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第114話 改装の前に


(よお、お疲れさん。皆、会議室で待っとるで)


 大広間に移動したところでフロゲルに出くわした。その様子からすると、俺がダンジョン区画から出てくるのを待っていたようだが……。


「皆って誰だ?」

(ん? 皆は皆や。マックスやソフィさん、ノアちゃんやキバもおるで。ノアちゃんが気ぃ利かせて、マスターが帰ってきたことを報せてくれたんや。それやったら会議室で話聞かせてもらおうっちゅうことになってな。構わんやろ?)


 おおう……そういうことか。

 わざわざ集まってくれてるならちょうど良い。今回の騒動の経緯を話させてもらうとしよう。


 ……


 フロゲルに連れられるようにしてやってきた会議室には、聞いていたとおりの面々が揃っていた。

 会議室に入るや否や、視線が一気に俺へと集中する。

 そういうことされると、緊張するからやめて欲しいんだけど……。


「ええっと……まずはお礼を言わせてもらう。本当にありがとうな、助かったよ。今回は俺だけじゃ、どうにもならなかったと思う。ちょっと長くなるけど、事の経緯を説明させてもらうな」


 俺はカラカル領主の屋敷で起きたことの説明を始めた。


 実のところ、緊急時の前後は支援者(システム)が説明していたようだし、屋敷内でのことはノアやキバが把握していたので、皆おおよそのことは知っていた。

 それを鑑みて、俺が重点を置いて話したのは襲撃の元凶となった魔窟のこと、魔窟の(コア)を元に新たな補助核(サポートデバイス)を『創造』したこと、それにカラカル領主との会合で取り決めたことについてだ。


 魔窟については誰かが送り込んだもの、としか言いようがない。リンクス公爵云々については、ここで話しても仕方が無いので俺の中に留めておくことにした。

 フロゲルは何か勘付いたみたいだけど、俺の様子を察して敢えて言及しないようだ。普段はふざけていても、こういう時はちゃんと空気を読んでくれるから助かるな。


 それにフロゲルもそうなのだが、マックスとソフィは魔窟のことよりも補助核(サポートデバイス)のことが気になるらしい。二人して耳が同時に動いた。


 無理もないか。獣人に掛けられた呪いが、今もなお自分達に降り掛かっている。

 三人は種族の長、一刻も早く同胞の呪いを解いてやりたいと思うのは至極当然のことなのだ。しかし……。


「ごめん。俺の力が足りないばかりに、呪いを解く手掛かりを得られるのは当分先になりそうなんだ……」

「マスター様、頭を上げてください! 感謝こそすれ、非難しよう者などおりません!」

(『希望』ちゅうのも、なかなか曲者みたいやな……。まあ、前進はしとるんやろ? そりゃ、早いに越したことはないけど無理は禁物や。ワシらはマスターに頼るしかないんやしな)


 マックスとフロゲルの言葉に、少しだけ胸の支えが取れた気分だ。

 俺だって皆の呪いを解いてやりたい気持ちは本物だ。そのためにも、できるだけ早く補助核(サポートデバイス)の機能を使いこなさないとな。


 補助核(サポートデバイス)の話が一通り済んだところで、次はカラカル領主との取り決めについての話に移っていた。

 この話になると、途端にソフィが眉をひそめ出した。

 何か思うところでもあるのだろうか?


「有事の際は援助する……ですか」

「ああ、その件なんだけど、戦力を求めてってことじゃなくて、非戦闘員を避難させて欲しいらしい。仮にそうなってもダンジョンだけで何とかするから、皆には負担が掛からない……と思う」


 言いながら不安になってきた。

 安請け合いしたのは良いが、冷静に考えるとカラカルの住民って何人ぐらいいるんだ? 俺のダンジョンに入りきるのか? 食料とかもあるし、下手したら森に移住なんかの可能性もゼロじゃないんだよな……。


「マスター様、まさか深く考えずに了承したのですか?」

「えっ? ああ、えっと……そうとも言えなくもないかもしれない……」


 やばい……ソフィが俺を見る目がマジだ。

 怒ってるのか呆れてるのかは分からない、というか両方だろうな。


 それに引き換え、マックスは笑いを堪えるように小刻みに震えてるし、フロゲルは我慢せずにめっちゃ笑ってる。

 そんなに笑ってると……言わんこっちゃない。ソフィの睨みがフロゲルを捉えた。


「良いですか? マスター様が単独で交渉されると相手に言い包められることが目に見えています。これからは、誰かとともに交渉に挑むようにしてください」

「はい……」


 ソフィの静かな気迫に圧されて、俺は頷くしかできない。

 しかし、誰か付けてって言われても……。


「私が同行しましょうか?」

(マックスはあかんやろ。コボルトの長になったんやから、ここを離れんほうがええ。その点、ワシは屋敷の中に行ったことがあるし、領主とかいうケットシーとも面識があるからな!)


 確かに人格を除けば、フロゲルには『万能感知』がある。交渉の成否はともかく、相手の良いようにはされないとは思う。


「フロゲル殿も人のことは言えませんよ? トードマンの長である貴方が軽々しく敵地に赴いたことで、同族の方々がどれほど不安になられたのか、分かっていないのですか?」

(いやいや、冗談やって! 今回は流石にやり過ぎたからな。てなわけで、その役目はソフィさんにお任せします)


 えっ? ソフィに?

 純粋に驚いただけなのだが、それが顔に出ていたようだ。


「私では不服ですか?」

「いや、急にソフィに決まったから、ちょっと驚いた」

「何を仰いますか、マックスとフロゲル殿以外では私しかおりませんよ。森の現状を踏まえて話をできる者は多くありませんから」


 うーむ……ソフィを交渉の場にか。

 これって所謂、外交官ってやつになるのかな? コボルトの元長老だし、申し分はないだろう。有無を言わさない迫力もある。領主相手でも、堂々とした態度で話はできそうだ。

 それに、今まさに有無を言えない状況にある。俺の出せる答えはイエスしかなさそうだな。


「分かった。次にカラカルに向かう時はよろしく頼むよ。って言っても、次の予定はまだ分かってないんだけど」

「さきほどの話だと、これからは常にカラカルへの道を開けておくということですが、すぐに向かうつもりはないのですか?」

「うん、その前にこっちでやることがあるからな。それが済んだところで、向こうにも顔を出すつもりなんだ」


 ついでだ。俺はそのまま、ダンジョンを改装する計画を話すことにした。

 今回は今までのようにただ足すだけじゃない。もっと大幅な改装になる。何なら、既存の部屋を失くして新築と呼べるところまで持っていこうとも思っているのだ。

 そのためには皆の協力も必要になるだろう。


 小さいところで安全の確保。言い換えるなら、改装の間は極力立ち入りしないでくれということだ。それは勿論、この場にいる者だけじゃなくて外のコボルトやトードマンへの示達も兼ねている。

 

 大きいところになると、アイデアの募集……かな?


 ビークの件で分かったのだが、俺一人だとデザインがあまりに単調なのだ。

 俺のダンジョンは基本的に材質が土で構成されている。しかも、部屋や通路の形が長方形だったり、きれいなドーム状だったりと人工物感丸出しだ。

 居住区画で唯一木製の浴室も、支援者(システム)が作ってくれたもの。つまり、俺には地味なものしか作れていないということになる。


 やろうと思えば俺にだってできるはず。

 新しい補助核(サポートデバイス)の効果もある。できないはずがないのだ。


 とはいえ、発想というのは俺一人だとセンスが偏りがちになりかねない。ここは素直にアイデアを募集しようと考えたわけだが……結果、えらい騒ぎとなりつつあった。


「マスター! あの屋敷と呼んでいた場所を参考にしてもよろしいのですか?」

「調度品はコボルトの職人総出で取り掛からせましょう!」

「今のままでは、マスター様の沽券に関わりますからな!」

「まずはマスターに相応しい威厳のある部屋を!」

(ちょい待てや、トードマンの意見も取り入れてくれるんやろな?)


 ……俺のダンジョン、そんなに不満があったの?



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