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第113話 ダンジョンの番人


「ビーク、お前何してんだ?」


 ダンジョン区画へと移動すると、ビークが木の塊を弄っている現場に遭遇した。

 よほど夢中になってるのか、俺が声を掛けるまで気が付いていないようだ……って、声を掛けても気が付いていないのか?


「ビークは彫刻というものに挑戦しておりまして、時間を見つけては余った木材を加工しています」


 答えたのはアーキィだ。

 ビークが俺に気付かないことを察して、代わりに答えてくれたようだが……。


「いくら興味があるって言ったって、自分だけ遊ぶのはどうかと思うぞ」


 明確な序列はないが、部下に当たるアーキィとランディが真面目にダンジョンを守ってくれているのに、上司のビークがサボっているのはブラックの兆候にしか見えん。

 早期発見のうちに対処せねば……!


 と、ビークに鉄槌を下そうとした俺を止めたのは、苦情を言うべき立場のアーキィとランディであった。


「マスターは勘違いしていらっしゃる。ビークは遊んでいるわけではありません」

「然り、ビークは皆のため」


 そうなのか? 俺はてっきり、自分は楽して仕事は部下に押し付けようとしているのかと思ったんだけど……。


「マスター不在の間、私達は私達なりにコボルトやトードマンと協力する方法を考えていました。残念ながら、私とランディはあまり手伝えることがないのですが、ビークは人々から頼りにされています」

「ビーク力持ち、器用」

「魔獣の侵入が少ない時間帯は、外で力仕事をしたりと人の役に立っています。今作っているのも、子供達のおもちゃなんですよ」


 ビークも俺が知らないところで頑張ってくれてたのか。

 思い出してみると、ビークを『創造』した時に皆の役に立つように頑張るって言っていた。

 意外と言えば意外だけど、有言実行していたんだな……。


 でかい図体でチマチマと木を削ってる姿は、動物園の熊が遊んでるようにしか見えないけど。

 ん? よく見ると、自分の爪で削ってるのか。


「器用なもんだな。で、結局何作ってるんだ?」

「私達には分かりません。ビークが作るものはコボルトにも分からないらしく、珍しさもあって皆からどんどん作って欲しいと頼まれていますよ」

「ビーク、くるま作ると言ってた」

「車か、おもちゃには良いかもしれないけど……」


 ビークは車を知ってるのか?


 ああ……そういや俺の眷属って、俺の知識を持って生まれるんだったな。

 知識の量には個体差があるのかもしれない。アーキィやランディが知らなくてもビークは知っていたってだけなのだろう。


 俺はビークの手元に目をやると、確かに車っぽいものが形作られている。もうほとんど完成じゃないのか?


「ふう……できたッス。あれ? マスター、いつの間に来たんスか?」

「結構前からいたっつーの。それは良いんだけど、それって車なんだよな?」

「流石にマスターは知ってたッスね。意外と上手くできたつもりッスけど、どうッスか?」


 いや、かなり凄いと思うぞ。

 木製でありながら、ちゃんと車の形を成している。


 特に凄いところは車輪がちゃんと動くところ。

 後で組み合わせるんじゃなくて、器用に彫って車輪軸を再現しているのだ。こんなもん、知っていても彫刻で再現しようとは思わないだろう。

 試しに手で押してみると、車らしく車輪が回転して前後に動く。マジで凄いぞ、ビーク。


「これなら子供達も喜んでくれると思うな。正直言って見直した」

「そうッスか? なら良かったッス!」


 もしかしたら、子供達よりも大人のコボルトの方が興味を示すかもしれないが、それはそれで面白い。

 コボルトならもっと凄いものを作り出すかもしれないしな。


「そう言えば、マスターは何しに来たんスか?」

「ん? ああ、そうそう。俺の能力が強化されたんで、ダンジョンを改装しようと思ったんだ。形じゃなくて、ギミックを仕掛ける的な?」

「ギミックって罠ッスか? 簡単なやつなら自分も作れるッスけど」

「そういうのじゃなくて、設定したら自動で発動するスキルを応用した……何かそんな感じのやつだ」

「何スか、それ? 何ができるんスかね……」


 それを試すんだよ、これからな。

 取りあえず、手始めに――


「これの上に乗ってみてくれよ」


 俺は即席で『創造』した石の板を地面に並べてみた。

 特に何も『付与』していない……というか、やろうとしてもできなかった。石に適性がないのか元々できないのかは知らんが、できないからこそ、この実験に意味がある。


「どうせ、自分に言ってるんスよね? まあ、良いッスけど……」


 こら、お前……仮にも俺の眷属なんだから、もっとやる気を出して実験に挑めよ。


 そんな、やれやれといった様子のビークの足が板に触れた瞬間――


「あじゃじゃ!!」


 足から伝わる衝撃に驚いたビークが豪快に尻もちを突いた。

 実験は成功したみたいだな。


「し、痺れたッス……」

「板に触れたら『発電』するように設定してみたんだ。どうだった?」

「……軽くキレそうッスね。自分じゃなきゃ死んでたかもしれんスよ、これ」


 マジで? ……うわ、ビークの生命力がごっそり減ってる。

 いかん、これはやめとこう。間違えて触れたりしたら大惨事になりかねん。


「この板を踏んだら、どっかから矢が飛んでくるとかで良くないッスか? 壁から毒霧が出るとかでも良いと思うんスけど……」

「それ良いな。俺のスキルだと『噴射』を応用すればどっちもできそうだ。『噴射』と『創造』、『噴射』と『毒液』みたいな感じだな」


 よしよし、雨振って地固まるってやつか。

 ビークが身を持って体感してくれたおかげで、良い案が舞い降りたらしい。電気ショックが良かったのかもな。


「マスター、いい加減ポーション……」

「うん、ごめん」


 俺はお詫びのポーションをビークに渡して、今一度思案してみることにした。

 こういう時の『自動演算』は便利だな。一瞬で俺の中のシミュレーションは済んでいる。さっきの案はどっちも実現可能だ。

 じゃあ、何処に設置するかなんだけど……。


「ダンジョン区画を整備した後じゃないと、罠の設置は意味なさそうだな」


 今のところ、ダンジョン区画といってもだだっ広い部屋に外へ繋がる通路だけ。

 有効な罠を仕掛けようとすると、設置場所は通路だけになってしまうのだ。

 それでも良いは良いのかもしれないけど、もう一工夫欲しいところだ。


「マスター、川欲しい」

「川?」


 川が欲しいと言ったのは、アーキィではなくランディの方だった。

 アクアリザードのアーキィが言うなら分かるけど、なんでソイルリザードのランディが?


「アーキィ、遠慮がち。俺も水の流れる音、好きだから」

「ランディ……私からもお願いします。どうか、川を作っていただきたく思います」


 そういうことか。それなら勿論、快諾する。

 アーキィもランディも俺の眷属、家族だからな!


 ……


 アーキィとランディの願いを聞き入れた俺は、さっそく川の作成に入る。

 溝を『生成』して水を『創造』すれば良いってものではない。川らしく流れがないといけないのだ。


 しかし、それは既に解決している。

 始点から水を『創造』して、終点で『収納』するだけで川らしい水の流れを演出している。

 『自動演算』のおかげで、スキルの常時発動もバッチリだ。ただ――


「地味だな」

「地味ッスね」


 俺とビークは、思ってたのと何か違う感覚を味わっていた。 

 アーキィとランディは喜んでくれているが、これではただのきれいな水が流れる溝だ。

 水の流れがゆっくりなので、余計にそう感じてしまう。


「いっそ、滝にしたらどうッスか? 終点もすり鉢状にして地底湖みたいにするとか」

「いいね! その案、いただきだ!」


 俺はビークの案に乗っかって、始点を壁に持っていくことにした。それだけで滝は出来上がっている。

 地底湖も簡単、ただでかい穴を地面に開けるだけだからな。

 せっかくなので、かなり大きめに……部屋の半分ぐらいは地底湖にしてしまおう。


 ちょうど良い水かさになったところで、始点から『創造』した分だけ『収納』に送るように設定すれば、滝と地底湖の完成だ。


「何と素晴らしい!」

「言葉が無い……!」


 アーキィとランディも、さっきより数段喜んでくれている。これには俺も大満足だ。


「何か足りないッスね……」

「お前、文句あるんなら自分で何か考えてみろよ」


 難癖付けてくるビークにちょっとイラッとして言ってしまった。

 確かにビークの方が俺よりも芸術的な感性が高いみたいだけど、文句があるならやってみせろってんだ!


「マスター、自分にその『生成』ってスキル、付けてもらえないッスか? できるならダンジョンの内装とかイジってみたいッス」

「お前なぁ……適性がないと『付与』できないんだぞ……あれ?」


 マジか……ビークに『生成』の適性があるみたいだ。

 じゃあ、試しにやらせてみようか。


「……ほら、『付与』したぞ。使い方はまあ……イメージだな。頑張れ」

「分かったッス」


 今ので分かるのか? と思ったのも束の間、ビークがやりやがった……!


「お前……すげえな」


 今日だけで、俺の中のビークの評価が上がりまくっている。


 『生成』を『付与』されたビークは、物の見事にダンジョンの内装を変更していた。

 地底湖周辺に鍾乳洞を思わせる石筍や石柱を『生成』し、ダンジョン内部の材質も土から岩のようなゴツゴツしたものへと変えていたのだ。


 俺のさっきの説明で、ここまでできるものなのか?


「これ、楽しいッスね! インスピレーションが湧きまくるッス!」

「それは良かった……」


 何で? 支援者(システム)といいビークといい、俺の体内であるはずのダンジョンを扱うのが、俺より上手いってどういうこと?


 ……ああもう、凹むぐらいなら受け入れる方がマシか。

 確か部屋の数は余ってたはず。


「ビーク、お前にダンジョン区画の改装を任せるから、お前なりにやってみないか? 出来上がったところで、さっきの罠の設置も考えていきたいと思うんだけど」

「良いんスか!? やるッス! やらせてくださいッス!」


 ここまでやる気になったんなら、本気で任せてみようか。

 自分以外のやつが、どんなダンジョンを作るのかにも興味あるしな。


「じゃあ、これで名実ともにダンジョン区画の番人だ。しっかりやってくれよ。期待してるからな」

「うおお……! やったッス!」

「おめでとう!」

「めでたい!」


 何かビークが凄い出世したみたいになってるな。

 いや、実際そうか。俺の眷属でも、ここまで任せることになったのは初めてかもしれない。

 ダンジョン内部自体を自由にさせることは今まで無かったのだ。


 早計……とは思えないな。

 眷属だからかもしれないが、俺は何だかんだでビークを信用してるし問題は無いだろう。


〈ビークとの魂の繋がりが強化されました〉


 次はビークか、この報せは何度聞いても嬉しいものだ。


支援者(システム)もビークが困ってたら助けてやってくれな。俺より支援者(システム)の方が上手くアシストできるだろうし)

〈了解〉


 支援者(システム)がいれば一安心だな。

 念の為、釘を刺しておこうか。


「あくまでダンジョン区画だからな。居住区画はイジるなよ?」

「分かってるッスよ! そう言えば、マスターはマックスさん達と話したんスか? この前の騒ぎから心配掛けたままッスけど」

「あっ……」


 しまった……自分のことばっかり考え過ぎてた!

 ダンジョン改装のことより先に、一言声を掛けておかないといけなかった……!



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