってるかな? もう一回言ってみよう。


(ココ、お前の仲間に会わせてくれ)

「……」


 危害を加えないって言葉、忘れたのか?

 ココは、あーとか、うーとか唸って困惑している。


「マスター、何故ですか? マスターとコボルトは何か関係があるんでしょうか? わざわざ危険な場所に行く必要は無いと思います」


 ノアは言い切った。


 そりゃそうだ。

 今日出会ったばっかりのコボルトを助ける。意味が分からないだろう。

 ノアにとって大事なのは俺であり、ダンジョンなのだ。

 ノアがスライムだから……なんて言うつもりも無い。ノアが正しい、俺にも分かる。


(ノア、ノアが俺のことを大事に思ってくれてるのと同じで、ココはココの仲間が大事なんだ。俺はその心意気ってやつを汲んでやりたいんだ)

「マスター……。ボクには分かりません……」

(ノア、別に死にに行くんじゃ無いんだぞ? 行くのは俺だけだし)

「マスター!? それは駄目です! 行くならボクも行きます!」

(いや、ノアにはやってもらいたいことがあるんだ。コノアもこの状態だしな)


 俺はコノアに目をやると、まだ調子が悪いのだろう、コノア達の形が安定していない。

 そして、ノアだけに聞こえるように――


(お前に(コア)を守ってもらえれば俺は死なない。だから俺は安心してここを離れられるんだ)

「マスター……分かりました」


 どうやら、渋々ながらも納得してもらえたようだ。

 まあ、まだ状況を理解してない奴もいるけど。


「マスターさん、どうして一緒に行くんですか……?」

(さっき言っただろ? 蟻の蜜をやるって)

「えっ? あ、はい……確かに聞きましたけど……」

(俺が直接渡す)

「えっ? そんな! 大丈夫です、私が持っていきますよ。わざわざマスターさんが来る必要なんて……」

(うるさい、俺が直接持っていく。嫌なら、この話は無しだ)

「ええ!? そんな……分かりました、案内します……。案内しますけど、どうなっても知りませんよ……?」

(よし! じゃあ、ココが良かったらいつでもいいぞ)

「はあ……」


 うん、ココも納得したようだ。

 確かにココに渡せばそれで済むだろう。

 しかし、ココが無事に戻れるのか? 戻れたとしても、いくらかの蟻の蜜で仲間の飢えが凌げるのか? 恐らく一時凌ぎに過ぎないだろう。

 コボルトを本当に助けるべきかは、自分の目で判断したい。

 助ける必要があるなら、改めて方法を考えてやろう。

 勿論、敵対するならココには悪いが、それなりの対応を取らせてもらうつもりだ。


「すみません、そこの水って飲めるんですか?」


 ココめ……人が真面目なことを考えてる時に、こいつは……


(……ああ、飲めるよ。好きなだけ飲んでいいよ)

「やった! まともに水を飲むのは二日ぶりなんです。ずっと草の露で凌いでいたから……」


 そう言って、ココは頭を突っ込むようにして水を飲みだした。


 うーん、思ってる以上にコボルトってピンチなのでは?

 ココが大袈裟なのか、本当に困窮しているのか……。


 俺はココが飲み終えるのを待って、ダンジョンの外に出る。

 太陽は昇り、雲一つ無い。旅立つのに最高の日というやつだ。

 ココは遅れて外に出てくる。


(ココ、俺は森に入るのは初めてなんだ。お手柔らかにな?)

「はい、って言っても私だって道らしい道なんて知りませんよ。真っ直ぐ仲間の所に向かいますけど……」


 ココは平原を歩き出す。

 その歩みに迷いは無い。真っ直ぐ森に向かって行く。


 そういえば、ココは『方向感覚』っていうスキルがあったな。

 便利そうだ。俺も欲しい、『夜目』なんてものもあったな。

 よく考えるとこいつのスキルって、結構面白いんじゃないのか?

 うーん、やっぱり、『分解』した方が得かもしれん……。


 なんてことを俺が考えていたことはココには内緒だ。


「ところで、マスターさんは手ぶらみたいですけど……」


 おっと、そうだ。手ぶらはおかしいか。でも、どう説明したものか……。


(俺は、スキルで物の出し入れができるんだ)

「えっ? 本当ですか?」

(本当だって、ほら)


 俺は口から小石を吐き出した。


「飲み込んでいたわけじゃないですよね? さっきの魔術も石でしたけど」

(疑り深い奴だな。じゃあ。これならどうだ!)


 次は、水だ。口から大量の水を吐き続けてやる。

 ……水を吐き続けてる犬、これはこれで気持ち悪いな。


「分かりました! 分かりましたから、止めてください!」


 ようやく信じる気になったか。

 10リットルは吐いたんじゃないか? 足元がビチャビチャだ。


「あの……大丈夫ですか? そんなに水分出してしまって……」


 分かってねーな! もう知らん。


 ココの疑問は放っておいて森に向かうことにした。


 …… 


 森に入ると、流石に不安になってきた。

 今まではノアがいた。コノアもいた。振り向いたらダンジョンがあった。

 今は、俺より弱いココが一人。

 森と言っても、まだそこまで深いわけじゃない。だけど、一本一本の木が俺を威圧するように聳えている。


「!」


 ココが何かに反応した。


(どうした?)

「魔獣です、迂回しましょう」

(魔獣? 何処だ?)

「あそこ、正面の木に」


 んー? 木? あれか? あのでかい蛾のことか?



種族:魔虫・魔蛾、パラライズモス

生命力:32 筋力:11 体力:27 魔力:46 知性:19 敏捷:24 器用:18

スキル:麻痺燐粉



 パラライズワームの成虫か。

 麻痺させられたら危ないかもしれんが、迂回するほどか?

 近付かなければいいんだろ。


(ストーンバレット!)


 パラライズモスの留まっていた木ごと、撃ち抜いてみた。

 ココは目を見開いて何か言いたそうだ。


「わふ?」(駄目?)


 可愛く言ってみた。


「いえ……良いんですけど、体力は温存してくださいね」


 あっ、そうか。

 すっかり忘れてたけど、普通の生物は疲れるもんな。

 取りあえず、めちゃくちゃ体力あることにしておくか。


(俺のことは心配いらないぞ。一週間は休み無く働ける)

「……嘘ですよね。死にますよ、そんなことしたら」


 知ってる。前世で経験済みだ。


(とにかく、気にするな。自分の心配だけしてればいい)

「はあ……分かりました」


 ……


 その後も、俺達は森を進んだ。

 行きすがら、ココが食べられる草や木の実を集めたりしたが、さして時間は取られていない。

 今のところ、現れる魔獣も大したことのないものばかりで、俺が一撃で排除できている。

 迂回しないで良い分、スムーズに進めているらしい。

 俺としては折角倒した魔獣を『収納』できないのは痛い。

 森だけあって虫が多い。というか、虫ばっかりだ。こんな奴ら食いたくない。

 ノア達がいれば……と思ったりもしたが、考えても仕方がない。諦めよう。

 また、狩りにくればいいのだ。


(ココ、そろそろ日が落ちそうだけど夜も進むのか?)


 太陽は既に沈み始め、森の中は暗い。

 辛うじて、ココの形が分かる程度だ。


「そうですね……。私は暗くても見えますが、マスターさんは見えてないですよね。流石に私も疲れてますし、何処かで休みたいですね」

(こういう時、いつもはどうしてるんだ?)

「登れる木があれば、木の上で一晩過ごしたりします。無ければ、穴を掘って隠れたりしてます」

(凄いな……。取りあえず、今日はどうする?)

「ちょうど良い木がありますので、木の上で過ごします。あっ、マスターさんはどうします?」

(いや、木に登ろうにも俺は登れんぞ? 担いで登れるか?)

「……流石に無理です。じゃあ、木の根元で休みますか」

(警戒は俺がするから、ココは休んどけ)

「な、何言ってるんですか。交代で良いじゃないですか」

(言っただろ。俺は一週間は寝なくても平気だ。屁でもない)

「……分かりました」


 ココはすぐ側に聳え立つ大木の根元に腰掛け寛いでいる。


 さて、俺は見張りの前にやることがある。

 視界をダンジョンに切り換えて……。


 ……


(ノア、聞こえるか?)


 ダンジョンにいるノアに思念を送った。

 今の俺は、意識がダンジョンの(コア)に切り換わっている。

 この状態ならば、ダンジョン内部を視界に収めることができるのだ。

 ノアはコノア達と共に大広間にいる。どうやら、思念は届いたようだ。


「マスター! ご無事ですか!?」

(ああ、今のところ問題無いよ。そっちはどうだ?)

「こっちも問題ありません! コノアも元気です!」

(それは良かった。頼んだことは、してくれているか?)


 俺はノアに指示を与えていた。

 俺が不在の間、平原で狩りをしておいて欲しい、と。

 できるだけ『麻痺液』を使わず、獲物をきれいなままで『収納』するように指示していたのだ。


 ノアの返事を聞かなくても、結果は分かっていた。

 ちゃんと指示を守ってくれていたのだ。

 俺は『収納』されているものが何であるか、それがどんな状態なのかが、情報として分かる。

 平原の生物がきれいなまま『収納』されていた。


「はい! 勿論です! 必要ならまだまだ『収納』します!」

(程々でいいぞ。ノアが頑張ったら平原の生態系が崩れてしまいそうだからな。)

「マスターが望むなら、根絶やしにします!」


 おおう……物騒なことを仰るぞ、ノアさん……。

 それは流石にやり過ぎだ。


(しなくていい! 望んでないから! 根絶やしはいかんぞ、絶対に)

「はい! マスター! 分かりました!」


 この元気が反って怖いな。


 実際、ノアが『収納』してくれた量は凄まじい。

 俺が三日以上かけて狩る量を一日で狩ったようだ。

 ノアは『気配察知』を駆使しているだろう。

 もしかしたら『擬態』も使って、奇襲を仕掛けたのかもしれない。ほとんどの獲物が無傷に近く、抵抗したような痕跡も感じられない。

 こんなことなら、初めからノアに狩りをしてもらえば良かったのでは? という考えも浮かぶが、俺の狩りの練習だと思えば良い。うん、そういうことだ。


 俺はダンジョンの状況を確認し終えると、意識を化身(アバター)に戻した。

 意識を切り換えている間は無防備だ。注意しないと。

 幸い、何も起きていないらしい、ココは座って木の実を齧っている。


「マスターさん? どうしたんですか? ぼーっとしてたみたいですけど……。やっぱり、疲れているんじゃないですか?」

(ああ、すまん。ノアと連絡を取っていた。今度からココに一言声をかけるようにする)

「そんなこともできるんですね……。マスターさんって本当に何者なんですか? 上位の魔獣か何かですか?」

(こんな愛くるしい犬を捕まえて魔獣とは失礼な)


 そんな冗談を交えながら、森の中で一晩過ごした。


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