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第115話 変えるもの、変えないもの


 軽く意見を求めたつもりだったのに……。


 俺は夕食の席で、自分の不用意な発言に後悔することとなっていた。


 会議終了後、夕暮れ時ということもあり、僅かな時間を空けて食事の席を設けられたのだが……噂というものは、人の興味次第でとんでもない拡散力を持つ。とどのつまり、短時間で知らない者がいないほどの広がりを見せていた。

 内容は勿論、俺のダンジョンの改装についてだ。


『有用な意見であれば、誰の意見であっても採用される』


 巡り巡って俺の元に帰ってきた噂の内容はそんなところだった。

 間違ってはいない。しかし、全員の意見を聞いて回れるほど悠長にするつもりもない。

 意見を出す機会が無かった者には悪いが、明日には改装に移る。というか、夜間、人の出入りの少ない間にパパっと改装する予定だったが、ここまで大事になった以上、若干の猶予を設けざるを得なくなってしまった。


 とはいえ、一晩で意見が纏まるとも思えないが……。

 結局のところ、会議に参加したメンバーが精査した意見を俺まで持ってくるということで、話は落ち着いてた。


 今回の改装については、DPや部屋の数なんかを気にするつもりはない。

 同期率も上がったばかりだし、そのうちカラカルから人を招くかもしれないのだ。多少は見栄を張るべきだろう。


「マスター様、明日には必ず意見を纏めて上申させていただきます」

「あんまり無理しないでくれよ? 負担を掛けるつもりで言ったわけじゃないんだし」

(何を言うとんねん。今、無茶せんでいつすんねん。このチャンスにトードマンのセンスを見せつけたるわい!)

「ハッハッハ! コボルトの匠を侮らないでいただきたい。実用性に富んだ構想を存分に発揮するとしましょう!」


 えっ? コボルトとトードマンの構想合戦みたいなノリになってきてんの?

 良いものが出来るなら、それも面白いけど……悪ノリだけは勘弁してもらいたい。


 やや不穏な空気が流れたものの、夕食も終われば皆思い思いの算段を立てるために散って行く。

 後のことは成り行きに任せ、俺はダンジョンで暫しの休息に浸ることにした。


 夜も更ければ人の出入りもない。大広間であってもそれは同じ。俺の眷属も、各々が気に入った場所で就寝しているので、大広間にいるのはノアと数体のコノアだけだ。


 今日のところは支援者(システム)も訓練を免除してくれるらしく、俺は遠慮なくのびのびと寛ぐことにした。最近、のんびりできてなかったからな……寛げるだけでもありがたい。


「マスター、思えば随分と大きくなりましたね」


 地べたで大の字になっている俺に、ノアが話し掛けてきた。

 その言葉が聞こえたようで、コノアも側にやって来る。


「そうだな。俺も二ヶ月でここまで変わるとは思ってなかったよ」


 転生してから二か月と……ちょっとかな?

 最初は単なる穴ぐらでしかなかったのに、そこそこ広くなって何故か風呂まで付いている。

 仲間だって、ノアとコノアしかいなかったのに、気が付けば眷属も増え、森の獣人とも一緒に生活するようになっていた。考えてみると不思議なものだ。

 明日になれば、もっと大きく変わるんだろうな。それこそ、今までの面影が残らないぐらいに……。


 そう考えると、見慣れたはずの大広間でさえ感慨深いものがある。


「マスター、ボクはここを変えたくありません。ここは大事な場所です」

「うん、俺もそう思っていた。ここはそのままにして、違う場所を改装しようかな……って」

「ダイジー!」


 ノアもコノアも同じ気持ちだったのか。

 そうだよな。ここには俺達の思い出だってある。そう簡単に失くして良い場所じゃない。


「ラビとビビにもうすぐ子供が生まれますから。今、動かすのは良くないと思います」


 そっち!? いや、確かに大事だよ?

 ホーンラビットの赤ちゃん、俺も楽しみにしているからな。

 

「ええっと……あと一週間ぐらい?」

「分かりません。けど、ラビとビビのいる巣穴から、新しい気配を感じるようになってきました。もうすぐだと思います」

「ヨン……ゴー?」

「コノアも分かるみたいですね。ボクも気配が五つ増えてるように感じます」


 俺には分からないが、ノアとコノアには感じるものがあるらしい。

 新しい気配が五つ……五匹のホーンラビットか。ますます楽しみになってきた。

 ラビとビビに迷惑にならない改装にしてあげないとな……!


 ……


 結局、ノア達と思い出話に耽っているうちに夜が明けてしまった。


 日が昇ればいよいよ改装が始まる。

 マックスとフロゲルも、コボルトとトードマンの意見を携えて大広間にやってきたようだ。

 

「あれ? ソフィは?」

「先代は私に全て任せると仰っしゃっていました。職人に調度品の手配させることに専念したいと」

「そう言えば、昨日そんなこと言ってたな」

(おらん人のことは置いといて、さっさと意見出し合おうや。ええ案があるねん)

「む……まあ、良いでしょう。交互に意見を出すことでよろしいですな?」


 やれやれ……何でも良いから、喧嘩だけはしないでくれよ。


(領主の屋敷を見て思ったんやけど、マスターのダンジョンには華がない。そこでワシが考えたのは、大広間の大幅リニューアルや!)

「奇遇ですな。それは私達も考えていました」


 やっぱり誰が見ても大広間が目につくか……。


 俺は昨晩決めたことを二人に打ち明けた。


「悪いんだけど、大広間はあのままにする。その代わりに――」


 代案はある。それも、とびっきりのやつが。

 二人の意見を遮るようで申し訳ないが、先にこの案だけは発表させてもらうとことにした。

 代案を聞いた二人の反応は――


(ええやん! おもろなってきた!)

「異存はありません、私も賛成です」


 気に入ってもらえたようで何よりだ。


 代案……それは大広間ではなく、別の部屋を各入口と繋がる部屋にする。つまりはエントランスだ。

 フロゲルのセリフじゃないけど、俺もカラカル領主の屋敷に比べて華がないことには気付いている。土の穴ぐらと、華やかな屋敷を比べるのもおかしい話だけどな。 


 どうせなら……このぐらいやってから比べないと!


「おお……これは!」

(何じゃこりゃあ!)


 マックスとフロゲルが驚くのも無理はない。

 俺が新しく作った部屋はコボルトもトードマンもお目にかかったことが無いはずの建築様式の部屋だ。


 床はタイルに似せた石畳を敷き詰め、壁は土ではなく白い石壁を聳えさせた。

 そして、一番力を注いだのが天井だ。


「ステンドグラスって見たことないだろ?」


 この時の俺は、かなりのドヤ顔をしていたと思う。

 補助核(サポートデバイス)の補助もあって、イメージどおりのものができたからな。


 模様はちょっと悩んだけど、俺にとって印象的な模様……補助核(サポートデバイス)を『創造』した時の球体魔法陣の一部を再現してみた。

 そして、光が天井から降り注ぐように設定すれば、ステンドグラスが色とりどりに光り輝き、俺のダンジョンとは思えないほど威厳が満ちた空間が出来上がった。


「後は、二人の意見を参考にさせてもらうから」

「し、承知……」

(これの後っちゅうのは、しんどいな……)


 いや、頼むぞマジで。俺、これ以外はほとんど何も考えてないからな。

 考えたところと言えば、大広間だった部屋をちょっと変更したぐらいだ。


 エントランスが出来たところで大広間はお役御免。サイズを以前の大きさ……それこそ転生直後に暮らしていたぐらいまでに戻して俺の部屋にした。

 何だかんだで、俺が一番居心地が良いのはあの部屋だからな。

 物理的に動かしたわけじゃないので、ラビとビビも気付かないうちに改装は終わっている。


 エントランスに各入口も繋げ直したし、俺の部屋を含む各部屋への通路も繋げたので問題は無い。

 改装はまだまだこれからなのだ。


「フロゲル殿……妙案があるのでは?」

(あるにはあるけど、コボルトの匠を先に見せてもらいたいところやな……)


 そんなマックスとフロゲルが意見を出しあぐねているところにキバが現れた。


「流石はマスター! 既にダンジョンを作り変えておられるようですな!」


 新しく作ったエントランスを見るや否や、えらく興奮している。


 ええい……息が荒いし、尻尾が騒がしい! 何かあるなら、さっさとしてくれ……!


「我はマスターに相応しい寝所を考えました! 是非、お耳に入れて頂きたく!」

「寝所? 俺の部屋ならもう決まったから良いよ。大広間だった部屋、あれが俺の部屋な」

「な、なんと!?」


 キバが絶句しているようだが、そんなのはどうでも良いな。ダンジョンの改装に戻るとしよう。



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