第116話 やり過ぎた?
結局、マックスとフロゲルが持ってきた案は、俺が今のエントランスに変更したせいで大部分が使えなくなってしまった。
とはいえ、せっかく皆が考えてくれた意見を没にしてしまうのは忍びない。使えそうな部分は何とか改装に反映させることにした。
まず初めに採用したのが、コボルト達が作ってくれた彫刻だ。
俺が『生成』したエントランスの壁は白い無地の壁。清潔感があって俺はこのままでも良かったのだが、マックスが唸りながら眺める木彫りの像を目にしてピンと来た。
壁全体を彫刻で埋め尽くしてしまえばどうだろうか?
もともと、マックスが持ってきた案はコボルトの彫刻をダンジョンの各部、とりわけ大広間に設置して欲しいということだった。
マックスが手に持っていたのも見本の一つ、娘のナナが作ったものだ。
見本さえあれば、俺でも同じものが『創造』できる。そう考え、わざわざ用意してくれたらしい。
小柄なコボルトが剣を構えている像、勇猛果敢に猛る姿の犬の像……どっちも多分、俺だ。
見事としか言い様がない出来栄えなのだが……題材が俺となると、何処かむず痒いものがある。
しかも、聞いてみるとマックスが持ってきたものはほんの一部、他にも預かっている作品はあるとのこと。
それならばと、持っているものを全部出してもらって壁に再現することにしたのだ。
しかし、流石に全周囲を俺で埋め尽くされるような変態チックな光景にはしていない。
エントランスはちょうど円筒形に形作っている。俺以外にも眷属達やコボルト、トードマン達。森の様子を再現するようにして、壁全体で一枚の風景画のようにしたのだ。
天井のステンドグラスに続いて、壁でも俺の限界を突破したような気がするな……。
しかし天井、壁ときて、あとは床が残されている。
こっちはフロゲルの意見が元に改修が施された。
フロゲルが持ってきた案は、大広間の池を加工して一つの風景を創り上げること。
話を聞く限りのイメージでは、日本庭園の池――所謂、池泉庭園のようなものを考えていたらしい。
確かに大広間みたいな土でできた穴ぐらなら、池を利用するのもアリなんだけど……。
今のエントランスのど真ん中に池はどうにも無理がある。それを感じて、フロゲルも言い出し難いところがあったようだ。
しかし、俺はまたもやピンときた。池が無理でも、これならいけるだろうと。
そのために用意したのは……魔窟から回収した台座だ。
何かに使えるかと思って『収納』に入れたまま忘れていたが……まさか、こんな使い方をするとはな。
ともあれ、まずはエントランス中央に台座を設置する。
次に台座を加工……というより、台座から水を『創造』するように設定した。
そして台座を伝って床に流れた水を、今度は床に作った溝へ流れるようにしておく。
溝は5センチほどの幅で壁に向かって放射線状に……。
どうせなら、核ルームに刻まれた幾何学模様を再現してしまおう。ついでだ、床の色も黒に変えようか。
仕上げに溝をガラスで蓋してしまえば、擬似的な核ルームの出来上がりだ。
本物の核ルームと違って核は無いし、光と水の違いがあって、進む向きも逆だけど。
別に細部まで再現する必要は無いしな。これだけでも十分、見ごたえはあるだろう。
そしてエントランスと言えば、そこから通じる道も決めないといけないわけだが……俺は道を八つに絞ることにした。
まずは外に直接繋がる道、つまりは入口だな。これが五つ。
コボルトが住む土地であるグラティア、サナティオ、アモル、カラカル領主の屋敷への道。そこにトードマンの集落を加えた五つだ。
トードマンの集落に関しては、今まで入口の数が足りずにダンジョン区画を経由していたからな。
これでトードマンも移動が楽になるはずだ。
そして、入口以外の道……ようは通路のことだ。それが三つ。
ダンジョン区画に通じる通路、会議室へと繋がる通路、あとは浴室への通路だ。
ダンジョン区画はビークに任せているので放っておくとして、会議室へと繋がる通路はダンジョンの重要区画を纏めた通路とすることにした。重要区画と言っても、今のところは俺の部屋や核ルームぐらいしかないけどな。
で、残った浴室への通路なんだけど……一番どうしようか迷った道だ。
エントランスから直接浴室となると、どう考えても変だろう。
後のことを考えればちゃんとした食堂なんかも作りたいし、そういった設備は全部浴室へと繋がる通路に纏める方が良さそうだ。
どうにもエントランスばかりに力を入れているように見えるが、他の場所もちゃんと改装の手は入れている。
会議室を構成する材質は全て木製に変更しているし、浴室は大幅に拡張しておいた。今なら百人以上は一度に入れるだろう。
通路だって土丸出しだと見栄えが悪いので、石壁へと変更して多少はマシになっている。
うーん……それでもエントランスに比べたら大したことはないかな?
(いやいや、十分やろ。ここまで変わるとは思わんかったで)
「そうですな。あまりの変わりように、皆の驚く様が目に浮かびます」
そうか? 二人がそう言うなら、こんなもんで良いか。
後々、部屋を追加する分には問題無い構造にしてあるしな。
「これは……何ともお見事ですね」
感嘆の声を上げているのはソフィだ。
アモルに繋がる道からダンジョンに入って来たところで、俺達と合流する形なったようだ。
ダンジョンに入れば、初めに目にするのは当然エントランス。以前の大広間と思っていれば、マックスの言うとおり驚くのも無理はない。
「先代、調度品の準備はよろしいのですかな?」
「……そうでした。マスター様、コボルトの職人達の渾身の品々を用意させて頂きました。品物はコノアさんに預けております」
「そうか、ありがとう!」
「フフ……当然のことです」
コノアに預けてるということは『収納』に……入ってるな。
流石、ソフィが渾身の品と言うだけはある。どれもこれも一目で上等な品物だと分かる逸品だらけだ。
このテーブルなんて、大木をそのまま輪切りにしたような木材を使ってるみたいだけど、樹齢何百年の木なんだ? こういうの、テレビで見たことがある気がするな。確か、とんでもない値が付いてた気がするんだけど……。
こんな上等な品を使う場所って、何処かあるのか?
うーむ……。
「あっ、そうだ! この際、応接室も作ってしまおう!」
思い立ったが吉日。さっき繋げた重要区画への通路に部屋を一つ追加する。
シンプル目に正方形の部屋で、内装は石ではなく木製を主にしておいた。そこにソフィが手配してくれた調度品を置いていくと……。
うおお……! ダンジョンとは思えん、シックなデザインの部屋が出来上がった……!
カラカル領主の屋敷の応接室は貴族然とした優雅なものだったが、それとは違って趣を感じる部屋となっている。
これでカラカルから領主を招くことになっても大丈夫だろう。
〈マスター、ビークもダンジョンの『生成』が一段落着いたようです〉
何ともタイミングが良いことだ。
じゃあちょっくら、あいつがダンジョンをどんな風にしたのか見せてもらうとしましょうかね。