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第9話 少しずつ変わる日々

 

 水場を『創造』した後、俺は支援者(システム)に質問することにした。

 今後の方針を決める前に確認しておくことがあったのだ。


(質問したいんだけど、ダンジョンの入口って一つしか作れないのか?)

〈現在の同期率では一つが限度です〉

(そうか……。チュートリアルの時に自動で接続って言ってたから、別の場所にも入口が作れたらいいなって思ったんだけど、流石に無理か)


 まあ、そこまで話が上手くいくわけがないよな。


〈現在の入口を別の場所に再接続することは可能です〉


 いくんかい! どんだけチートなんだよ!


(……再接続って、どうすればできるんだ? 制約とかあれば、それも知っておきたいんだけど)

〈ダンジョンの入口となる場所の座標が必要です。座標の特定方法は、化身(アバター)の現在地を観測することで特定可能です。制約については、空間を定着させるために、何らかの物体を媒介に入口を接続する必要があります。DPの使用はありません〉

(うーん、化身(アバター)の近くだったらいいんだな?)

〈肯定〉

(しかし、簡単に接続って言うけど、どういう原理だ?)

〈ダンジョンは異次元に存在しているため、外の世界とは理を異にします。入口は境界でしかないので、物理法則は意味を成しません〉


 ……異次元だったら何でもありみたいだな。

 理屈はともかく、便利なら遠慮せず利用しよう。

 俺がビーコンになれば良いだけだし、早速明日試してみるか。


 俺は水浴びをしながら日の出を待つことにした。

 風呂じゃなくても気持ちが良い、ただちょっと狭かったみたいだ。

 さっきコノアが三体に増えたおかげで、もみくちゃにされている。

 プニプニして気持ち良い。


 ……


 水場で遊んでいると、もう朝だ。

 楽しい時間って過ぎるのが早いね。気持ちを切り換えて、仕事しますか!


 外に出た俺達は、次の入口に相応しい場所を求めて移動を開始する。

 と言っても、元々入口が存在していた絶壁の左右どちらか、ぐらいしか選択肢はないのだけど。

 この辺りの地理なんて全然分からないし、直感でいいだろう。右だ。


 絶壁に沿って移動を始める。

 気が付いたら、かなりの距離を進んでいた。

 振り向くとダンジョンの入口が辛うじて見えるほどだ。

 ちょっと離れすぎたか? とも思ったけど、問題は無いだろう。今から、ここが入口になるんだから。


(ここに入口を繋げたいんだけど、大丈夫か?)

〈問題ありません。『生成』で再接続可能です〉


 じゃあ、やってみるか。目の前に入口を繋げるイメージで……。


 念じると目の前の壁が透け始め、代わりにダンジョンの内部が見え始めた。


 成功したようだ。

 中は当然、見知ったダンジョンだ。朝、出発したままの光景がそこにある。


「マスターは入口を移動することができるんですね!」

「デスネ!」

(説明してなかったけど、見てもらう方が早いと思ってな。それじゃあ、今日も作業頼むな!)

「はい!」

「ハイ!」


 元気よく返事をすると、ノア達は作業に移った。

 それを見届けた俺は、確認のために元々入口のあった場所まで戻ってみたが、やはり入口は初めから何も無かったように、きれいな壁があるだけだった。


 異次元か……。


 うん、考えてても仕方ないな。

 分からない事実よりも、これからのことの方が大事だ。

 折角、次の場所に移ったんだし、何か目新しいものがあるかもしれない。

 戻って探索するか。


 ……


 移動先で、俺に新しい仕事ができた。


(ストーンバレット!)


 俺の口から放たれた石の弾丸が、目の前を疾走するホーンラビットの体を抉る。

 体の大半を失ったホーンラビットは、程なくして息絶えた。


 うーん、もっと正確に狙えればいいんだけどな……。


 俺の新しい仕事は、草原から逃げ出した生物を狩ること。

 ノア達が平原の草を一掃しながら爆走する姿は、この辺りに住む生物にとっては脅威らしく、安全な場所を求めて次々と逃げていくのだ。

 中には今仕留めたホーンラビットのように、誤ってこっちに向かってくる奴もいる。

 俺はそんな奴らを狩っていく。


 確かに住処を追っているのは俺達なんだが、これは弱肉強食。

 自然界絶対の掟なのだ。俺は躊躇しない。

 俺は目の前で威嚇しているグラススネークに向かって――


(ストーンバレット!)


 流石に蛇に直撃は難しい。

 しかし、俺は連射可能。相手が死ぬまで撃ち続ける。


(コノア! これを『収納』してくれ!)

「シューノー!」


 近くにいたコノア達は俺の命令に従い、木っ端微塵になったグラススネークを『収納』する。

 地面に飛散した体液までも、きれいに『収納』くれたようだ。グラススネークのいた痕跡は残っていない。


(ありがとな!)

「ワーイ!」


 俺が礼を言うと、コノア達は嬉しそうに返事をして元の作業に戻っていった。

 コノアは精神が幼児のようだが、頼りになる。真面目に作業に取り組む姿勢は、精神の幼さを補って余りあるほどだ。

 それに対して俺は、どうにもスプラッタ耐性が無いようだ。

 仕留めた獲物を『収納』するのに抵抗が強い。


 俺のストーンバレットによって絶命した獲物は漏れなくグロい。

 部位欠損どころではない。

 俺は『収納』するためには食わなければならないのだが、はっきり言って無理だ。無理です。ごめんなさい。


 まあ、仕事は適材適所、できることを最大限やれば良いのだ。


 俺は自分に言い訳をしながら、次の獲物を探していた……。


 ……


 …………


 ダンジョンの移動を始めてから七日が経った。

 七日も経てば作業効率も大きく上昇し、移動も既に六回目となっていた。今では一日一回引っ越しできるほどだ。


 そして、コノアも十体まで増えた。

 十体ともなると『意思統一』の効果が顕著になる。

 ダンジョン内では、皆思い思いの行動をとるのだろう、小さい子供のように賑やかなのだが、外に出ると一変する。

 纏まった動きは勿論のこと、喋る個体は必ず一体と決まっているのだ。しかも、感情や考えも全く同じらしく、仲違いする様子も一切無い。


「コノアはボクの分裂体です! 『意思統一』を使いこなせるのは当然です!」


 ――と、ノアも自信満々で言い切ったが、全くそのとおりだった。


 ちなみに、ダンジョンも少し変化させてみた。


 入口を入ってすぐの部屋――今では大広間と呼んでいる――の形を変えた。

 前は四角い部屋だったのを、広さはそのままにドーム状に変えたのだ。

 ついでに入口もアーチ状に変えておいた。

 自分で言うのもなんだが、いい出来だ。

 特に性能が変わるわけでもないが、俺の趣味の問題だ。気が向いたら、また模様替えするかもしれない。


 重要な変化としては、(コア)ルームへの通路を狭くしておいた。

 心臓部へ続く道をわざわざ通りやすくする必要など無いのだ。

 一応、俺が辛うじて通れる程度にはしてある。俺自身、どんな用事があるのか分からないから。


 そして、ノア達に喜ばれたのが水場の拡張だ。

 コノアが増えてくると、流石に全員が入れなくなってきたので、倍の大きさにしておいた。

 それでも十体同時に入るのはきついのだが、皆大喜びしてくれた。

 コノアで一杯になった水場に飛び込むのが、最近の俺の楽しみとなっている。

 全身がプニプニの感触に包まれるのは、メチャクチャ気持ちいい。ビーズクッションなんて目じゃないね。


 変化があったのはダンジョンだけではない、ダンジョンの外にも変化があった。

 移動を繰り返す度に、正面に見えていた森が近付いている。絶壁に向かっているように広がっているのだ。

 今では少し走れば森に入っていけるだろう。怖いので入らないが……。


 生態系にも違いがあるのか、現れる生物も多種多様となっている。

 今日までに、新たに狩った獲物と獲得したスキルを一覧にすると――



スケイルラット:背中に鱗があるネズミ、『鱗硬化』『消音』

ランドモア:ダチョウのように地面を走る鳥、『持久力強化』

ホールスネーク:穴を掘って身を隠す蛇、『気配察知』『潜伏』

パラライズワーム:触ると痺れるでかい芋虫、『麻痺液』

ウイングトード:蝙蝠みたいな羽の生えた蛙、『麻痺耐性』



 ――といった具合だ。

 今のところ大型の肉食獣の類とは遭遇していない。

 もしかすると、たまにダンジョンに入ってくるソイルリザードが、この辺りの生態系の頂点かもしれないな。


 折角、手に入れたスキルということで、ノアに『付与』してみた。

 『付与』したのは、『麻痺液』と『気配察知』だ。

 どうやら、これ以上は『付与』できないらしい。

 前回『付与』したスキルを入れ替える場合もDPを消費するようなので、入れ替えはしていない。

 

 コノアには悪いが『付与』していない。十体もいるコノアに、優劣をつけるわけにはいかないからだ。

 俺だって同期率の不足で『付与』できていないのだ。我慢してもらおう。


 勿論、DPの方もかなり貯まってきた。

 多少消費したものの、それでも今日現在で25000を超えた。

 同期も徐々に進行しており、16%になっている。

 この調子でいけば近いうちに20%に達しそうだ。

 今のところ、同期の進行による変化は起きていない。

 当面の目標は20%だ。そこまでいけば、何か変化が起きるだろう。


 ……


(さて、今日もこのぐらいにして明日も頑張るか)


 日が沈むのを確認して、俺達は我が家であるダンジョンに帰っていく。



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