第112話 補助核が示す可能性
〈それでは改めて、補助核の説明に移ります〉
(……うん)
辛辣な言葉に傷心した俺をさておき、支援者は補助核の説明を始めてくれるようだ。
俺は以前、補助核は書き込んだ情報によって効果が変わると聞いている。
今回『創造』したのは俺なのだが、用意された材料を使って手探りで『創造』しただけだからな……。どんな情報を書き込んだのか、自分でも分かっていないのだ。
〈第一の能力としては、マスターの思考を行動やスキルに反映できるようになった点が挙げられます。あえて名前をつけるのであれば……『反映』と呼称することにしましょう〉
『反映』か、そのまんまだな。
イメージと行動の誤差が少なくなったということは、はっきりと体感している。
何ていうか……描こうと思った絵を描いてみたら、かなり良い出来の絵が描けたみたいな?
今にして思えば、『次元力操作』を使った時も『反映』の恩恵を受けていたのかもしれない。自分でも意外なほどに、イメージどおりスキルを使用できていたのだ。
〈そして補助核の第二の能力は……『自動演算』です〉
(『自動演算』? 名前からして、凄い能力に聞こえるぞ)
〈確かに『自動演算』はマスターにとって有用と言えるでしょう。現にマスターは、行動の可否を『自動演算』によって判定していました〉
(それって……俺ができそうな気がすると思ったことが本当にできていたのは、無意識に計算してたってことなのか?)
〈肯定。マスターの経験と核に保有された情報を基に算出した結果を、マスターは直感として感じていました〉
そう言えば、人間の勘というものは過去の経験を基に判断しているって聞いたことがあったな。それの進化したバージョンというところか。
〈『自動演算』の効果は多岐に渡ります。予め設定した条件でのスキルの発動も可能となりますので、ダンジョンにおける仕掛けにも使用することができるでしょう〉
ダンジョンの仕掛けにスキルをね……。
そうできたら良いなという考えは確かにあったけど、今となってはそこまで必要じゃなかったりする。
何せ『自動演算』に頼らなくても、俺の目の届く範囲なら俺がスキルを発動させるし、支援者がいればそれすら必要無いからな。
極端に言えば、自力で判断しない分、支援者の下位互換としか思えない能力だ。
まあ、せっかくだし、気が向いた時にでも何か考えてみるか。
内装を変更するにあたって、ギミックなんかがあると面白いかもしれないしな。
〈……それについてはマスターにお任せします〉
(えっ? 支援者……ちょっと怒ってる?)
〈怒ってません〉
いや、怒ってるだろ。
何か怒らせるようなこと言ったっけ? いや、言わなくても考えただけで支援者には筒抜けだ。じゃあ、何か余計なことを考えたってところだろうな……。
〈マスターは『自動演算』を軽んじているようですが、マスターはこの能力を使いこなさなければならないのです〉
(……そこまで重要な能力なのか?)
〈肯定。新たな補助核の能力を最大に発揮させるためには『反映』と『自動演算』、二つの能力を掛け合わせる必要があるからです〉
二つの能力を掛け合わせる……今一つ、ピンとこない。
ノアはスキルが合体して一つのスキルに変わったという話をしていたけど、それと同じなのか?
〈否定。補助核の能力はスキルとは別のものです。しかし可能性という点では、スキルと通じるところがあるかもしれません〉
(というと?)
〈『反映』と『自動演算』を掛け合わせる。ここから先はマスターの努力……あるいはセンス次第となりますが、マスターの思考と『自動演算』で算出した結果を『反映』させることができれば、『高速思考』や『並列思考』といった能力に昇華させることができると推測します〉
(ごめん、全然分からん……)
『高速思考』といえば読んで字の如く、一瞬にして思考を巡らせるという能力のことだよな。
そして『並列思考』も、一人が全く別の物事を考えられるようになるという能力のことだったはずだ。
聞いたことはある。漫画や小説の中では。
しかし、そんなもん本当にできるものなのか? 他人がやってるならまだしも、俺の頭でできるイメージが湧かん。
それができるようになるために、何で『自動演算』と『反映』が必要なのかもさっぱりだ。
〈『自動演算』で処理した情報をマスターにフィードバックすることで、マスターは常に思考を巡らせた状態となります。そこからさらに『自動演算』を繰り返すことができれば加速度的に――〉
(分かった! ありがとう!)
支援者の中でロジックが確立されてるなら、根拠としては十分だ。
詳しく問い詰めたところで時間の無駄だろう。俺が理解するまでにどれぐらいの時間が必要なのか、考えるのも虚しくなる。
しかし、それでも――
(推測っていうのが引っかかるんだよな……。せめて断定できないのか?)
〈マスターが本来持ち得ない能力なので可能性の域を出ません。ですが、私はできると信じています。皆の『希望』のためにも〉
(――うおっ!)
俺の目の前に『希望』と呼んでいる立方体の物質が現れた。
いきなりで驚いたが、俺は咄嗟にそれを受け止めていた。
支援者め……。俺の意志を固めさせるために、わざと『収納』から出したな。
俺が魔窟の核を探す経緯となったのも、元を正せば『希望』を『解析』するためだったのだ。
獣人に掛けられた呪い。それを解く手掛かりが『希望』の中にあると考えた俺達は、『解析』を試みたが核の演算能力が足りずに失敗に終わった。
足りない演算能力を補うためにどうすれば良いか? 支援者の提示した答えが補助核だ。
あの時は『創造』さえすれば万事解決すると思っていたが、まさかそこから先があるとは思いもよらなかった。
(『希望』を『解析』するためには必要なのか?)
〈必要です〉
その答えさえ聞ければ十分だな。
やらないといけない理由があるんだ。やるしかないだろ。
(それじゃあ、さっそく『自動演算』を試してみるか。使って初めて意味があるんだろ?)
〈肯定。反復あるのみです〉
これも『自動演算』の効果なのかもしれない。どうすれば良いのか、不思議と分かっている。
支援者が言っていた『設定した条件でスキルを発動させる』……そこが肝になりそうだ。
無意識に発動といっても、俺を介しているのは間違い無い。
どう表現すれば良いのか分からないが……無意識を鍛えるということになるのかな?
朧気に見える目標は、無意識と有意識の境界を取っ払うこと。
有意識の行動を無意識に、無意識で感じたものを有意識に『反映』させる……その先に目指すものがあるような気がするのだ。
というか、決意を新たにしてから急に頭が冴えてきたような……。
これも『自動演算』の効果だったりするのかね?
〈フフ……〉
(あれ? 支援者が笑った?)
〈笑ってません〉
(でもお前、今のは)
〈マスター〉
(……ごめんなさい)
また機嫌を損ねられると厄介だ。
ことを荒立てないために早々に謝ることにした。決して支援者の迫力に負けたわけではない。本当に。
ともあれ、俺は移動することにした。
向かう先はダンジョン区画。
ギミックと言えば、やっぱり罠だろ。ちょうど良い被験体もいることだしな。