ロートル作家は情報収集をまだまだまだ続ける
人と人の価値観は必ずしも、同じとは限らないのです。
むしろたいていの場合は、相違しているもので、なんなら乖離していたりもします。
その仲でどうやって擦り合わせていくのかが、問題になるのですよね…。
ロートル作家は情報収集をまだまだまだ続ける
ウエキの町について聞いてみることにする。
「ハナの町が文字通り、花を愛し花を名産とするのであれば、
ウエキの町は植木を愛し、植木を名産とする町だね」
「あぁ…名は体をあらわすというやつですか…」
「ほう、ナガラは時々難しい言葉を使うね。まぁそういうことだね」
「それでここにも注意するべき点があるんですね?」
一郎は爽やかな笑顔の中、一瞬目が細くなったものの、
直ぐに元の優しい目に戻ると、俺のことを褒めてくる。
一郎はずっと前から気づいていたんだが、
どうにも何かを探ろうとする、癖の様なものが強い気がする。
かなりそういった気配を殺す訓練でもしているのか、分かりづらくはあるのだが、
今の強化済みの俺の目はごまかせないのだよ…。
まぁ、商人だし、ポーカーフェイスは基本なのかもしれないが…。
ちょっとただの商人にしては、色々うまいんだよな…。
今のところ俺の何か、要するに俺の存在が何か?っていうことが、
分かっているわけでもなさそうなので、気にしないことにはしている。
ただ、あまりややこしいことしてくるなら、ばれないように、
俺の空想術を、俺の周りにかけないといけなくなるよな…。
「そう、その通りだよナガラ。ウエキの町で花の話をするべからず、
ウエキの町で植木を貶すべからずという言葉があるんだよ」
「あぁ、ハナの町と全く同じ内容なんですね?」
何だか先の展開が読めてきたぞ…。
これもしかしたら因縁めいたものがあるのか…。
「もしかするとですけど…」
「何だい?ナガラ」
「ものすごく仲悪かったりします?その二つの町」
「ははは、正解だよ、ナガラ。君は本当に回転が速いね」
そこまで言われる内容でも、ないと思うのだがな…。
明らかにそこが終着点だろこの話は。
「ちなみに、争っている理由はあるんですか?」
「んー、そこは価値観の違いなんだろうね」
「価値観…それだけ?!」
「いやいや、これはそうそう馬鹿には出来ないことなんだよ?
価値観が違うだけで、人は争えるし、殺しあえるんだよ?
そう考えたら、この二つの町は、どちらかというと、
ずいぶん平和的な方じゃないかな?」
誰かの譲れないものの為に、無関係な人の自由な意思や、
場合によっては命までかけろと、言われるのは少々納得がいかないな…。
馬鹿げているし、本当に無駄なことだと思うからな。
「ははは、その顔は納得が、いかないという顔だね?
ナガラはこれからも、沢山の町や村、人々を見ることになるだろうからね、
その時にはきっと分かると思うよ。世界は優しいばかりじゃないものさ」
「人を信じていけるならそれはそれでいいこと…」
七郎様よりありがたい言葉がきました。二人ともあれだな、
やはり、良い意味でも悪い意味でも、擦れていっているんだろうな。
きっと、ソレはおかしなことじゃなくて、
この世界ではごく普通のことなんだろうな。
「俺はそうでありたいなぁ…と思います…」
「是非そうであり続けてくれると、僕らとしても嬉しいかな」
少しだけ寂しそうな顔をしているのは、その差についてなんだろうかね…。
俺と一郎と七郎、多分同じであって同じじゃないんだろうな…。
「さてさて、ちょっと湿っぽくなってしまったね。
とりあえずウエキの名物は植木そのものと、
デンゴやマンゼウといった菓子とかだね。
あの甘すぎずしつこくない、アンコウの味は食べれば、
きっとナガラも病み付きになると思うよ。
それと、この菓子は実は、ハナのミドリチャと良くあうんだ」
緑茶に饅頭に団子か…それに餅もあるんだな。勇者様本当に凄いな。
何屋だったんだろうな…。そもそも何歳だったんだ?
ああ…でもここでの外見は当てにならないか…。
和菓子にお茶だろ?餅にお茶だろ?そりゃ合わないわけが無いんだよな…。
「本当に、お互いの名物が相手の名物を、
それぞれ際立たせることが出来るというのにね。もったいない話だよ…」
「それで…、町ぐるみで、いがみ合ってると考えて良いんですかね?」
それなら、それで、さっさとスルーという手も…あぁだめか…。
ソレはダメですといわんばかりに、強制的にステータス画面が開き、
女神様からメッセージが到着したことをこちらへ伝えているからな。
「ただね…最近はそうでもない者も出来ているらしいよ。
若い連中なんかは、そもそも花とか植木に興味が無いものも増えてきていて、
どうでもいいという派も生まれているらしい。
ちなみに、植木は年配の方に都では大人気だよ。
貴族の年配の方たちも趣味として嗜んでいるからね。」
いずれにしろ、この二つで俺は誰を助けることになるんだろうな…。
あとでメッセージ見ておくか…。まぁ仕方ないよな。
「ウエキの町はこんなところかな…さて、お待ちかねハナサカの都だね」
一郎はニコッと爽やかに微笑んだ後、そういって、新しいお茶も入れてくれた。
いつもご覧になって頂き、誠にありがとうございます。
『ロートル作家とおとぎの異世界』47話です。
あと少しというところでしょうか…。
どうか、よろしくお願いします。
ではまた次回で…。
米




