ロートル作家は決戦前夜を迎える
梅雨を抜けると、そこは真夏でした……。
ロートル作家は決戦前夜を迎える
~ハジメ視点になります~
ハジメは悩んでいた。
かつてヨシノと共にこの遊びを考え、実に楽しかった。
だがいま、この戦いでするのは自分の娘との決闘。
我侭に育てたとはいえ、あいつと俺の娘。
決してダメなわけではない。
本音を言えば、そのままマーガレットの選んだ松と、別に結婚してもかまわないとは思っている。
それがマーガレットの、自分たちの娘の幸せだというのであれば。
ヨシノと約束をしていたから……。あいつを、マーガレットを幸せにすると。
だからコレは父親として俺のできる精一杯だ。ヒトシと組むのは正直に気が進まない。
あいつがヨシノとの件で、身を引いたのはなんとなくなわかっていた。
何があったかは知らないが、突然ある日を境に、ヨシノに対して、一切のアプローチが止んだ。
見舞いにもなかなか来なくなったし、いつもの戦いの場所にも、だんだんと姿を現さなくなった。
声をかけてもしかめっ面でこちらに嫌悪感を向けるだけ。
だんだんと俺たちは大人になっていき、他の奴らともなかなか会えなくなっていくんじゃないかと、
すこし怖くなっていたときもあった。
そうこうしているうちに、俺とヨシノの結婚式となり、あいつを呼んだけど、あいつは来なかった。
ただ、家の前に誰からのか分からない、ヨシノ宛の花束が届いただけだ。
おそらくあいつだろうな……と思っていたのだが、今までのあいつらしくもなく、
胸の中がモヤモヤする感じがした。約束を破って告白をしたのは、確かに悪いとは思うが、
ソレを差し引いても、俺の中でのヒトシの株は大暴落していたのは確かだった。
やがて親父が倒れて、俺はハナの町長になった。
頃合同じくして、ヒトシはウエキの町長になった。
どうしてもやらなければいけないから、仕方なくだったが、会議で会うたびに、
なぜかあいつの態度が気に入らなくて、つい噛み付いていた。
噛み付く俺を子供で見るような目でヒトシは見て、何も言わずに会議を進めていく。
ソレも気に入らなかった。ヨシノが生きている間、会議のことをヨシノにすると、
いつも窘められていたっけかな。
そうだ! ヨシノが死んだときもあいつはこなかった……。
あれ程好きだ何だの言っていた相手が、危篤状態になって苦しんでいるのに、
俺の使者をあいつは、ただ帰してきた。
あの時はあまりに頭にきて、庭の木をへこむくらい殴った。
そして、もうあいつとはライバルですらないと思った。
相違やあの頃、あいつはウエキの町の一大イベントと称して、
街道や、ハナサカや、自分の町に勇者が好きだったという『サクラ』の木を植えていたらしいな。相違やヨシノもサクラ好きだったっけかな?
まぁいいや……バカ親父だとは自分でも思うが、俺にはこういったやり方しかやっぱできねえんだよ。
頭の良いふりなんて、物分りのよさそうな父親なんて無理だわ。
明日はまっすぐ中央を全力で突っ走る。そして二人のくびねっこひっ捕まえて、謝らせて、最後には…。
しかし、俺も腹も出て、走ったら息ぎれして、確かに昔の姿の見る影もないよな。
あぁ、おやすみ、ヨシノ。明日は俺じゃなくてマーガレットの方へ味方についてやってくれな。
じゃあな…。
いつもご覧になって頂き、誠にありがとうございます。
『ロートル作家とおとぎの異世界』91話になります。
今回で戦いに入ろうと思ったのですが、どうしてもハジメが、
物申したいというので、仕方なく、足してみました。
不器用な親父の独り言ですが、どうかよろしくお願いします。
ではまた次回で……。
米




