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第117話 自分で自分を攻略する 小手調べ


「ビーク、おつかれさん。出来たって聞いて見に来たぞ」


 支援者(システム)からの報告を受けた俺は、改装したばかりのエントランスからダンジョン区画へ移動した。


 エントランスから入った先は、ビークと色々試した滝やら川やらがある部屋だ。

 ダンジョン区画の改装を一段落つけたビークが、ここで休憩していると聞いてやってきたのだ。

 

 ビークは壁を背にして腰を下ろしていたが、俺の声に反応してのそのそと立ち上がる。


「ふう……今回は流石に疲れたッス。でも面白くて、ついつい夢中になってしまったッスよ」

「みたいだな。ってか、お前……飯の時もいなかった気がするけど、もしかしてあれからぶっ通しで『生成』してたのか?」

「うーん……自分も飯食わなくて良い体ッスからね。寝る時間も惜しくて、さっきまでやってたところッス。その分、良いのが出来たと思うッスよ」


 いつもよりも眠たそうな目をしながらも、ビークの表情は明るい。

 それだけ自信があるってことか。それじゃあ、さっそく――


「あっ、せっかくなんで入口から見てみたらどうッスか? 侵入者目線の意見も聞きたいッスから」


 なるほど……それは面白そうだ。

 となると視点を変えてダンジョンの全貌を見るのも無しだな。ネタバレなんてしたくもない。


〈それではマスターは一度外へ。あとは私が準備します〉

「らしいッスよ」

「ん? そうか、じゃあ任せる」


 何か分からないが、支援者(システム)が準備するらしい。

 多分、入口の接続だろうな。まあ、外に出れば分かるか。


 ……


 外と言われても何処へ? とも思ったが、そんなものは適当に。取りあえず、グラティアへの道から外へ出ることにした。


 数日ぶりのグラティアは長閑なものだ。

 いまだ復興に明け暮れるアモルや、職人達がひっきりなしに往来するサナティオに比べると、子供達が元気に走り回ったり談笑する声が聞こえてきたりと、カラカルでの騒動が嘘のように平和な景色がそこにあった。

 俺もついつい、伸びなんかしちゃったりして……。


〈準備ができました。どうぞ、入ってください〉


 早いよ、支援者(システム)さん……もうちょっとゆっくりしてくれても良かったのに。

 まあ、良いや。それでは正面から入るとしましょうか。


「うーん……雰囲気あるな」


 なんて言ってるが、まだ一歩も足を踏み入れていない。

 今のはダンジョンの入口への感想なのだ。


 ビークが『生成』した入口は、形状からして俺のソレとはまるで違う。

 俺のはゲームなんかで見るような人工丸出しの扉の形にくり抜いたような穴が多い。しかし俺の目の前にあるのは、歪で縦よりも横に口を空けた、自然にできた風穴のような穴なのだ。

 森の魔窟の入口もこんな感じだったよな……。


「マスターさん、これ……どうしたんですか?」


 入口の前で突っ立っている俺に声を掛けてきたのは――


「ココ、グラティオにいたのか。これは俺のダンジョンだけど、ビークに改装させてみたから、どんな風になったのか今から見て回るつもりなんだ」

「ビークさんに? そんなこともできるんですね。今までの入口と違って何だか怖い雰囲気ですけど、本当に入るんですか?」

「俺のダンジョンだし、怖くないって。何だったらココも一緒に入って――」

〈駄目です。ココには危険です〉


 ……危険なのか?


「マスターさん?」

「あー……さっきのは無し。俺一人で入るから。間違っても入らないでくれよ?」

「えっ? 分かりました」


 急に俺の様子が変わったことに、ココもちょっと驚いてたな。

 だけど、驚いたのは俺も同じ。支援者(システム)が危険だなんて言うまでは、俺もただ見学するつもりだったのだ。


 ビークは単純な罠ぐらいなら作れるって言ってたっけ? 

 何が危険か分からないけど、それっぽい罠には気をつけておこうか……。


 ……


 入口から足を踏み入れて思ったこと。

 それは、本当に自然にできた洞窟のようなダンジョンということだ。


 周囲はほとんどが岩肌が剥き出し。ところどころ湿っていて、よく見ると苔っぽいものが付着している。 

 天井が急に低くなったと思ったら無駄に高くなったりと全く同じ光景が無い。

 足元の壁には小さな穴やら窪みなんかがあって、今にも虫か小動物が飛び出してきそうな雰囲気すら醸し出していた。


 ……というか、今の俺は『夜目』があるからこそ何とか見えてるが、そんなスキルが無いやつは何かしらの照明が無いと見えないぐらいに真っ暗だ。

 見えないところも作り込む。あいつ、意外と凝り性なのかもしれないな。


 なんて、俺がビークの意外な一面に思いを馳せていると――


「うおっ! マジか!!」


 くそっ、落とし穴だ!! そんなもの無かったように見えたのに!

 しかも何だ!? まっすぐ落ちるんじゃなくて、滑り台みたいに斜めに落ちていってるけど……!


 そのまま、十数秒間滑り続けた俺が辿り着いた場所は――


「――げっ!」


 俺は咄嗟に、傾斜の付いた地面と壁に『吸着』を使ってへばり付いた。

 慣性に任せて滑りきってしまうと、多分俺は串刺しになっていたところだろう。


 落とし穴の到達点ギリギリで踏ん張った俺の視界の先には、鋭く尖った岩が部屋一面に飛び出している光景が広がっていた。

 部屋はかなり広く、長方形っぽい形をしているようだ。天井も相当高いのか、俺が踏ん張る位置からは天井が見えていない。


 落とし穴にこんだけ広い部屋使う意味あんのか?


 と思いもしたが、俺がいる場所の対面にも人が通り抜けることができそうな穴が空いている。

 どうやらそれは対面だけではなく、部屋の壁のあちこちにあるらしい。ってことは……。


〈ビークはダンジョン内の落とし穴の終着点を一箇所に集積しています。仕留めた獲物を自動で『収納』するように設定すれば効率が上がりますね〉

「俺が獲物第一号になるところだっただろーが!」


 ココを連れてこなくて良かった。

 これは、どんなやばい罠があるか分からんぞ……!


 ……


 落とし穴から華麗にワープ……できるわけもなく、俺は『吸着』を駆使してヤモリのように這い戻った。


 俺が落ちた穴を改めて見てみると、一見すると落とし穴なんて無いようにも見える。

 これ見よがしに蓋をしているわけでもなく、小さな段差で錯覚させるような作り。穴のサイズは人一人が入れるぐらいでしかない。加えて、天井から飛び出した岩に注意を引き付けて、足元を疎かにさせるという嫌らしさまで盛り込まれていた。

 

 多分、獣のような四足歩行だと掛からないだろうな。立って歩く人間向けの落とし穴だ。

 壁に手を付いて歩く人間を狙ったようなピンポイントの位置。


「あいつ……誰を落とそうとしてんだ?」

〈魔獣以外の侵入者も対象にしているようです〉


 支援者(システム)の言葉は本当だったらしく、通路を進む俺の前には色々な種類の落とし穴が用意されていた。


 原始的な枯れ草を詰んで穴を隠しているタイプ。

 これには流石に引っかかりはしない。明かりが無くてうっかり、なら分かる。魔獣も……間抜けなやつなら掛かるかもな?


 それがいくつか続くと、俺もすっかり嘗めたものだ。

 こんなもん、誰が掛かるんだっつーの。と、ひょいと飛び越した先に本命の落とし穴。

 ズボッと小気味良い音とともに、さっきと同じ部屋まで案内されてしまった。


 他にあった罠といえば、不用意に体重を掛けると足場が傾く仕様の罠。これも落とし穴、体験済みだ。

 横向きに傾斜の付いた床が続くと思っていたら、急に摩擦のない床に変わってそのまま滑走。勿論、落とし穴だ。

 隠すつもりのない、ただ穴が空いてるだけのものもあったな。

 っていうか――


「落とし穴ばっかりじゃねーか! あいつ、何に力入れてんだ!?」

〈マスターはまだ、一つ目の部屋にすら辿り着いていません。マスターの要望どおり、ビークは罠の案を用意しています。今回は私がそれを発動しますから、ここからが本番だと思ってください〉


 そう、俺は入口から伸びた通路をひたすらまっすぐ歩いていただけなのだ。

 それだけでも一時間以上は経っている。


 俺はふと頭に過ぎったことを聞いてみた。


「……支援者(システム)、ビークの『生成』を手伝ったりした?」

〈肯定。初めてにはチュートリアルが必要です。ビークにも漏れなく実施しています〉

「……」


 俺、無事にゴールまで行けるのか……?



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