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第121話 立ち塞がる関門 キバ


「次は我がお相手いたします!」


 そう言うなり、キバは今にも飛びかからんと構えだす。

 しかもキバは初っ端から全開でいくようだ。


「ウオオオォォ!!」


 咆哮とともに纏う青い光……『身体狂化』か!


 カラカル領主で見せたキバのスキル『身体狂化』は、元々『身体強化』だったものが進化したスキルだ。

 オウルベアとの戦いの中で見せた『身体強化』は、自身の命を削るほどに危険なもの。『身体狂化』に変わったことで、より一層危険なものになったかと思っていたが、どういうわけかキバは使いこなせているようだ。生命力の低下などは見られていない。



名称:キバ

種族:魔獣・魔狼、ルナティックウルフ

称号:特殊個体(ユニーク)、ダンジョンの眷属、名付き(ネームド)、魔狼の統率者

状態:身体強化

生命力:623 筋力:571 体力:589 魔力:429 知性:307 敏捷:891 器用:205

スキル:直感、咬合力強化、生者判別、夜目、気配察知、持久力強化、統率、再生、遠視

ユニークスキル:身体狂化



 やはりステータスに変化が起きている。

 能力値は軒並み上昇して……あっ、知性は多分変わってない。器用もだ。


 ……それはともかく、ただでさえキバの能力値は俺を完全に上回っているのに、これでさらに差が開くことになってしまった。


「さあ、ご覚悟を!」

「待て待て! ノアといいお前といい、何でそんな本気になってんだよ!」


 ノアと戦う前に支援者(システム)は訓練を兼ねていると言っていた。

 しかし、さっきのノアは訓練なんてものじゃなく、どこから見ても本気の様相だ。キバもそう、ただの訓練やダンジョンの試行にしては力が入り過ぎている。


 俺もノアがコノアと合体する前はちょっと激しい模擬戦ぐらいの気持ちでいたが、合体してからは普通じゃない。急にコノアが現れたことも含めて、誰かの差金としか思えんのだ。


「キバ、誰の入れ知恵だ?」

「む……く……言えませぬ……!」

「言えないってことは、誰かに言われてこんなことしてるんだな?」

「あ……う……グ……ゥオオオオ!!」


 俺に問い詰められて、突然キバは雄叫びを上げた。

 苦しんで、というより苦し紛れで叫んだようだ。俺の問いに対する答えは――


「参る!」

 

 ――そんな気はしてたよ!


 詮索は後回しだ。今はキバをどうにかすることだけを考えよう。

 正直、戦闘を回避できるなんて思っていない。誰の差金かも粗方見当は付いている。


 俺がキバに待ったをかけたのは、カマをかけるのと同時に周囲の状況を確認するため。キバがボロを出して白状すれば御の字だ。白状したところで、多分結果は一緒だろうけどな。


 それはともかく、純粋な戦闘力で劣る俺がキバと戦うためにするべきことは後者、周囲の状況を確認すること。それだけはどうしてもしておかなければならなかった。


 この部屋は森を模した空間。

 恐らくは俺のダンジョンが構成できる最大の広さの部屋だ。幅、奥行き、目一杯に広げた部屋に巨木が何本も立ち並んでいる。

 厄介なのは地面。巨木の根が剥き出しになっているせいで、ぼんやりしていたら足を引っ掛けて転倒してしまうだろう。それを除いてもこの部屋は足場が悪い。凹凸に富んだ地形、ぬかるみまであるのだ。森に慣れていなければ、キバの格好の餌食となること請け合いだ。


 当然、部屋の主であるキバは悪路をものともしていない。

 平坦な地を進むように、俺へ向かってまっすぐ突っ込んでくる!


「ストーンバレット!」


 キバの動き出しに反応したつもりで放ったストーンバレット、しかし遅い。行動に移した時点で俺とキバの距離は数メートルもなくなっていた。

 ぼーっとしてる余裕なんてものは始めから無い。そんなもの分かっていてこれだ。


「――小癪!」


 キバは軽く左右に軸をずらすだけで難なく回避してくれる。それも分かっていた。

 俺のストーンバレットなどただの牽制。『噴射』で緊急回避するための時間稼ぎだ。


 それであってもキバは速かった。

 ストーンバレットの効果はあったのか無かったのか、一瞬にして俺とキバの距離は目と鼻の先にまで迫っていた。


 キバは俺目掛けて爪を振りかぶる。


「御免!」


 律儀だな、お前は。だけど、それは――


「こっちのセリフだ!」


 ――バチチチチィ!!


「ぐおおお!!」


 キバの体から火花が飛び散る。それと同時に漂う焦げ付く匂い。


 やり過ぎたか? ……いや、確かにダメージは大きいようだが、キバの生命力は危険な域に達していない。

 ノアとの戦闘で多少の加減は覚えたつもりだ。


 俺の攻撃は『発電』による電撃。格上の相手に対する攻撃はこれが最も効果が高い。遊び半分でビークにかました時ですら、死にそうと言わしめたほどなのだ。

 出力は元になった力次第ってところか。俺の場合、DPをつぎ込めば威力はさらに上がるだろう。上限は分からないが、そんなもの怖くて試すつもりもない。


 それはともかく、俺はキバに仕掛けた攻撃は単純なものだ。


 緊急回避した瞬間に『発電』する、それだけ。

 ちょっと工夫したところと言えば、エレクトロードパイソンの体液を『噴射』せずに『次元力操作』で作ったDPの霧を混ぜたところだ。

 エレクトロードパイソンの体液を混ぜるよりDPの効率は悪いが、『次元力操作』も相まって効果範囲を絞り込めることができる。


 いくらキバがまっすぐ突っ込んでくるとは言え、ある程度は効果範囲を定めておかなければならない。

 これは一発勝負、次は無いのだ。


 ストーンバレットもキバの進路を限定するために一役買っている。


 俺は両手を起点にして魔術を放った。片方はギリギリ当たるか当たらないか、もう片方は大袈裟な回避をすれば当たるように。二発の弾道に挟まれたキバは、効率の良い回避をすると見込んだが……結果は予想どおり、最小限の動きで回避してくれた。

 あとは期待どおりの動きをしてくれたキバへ電撃をぶち込むのみだった。


「ぐ……ふ……」


 焦げ目の付いたキバがその場で倒れ伏している。

 立ち上がろうとはしているようだが、体が思うように動かないのか足に踏ん張りが効いていない。

 今のキバには『身体狂化』を維持する力も残っていないようだ。纏っていた青い光は消え失せていた。


「おい、無理するなって」

「しかし、まだ我は……」

「お前は確かに速かったけど、行動パターンは把握してる。俺の作戦勝ちってとこかな」


 何だかんだ言いながら、俺はキバと一緒にいることが多かった。こと、戦闘時に関しては特に。

 そのおかげで、キバの戦闘スタイルは概ね把握している。速攻と離脱、それがキバのスタイルだ。


 俺にとって一番恐ろしいのは、次に何をしてくるのか分からない敵。ノアみたいな変則的なタイプが一番怖い。

 魔窟なんかもそうだな。次の一手が不明な上に、規格外の攻撃やら行動やらが多い。

 二度戦ってなお、相手にしたくない難敵だ。


 それに対して、キバのような接近してくることが分かっている相手はある程度の対策ができる。

 俺の知る限り、遠距離攻撃は無いはず。なら、いくら速くとも接近してくることは確実だ。そこを突けば良い。


「マスターは……我がどう動くか御存知だったのですか?」

「ああ、大体は予想通りだったよ。ここが森なのも助かった。あんまり開けてるとキバの動きが分からなくなる可能性もあったしな」

「それでは、全てマスターの意のままだと……?」


 うーん……そこまで言い切るつもりはないな。


 そんな煮え切らない態度が良くなかったのか……。


「ククク……我はマスターを本気にさせることもできないということか……!」

「キバ?」


 様子がおかしい。キバは自嘲するかのように笑い出した。

 俺が心配したのも束の間、キバは笑いを止めて天を仰ぐ。


「この程度で終わってしまったら……申し訳が立たんのだああああ!!」


 キバの怒りを孕んだ叫びが部屋に轟いた。

 それに呼応するかのように青い光がキバの体に集まっていく……!


「――ウオオオオ!!!」


 キバが回復している! 『再生』じゃない、DP――次元力を自力で取り込んでるのか!?


〈これがキバの『身体狂化』です〉

「じゃあ今までのは違うのか!?」

〈キバの制御により『身体強化』で抑えられていました。今のキバはリミッターを外し、『身体狂化』を解放しています〉


 俺が『身体狂化』と思っていたのは『身体強化』だったのかよ!

 変なところで予想を裏切ってくれやがる!


「アオオオオオン!!」


 くっ……! キバの咆哮で空気が震える!

 とんでもない威圧感だ。オウルベアの『威圧』が可愛く思えるほどに……!


 俺は踏ん張ることで耐え凌ぐ。

 『不屈』の効果か、辛うじて身を竦まさずに済んだようだ。


 咆哮を終えたキバは、落ち着いた……わけでもなく、ただ俺を見つめていた。

 紅く灯った眼光には、とても理性があるようには見えない。


「グルルル……!」


 キバは真紅の牙を剥き出しにして唸る。

 目の前にいるキバは、いつもの従順な巨狼ではなく……血に飢えた狂狼の姿をしていた。



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