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第105話 『創造』の産物


「さっきから偽造だとか言ってるけどさ。あんたも商人なら、この書類がどんな意味があるのか分かってるんだろ?」


 コテツの言葉に対し、ネルさんが反論した。

 しかし、コテツも自分の意見を曲げる気は無いらしい。いつになく堂々とした態度でネルさんに正対している。


「分かってるニャ。だけど……だからこそオイラしか気が付かないのかもしれないニャ」


 俺には納品書にしか見えないが、商人にとっては何やら意味があるようだ。

 当然、俺には何も分からない。そんな俺の視線を気付いたのか、コテツは説明を始めてくれた。


「この書類は商人ギルドに荷物の運搬を依頼する書類なんだけど、オイラが気になってるのはここの部分なんだニャ」

「ここ?」


 コテツが指し示した部分には、固形物――俺の記憶では封蝋と呼ばれるもの――が張り付いている。

 封蝋というと、手紙に封をする時に施すものだと思っていたが、これは印鑑のように使われているらしく、印章の隣には手書きのサインが添えられていた。


 グリブイユ・リンクス……。


 書類では差出人となっている。

 流れからすると、この印章は件のリンクス公爵の印ということになるのだろう。

 雄叫びを上げる獅子が雄々しく、精巧に刻まれた紋章。貴族の家紋としては申し分無い存在感だ。


 さっき俺が書類に目を通した時は、「大事な書類なんだろうな」ぐらいにしか思わなかったけど。


「その紋章にはね、魔力が込められてるのさ。リンクス公爵御本人のね。公爵様となると、名前を騙ろうとする馬鹿もいるかもしれない。というより、昔のことだけど実際にいたんだよ。それで、大事な書類には魔力を込めた印章を施すようになったわけさ。勿論、その書類は確認済み。つまり、偽造されてるわけがないんだよ」


 魔力が込められた印章って、何気に凄い技術だな。静脈認証みたいに本人だと証明できるなら、偽装しようがないからな。


 そしてコテツも、ネルさんの言葉を肯定するように頷いている。


「ネルさんの言うとおりニャ。オイラもリンクス公爵の印章だと分かっているニャ」

「おい、さっきと言ってることが違わないか?」

「そうじゃないニャ。リンクス公爵の印章に間違いないんだけど、紙が作られた日と文章が書かれた日、印章が施されたタイミングがおかしいんだニャ」


 うん、全然意味が分からん。

 俺にとっては、それが何か? としか思わない。


「オイラの『目利き』によると、羊皮紙が作られた瞬間に文章が書かれて、印章まで押されてるんだニャ」

「全部同時にってことか?」

「そうニャ」


 コテツは自信満々に返答した。

 俺もコテツの言っている意味は分かった。


 確かに、今言った全てのことを同時に行うのは不可能だ。……俺のような『創造』が使えなければ。

 人造人間(ホムンクルス)の存在を考えると、黒幕にも『創造』のようなスキルがあると考えた方が自然だろう。


 もしも印章に込められた魔力まで『創造』で再現できるなら、リンクス公爵に疑いの目を向けさせることもできるはずだ。

 しかし、リンクス公爵に『創造』があれば、公爵が黒幕の可能性が一気に高まることにもなる。


 どちらにせよ、俺達が運んだ荷物に『創造』の痕跡がある以上、あの荷物が事の発端となったことには間違い無さそうだが……。


「あんた達、さっきから何の話をしてるんだい。『目利き』で作成時期まで分かるわけないだろ」

「えっ? いや、オイラ分かるニャ。ちょっと集中しないと駄目だけど、はっきり分かるニャ」

「じゃあその書類、もう一度見せてみな」

「はいニャ」


 ネルさんは渡された書類をルーペ状の魔導具で見定めている。

 しかしネルさんは唸るだけで、いつまで経っても納得のいく答えが出ないようだ。五分ほど書類と睨めっこしたところで、大きな溜め息を一つ漏らした。


「この魔導具も『目利き』と性能が変わらないはずなんだけどねぇ……。あんたの『目利き』の腕前が凄いのか、ただ単に嘘をついてるのか……」

「オイラ、嘘なんかつかないニャ!」

「まあ、あんたは商人のくせに嘘がつけないからね、信じてやるさ。でも、あんまり大きな声で言いふらすんじゃないよ。公爵様の手紙に難癖付けたって知れ渡ったら、あんた不敬罪になることもありえるよ」

「うぐ……分かったニャ」


 それは俺にも当てはまることだ。


 俺の中でリンクス公爵は、疑うべき人物の第一人者に認定されている。

 だからといって、むやみやたらと公爵の情報を嗅ぎ回るのは愚策かもしれない。

 こうして商人ギルドで話をしている間も、誰が聞き耳を立てているのか分からないのだ。


(コテツ、これ以上は無理に調べるのは止めよう)


 流石に思念での会話は盗み聞きできないだろう。

 そう考え、ことリンクス公爵に関しては、できるだけ『思念波』で話をすることにした。

 コテツもそれを察してくれたのか、俺の方を見て小さく頷いてくれている。


「ありがとう、ネルさん。聞きたいことは聞けたから、俺達は宿に戻るよ」

「そうかい? あんた達、余計なことに首を突っ込むんじゃないよ。貴族は領主様みたいな人ばっかりじゃないんだ。本当に不敬罪になったら大変なんだからね」

「分かってるニャ。特にリンクス公爵は怖いからニャ」


 おい、お前本当に分かってるのか?


 と、思わず口から出そうになったが、ちゃんと思念で釘を刺しておいた。

 マジで頼むぞコテツ……。


 ともあれ、俺達は商人ギルドを出て、いつもの宿に向かうことにした。

 何だかんだ言っても、コテツの疲労は目に見えて限界が近付いている。

 本人は大丈夫だと言うものの、足取りは重く、ぎこちない。


「本当に大丈夫なんだけどニャ……」

「お前なぁ、さっきから目がやばいぞ。立ったまま寝そうな顔してるし」

「えー……そうかニャ? でも、言われてみれば眠くて仕方が無いニャ……」


 言わんこっちゃない。

 コテツは宿に着くなり力尽きた。今ではベッドで安らかな眠りについている。

 この様子だと、暫くどころか今日は起きないかもしれないな。


 その間、俺はどうしようか……。


〈手に入れた(コア)を使って、補助核(サポートデバイス)の作成を提案します〉


 はい、忘れてました。

 そもそも、俺が森を出た理由の一つが魔窟の情報を手に入れることだったのだ。

 それを何故か、本命である(コア)そのものを入手するに至ったわけで……。


〈マスター?〉

(ああ、うん、分かってる。補助核(サポートデバイス)ね)


 細かいことはどうでも良いな。

 ちょうどと言うのも変な話だが、補助核(サポートデバイス)を作る時間はいくらでもある。

 コテツが寝ている間にダンジョンに帰って、ささっと用事を済ませようか。


 なんて、気楽に考えていたのだが……。


〈残念ですが、マスターが予想しているよりも所要時間は必要となります〉

(そんなに時間が掛かるのか? 前みたいに支援者(システム)がパパッと『創造』してくれるんだろ?)

〈否定。今回の補助核(サポートデバイス)はマスターに『創造』してもらいます〉


 ……え?



次から更新を二日に一度に戻す予定です。

次回更新は29日(月)を予定しております。

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