ロートル作家は情報収集をする
情報を制するものは世界を制す…なんて言葉がありましたね。
最後の夜、折角なので色々聞いてみましょう。
ロートル作家は情報収集をする
焚き木を囲むように俺たちは座っている。
夜も更けたといってもまだ多分、夜の7時にもなっていないと思う。
「さて、約束していた質問タイムだね」
一郎は、お湯を沸かしながら、少し軽い感じにして、
俺に聞いてくる。一郎は気の利く良い兄さんという感じで、
七郎もとにかくまず側にくっついて離れない。
一郎の言うことはしっかり聞いているようだし、立場的にも人間的にも、
きっと信頼しているのだろうなぁ。
「一郎さんよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ、まぁまずはお茶でもね」
沸かしてたお湯が沸いたので、茶漉しのようなものを使って、
人数分のお茶を入れてくれる。
あ、これ緑茶だな。個人的には珈琲の方がしっくり来るんだが、
お茶はお茶で良いものだ。
一郎がお茶を入れている隙に、こっそりステータスのメモ画面を、
開いておくことにした。
もちろん、内容をイマジネーションモードで記録しておくためだ。
横目で見たら時刻はやっぱり夜の7時ちょっと過ぎだった。
「そうですね…まずは折角ですから、お二人のことと、
エツゴヤ商会についてでは、いかがでしょうか?」
「ほう、ナガラは僕らのことがまず最初に知りたいんだね?いいだろう」
何かこう、陰謀めいたものを聞くよりはまずは、旅を一緒にしてくれた、
二人のことを俺は聞きたかった。
色々な事はその後でと、思っていた。
「是非!」
「ははは、いい返事だね。短い間だけど、仲良くしてもらったしね。
教えて問題のないことなら何でも、教えてあげるよ。
まず僕は、一郎だ。色々呼び名は持っているほうだが、
少なくともこれが一番であり、こう呼ばれるのを好むかな。
それでこの子は七郎ね。七郎はとっつき難いところもあるけど、
基本いい子だよ」
『いい子だよ』のところで、照れたのか、よりフードが目深になった。
何だろうな…本当にシャイボーイだな。
「僕らはエツゴヤという行商スタイルを常とした、商会の人間だ。
エツゴヤの名前は勇者様がつけたらしいね」
勇者様はあちこちで大活躍してるな…。
エツゴヤって絶対、あの商人から取ってきているよな。
勇者は米のこともあるが完璧に日本人だよな。
「エツゴヤは親方様を初めとする商会で、全国を旅しているんだ。
責任者には、それぞれ親方から名前がつけられている。
それが僕の名前にもなっている一郎とか○○郎という、名前だね。
全部でいまは一郎~七郎までいるね。まぁこの辺は誰でも知っているし、
逆に知っていてほしいことだから、話しても大丈夫かな」
「え?…ということは七郎も責任者なんですか?」
「んー、七郎に関しては一応見習いだね。今は責任者見習いでも、
やがてはどこかの部署と行商、それに部下を持つことになるね。
ちなみに、うちの部下たちは丁稚といわれているよ」
「丁稚ですか、丁稚さんの給料はどうなっているんですか?」
「ん?内の職場に興味あるのかな?
ナガラなら十分やっていけそうな気がするけどね、
ははは、なんだったら七郎の丁稚になるかい?」
「ははは、旅が終わったあとなら考えられますけどね」
「そうか、七郎丁稚候補が出来てよかったな。
来て貰えるなら給金は弾まないとな?」
「いや…別に…いや…まぁ考えておく…」
七郎は多分要らないといいたかったのだろうけど、
本人を目の前にして、まさか要らないとは言えなかったのだろうな。
何だかんだ、気を使ってもらえるレベルではあるってことだな。
そういえば、丁稚制度は俺の知っているものとだいぶ違うようだ。
アレは衣食住が保障され、気の良い主人ならお小遣いなどはもらえるが、
給金は一般的には貰えてなかったはずだ。
まぁその代わり技術なども仕込まれるし学べるので、出来がよければ、
店での地位もあがっていくパターンもあるそうだが。
こちらでは社員とか店員とか従業員みたいな扱いなんだな。
「ははは、七郎さんその時は、よろしくお願いします」
「あ…いや…わかった…」
今日はだいぶ喋ってくれているな…。しかし本当七郎さんって、
所謂美少年系の声だよな。
どことなく、どこかで聞いたことのある声なんだけどな…。
どこだったっけかな…元の世界でだったりしてな…。
そうなると声優とか歌手とかそういった仕事の人の声なんだろうけどな、
「そうそう、エツゴヤの話をもう少ししておかないとね。
一応本部兼本店といって、ハナサカの都には店もあるよ」
「じゃあ、その場で僕の持っているテントみたいなもの、
付与具も買えるって言うことですか?」
「もちろん買えるよ。ただし結構値段のするものだけどね。
他にも沢山、色々な物が売っているので、是非店には寄って欲しいかな。
まぁこれは折角だし、宣伝だね」
一郎はそういうと片目を瞑ってウィンクしてから、にこっと爽やかに笑う。
この人、絶対あっちこっちに女性のファンがいるだろうな。
同性から見ても爽やかで嫌味もないので、別に嫌ではない。
歯がキラッと光っている感じの、絵に描いた好青年というは、
これはまたこれで…稀有な存在だよな。
「後、僕は二十歳、七郎は…いまいくつだっけ?」
「十五…」
七郎…まさかの同じ年だったのか…。
身長が正直130センチくらいで小柄なものだから、
下手したら自分より下もあるかなと思っていたよ。
変に年の話しを、振らないでいて正解だったな…。
くわばらくわばら…地雷だろ絶対、身長とか…。
「まぁ…僕らの話は、こんなものかな…?次は何が聞きたいんだい?」
一郎は二十歳か…そりゃしっかりもして来るよな。
これ以上踏み込むのなんだが、恐らく一郎は、
親方様の次ってことなんだろうな…。
一郎との絆は今後役に立ちそうだぞ…。後数時間だろうけど、
ここはしっかり繋いでおかないとな。あとは七郎だな。
七郎も将来有望なわけだから、むしろこちらの方とも、
太い絆は作っておかないとな。
商人と知り合いというのは物資でも有利になれるだろうけど、
それより何より情報だよ。
本当にそれは、どの時代どこの場所でも、物事を有利にする貴重な宝だからな。
あぁ、そうそう、カタルとリーフは少し離れてくれていて、
話を聞かないよういにしてくれているようだ。出来る旅人は違うね。
まだまだ、夜も長いしな…。
さて…次は何の話を聞くとするかな…。
いつもご覧になって頂き、ありがとうございます。
『ロートル作家とおとぎの異世界』43話です。
何とか…今夜も更新できました。
では、また次回で…。
米




