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第12話 コボルトの事情

 

(ココ、話が大分逸れたけど、他にも聞きたいことがあるんだ)


 疲れ切っているところに悪いが折角情報を手に入れるチャンスなのだ、ココには答えてもらわないと。

 俺の蟻蜜もあげたんだしな。


「で、でも……貴方達の知りたいことを私が知ってるとは思えません……」

(何でも良い、この世界のことを教えて欲しい。俺達は外のことを何も知らないんだ)

「えっ? 何でも? うーん……私が知ってることと言っても……ここがドゥマン平原の隅っこで、すぐ側の森はヘルブストの森っていうことぐらいしか……」


 きた! 情報だ! 地名でも何でも、ありがたい!


(いいね! そういうのが欲しいんだよ! どっかに街とか無いの? 村でも良いよ)

「街、ですか? えっと、ヴェルトの壁沿いに東に行けば、確か……人間の街があるって聞いたことがあります」


 さらにキター! 人間の街! 東ってどっちだ?


「ヴェルトの壁は、今いるここのことです。外に出て左に真っ直ぐ壁沿いに行けば、見つかると思います。」

(おお! この絶壁はヴェルトの壁か! 出て左が東だな!)

「はい……もしかして、人間の街に行くんですか?」

(ん? まあいつかは、な。ココは行ったことあるのか?)

「ええっ!? 無いですよ! 私みたいなのが人間の街に行ったら、どんな目に遭うか……。良くて奴隷ですよ!」


 何? 奴隷? 何か物騒だな。もしかして奴隷制度とかあるのか?


「私も詳しくは知りませんが……人間に捕まったらすぐに殺されるか、奴隷として連れて行かれるか、どちらにしても生きて帰ってこれないって言われてます……」


 うおお……もしかして、この世界の人間って結構、野蛮なのか? 俺も元人間だけど違う世界だし……同じに考えてたら、えらい目に遭うかも。

 それとも、ココの被害妄想か? ……どちらにしても個人の意見だけじゃ判断できんな。


(わかった。人間の話は一旦置いておこう。次は、コボルトの話をしてもらえるか?)

「コボルトの? えっと……コボルトの何を話せばいいですか?」

(ん? 何でもだよ。どこに住んでるとか、何人ぐらいいる、とか。何を食べるとか、何でも良いから)

「……」


 ん? どうした? ココが明らかに狼狽し始めたぞ。


(ココ?)

「あ! あの! どうか! 他のコボルトに危害を加えないでください! 食べるなら私だけにしてください! お願いします!」


 ココは土下座しながら叫んでいる。


 ……しまった! 今の質問は聞き様によっては、コボルトを襲おうとしているようにも取れる。

 完全に誤解されているな……。

 どうしようもないし、素直に謝ろう。


(ゴメン! ゴメン! 違うって! 襲ったりしないって! 俺の食べるのは、ほら、あれだ! さっき食べただろ? あの蟻の蜜なんだ! コボルトどころか、肉すら食べないって!)


 本当は飯すらいらないんだけどね。


「ほ、本当ですか? ……でも、マスターさんが食べなくても……」


 ココはノアを一瞥して言った。

 ノアはココが何を言いたいのか察したのだろう。


「ボク達は魔素を吸収して生きています。何も食べる必要はありません!」


 どうやら、ノアも詳しく説明する気が無いようだ。

 ココはそれでも……といった様子で、顔を顰めている。


(ココ? 俺達は本当に危害を加えるつもりなんか無い。どちらかといえば、協力できるかもしれない)


 確信は無いけど、ココがブラッドウルフに遭遇した状況と、コボルトの扱いを聞いていれば予想できる。


(コボルトって、生活に困っていないか? 住む場所とか、食料とか……。襲われたら散らばって逃げる、って普段から切羽詰まった生活してるんじゃないのか?)

「えっ? 何で分かるんですか?」


 カマをかけてみたんだけど、当たったか?

 だったら、ダメ押ししてみるか。


(食べ物を探しに、って言うけど、夜にか? それとも日を跨ぐ程探してるのか? お前の格好を見る限り狩人ってわけでもなさそうだし、さっきの蜜の食べっぷりを見ても、かなり腹が減ってたように見えたしな。少なくとも、お前は安定した生活ができてるように見えんぞ?)

「……」


 ココは俯いたまま黙っている。


(まあ、ココが仲間のことを心配しているのは分かるし、無理に話す必要は無いよ。悪かったな。もう気にしなくていいから。)

「いえ、お願いがあります!」


 ココは何かを決心したようだ。

 その言葉には今までのココとは違う意志の強さが表れていた。


「私に先程の食べ物を……いえ、どこで手に入れられるかを教えてください! お願いします!」


 蟻の蜜か……『収納』している分を分けてあげてもいいけど、そんなに気に入ったのか? このタイミングでそんなことを頼むのか? 土下座までして……。


(さっきの蜜は平原のシロップアントが集めてるものなんだけど、取りに行くのは止めておいた方がいいぞ。シロップアントは見た目よりも危ない。俺も酷い目にあったしな。……しかし、何でそんなに蟻の蜜が欲しいんだ?)

「私は弱くて狩りが上手くできないんです。森の中でも食べれる草や木の実を集めるぐらいしかできなくて……。さっきの蟻の蜜という物は、もしかしたら私にも集められるかもって思ったんですけど……。」

(無理せずに草とか、木の実を集めればいいんじゃないか?)

「それじゃあ、駄目なんです。全然足りません。それに、できるだけ栄養のある食べ物を持って帰りたいんです」


 うーん……やっぱり、事情がありそうだな。

 考えとしては食糧難が濃厚な気がするな。


(腹を空かせている仲間のため、か?)

「……はい」


 どうにかしてやりたいんだけど、食料か……。

 蟻の蜜だけじゃあ、どうにもならんだろ。それでも、藁にも縋る思いってやつか……。

 うーん……どうしたものか。


(ココ、取りあえず蟻の蜜のことを教えたんだ。コボルトのことを教えてくれ。何だったら、持ってる蟻の蜜を全部やってもいい)

「! 本当ですか!? 分かりました!」


 ココは少しは気が楽になったのだろう、表情が明るくなっている。


「まず、私はヘルブストの森に住んでいます。住んでいるって言っても、今は安全な場所を探して移動しているので、定住しているわけではありません」

(ん? 移動民族的なやつか?)

「いえ……コボルトは弱いので、魔獣なんかの敵に怯えているだけです。住みやすい場所は魔獣や他の種族が住んでいるので、近付くこともできません」

(他の種族?)

「はい、私が見たことのある獣人は豚頭人(オーク)です。隠れて見てただけですけど……。あと、森のどこかにエルフが住んでいるって聞いたことがあります」


 オークにエルフか! コボルトがいるぐらいなんだし、いても不思議じゃないか。


(それで、ココの仲間はどのぐらいいるんだ?)

「多分、五十人はいると思います」

(多分?)

「はい、私が食べ物を探しに出た頃は、それぐらいでした」

(それって、いつだ?)

「……二日前です」


 ココは二日前から食糧を探していたのか。

 しかし、五十人か……少ないな。コボルトは定住しないんだったら、そんなものか?


「前は百人以上いたんですけど、最近森の様子がおかしくて……。

 狼みたいな強い魔獣なんかも、ちょっと前まで見たことも無かったのに……」

(森の様子?)

「森の深い場所に住むはずの魔獣が現れたんです。そのせいで、その時住んでいた場所から逃げないといけなくなって……逃げ遅れた人は……」


 ココは震えながら、言葉を詰まらせている。

 その時の恐怖からなのか、住処を奪われた悔しさからなのか、俺には分からない。

 だけど、ココの仲間達は今もまだ、生活が脅かされているのは分かる。


(一つ聞くけど、コボルト達はここまで来れそうか?)

「えっ? ここまでって、この平原ですか? ……分かりません。

 私が戻って皆に移動するように提案したところで、賛成してくれないかもしれません。移動するにしても子供や怪我人がいるので、どうなるのか……」

(そうか……)


 さて、いよいよ困ったぞ。いや、全くの他人だから無視してもいいのだ。

 外道に落ちる覚悟があるなら、ココを『分解』するという手もあるのだが、流石にそれはできない。

 それをやってしまったら、俺は本当に人でなくなる。

 ココは俺に敵意は無い。それどころか、救いを求めてきたのだ。

 救いの手を差し伸べておいて、絶望させる。悪魔の所業だ。

 そんなのは俺には無理だ。


 正直なところ助けてやりたい。俺のスキルがあれば、コボルトを救うことができるかもしれない。

 しかし、俺が無茶をするとノア達にも無茶させることになってしまう。

 どちらも頭では分かるのだが……気持ちの整理がつかない。


 ……


 ……俺だけが無茶をすればいい。

 幸か不幸か、俺は死なない。(コア)さえ無事ならば。

 やるだけやってみるか。


(よし、分かった。ココがいいなら、今から向かおうか)

「向かうって何処へ?」

「マスター? まさか!」


 ノアは、俺の言おうとしていることが分かったみたいだな。


(ココ、仲間の所へ案内してくれ)


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