ロートル作家は野営をする
テントではそういえばまだ寝たことがありません。
バンガローでは泊まった事があるのですけどね…。
あの日に見た星は本当に綺麗でした…。
ロートル作家は野営をする
今回の道中は大凡三日ほどだろうという話だった。
俺はこの後、とりあえず一旦、ハナの町についてからは一郎たちと別れ、
また別のルートでウエキの町、ハナサカを目指すことにするつもりだ。
正直を言えば、ハナサカの都の位置はもう、オージの地図でわかっているので、
全力で走れば、通常の半分くらいの距離でいけそうな気もするんだよな。
ただ、オージからの折角の好意もでもあるし、
他の地域を知っている者と話すのは、良い経験地になるだろうと、
思っているので一郎たちについていっている。
なにせ、食べ物や風習といったものは気をつけないと大変なことになる。
指を立てた、それだけでも命を狙われかねない!
なんて事だってあるかも知れないのだからな。
そう考えてからは一浪とも積極的に話すようにした。
オージのおかげや第一印象の良さもあり、歩きながらではあるが、
付き合いが良い、一郎とはそこそこの話は出来るようになった。
仕草やマナーはあまり俺の世界と大きく変わらないようだ。
まずは一安心だな。
是非ここはもう一人の七郎とも…思ったのだが、
七郎に対してはなかなか上手くいかない。
どうも、あまり積極的なのは苦手なタイプのようだ。
時折汗をかいているようにも見えるので、
『大丈夫ですか?』と聞いてみるのだが、
大丈夫だというだけで、被っているフードも外すことはない。
何か秘密でもあるのかねぇ…正直、なんとなくではあるのだが、
気にはなっているんだよな。
いっそアレで見てしまうのもいいのだろうか?とも思うのだが、
今のところは止めておいている。ちょっと気が引けるところもあるからな。
※
この街道は結構長く、街道の目的である、ハナサカの都までは結構ある。
そうなってくると、旅の人間もいることから、
簡易的な施設なども用意されている。
行商人達も利用しているようだが、所々に簡易的に宿泊できるように、
なっている場所があるそうだ。
その場所は、所謂野営地のようなもので、ハジメ村の辺りまで来ると、
利用者はいないに等しいが、それ以外の場所では結構、利用者も多いらしい。
まぁ、オージの地図から見てもかなりの端だからな…。
他に、野営地では情報もそうだが、品物などのやり取りなども、
良くあると一応は言っていた。
「よし、今日はここで朝まで休むことにしようか…カタルさんすまない、
お願いできるかな?」
「はいよ、一郎さん了解だ!」
一郎が最初の野営地に着くと、護衛の旅人の男の方にテントの設置などを
頼むようにする。
「あ、一郎さん、ここで今夜は野営を?」
「えぇ、そうですねここ辺りが丁度いいでしょう。
ところでナガラくんはテントは持っているのかい?」
「いえ…もっていないですね…」
「そうか、あのオージさんなら、きっと、荷物の中に入れていると思うけどな…。
かばんの中身を見てもいいかい?」
「どうぞどうぞ」
俺は快く、オージの用意してくれた背負い袋を渡す。
「どれどれ…あぁ、あったあった!これはいい物をもらったものだね!
ほら、コレ見てごらん」
そういって俺の目の前に見せたのは、小さな三角形の形をした、
厚手の布でできた置物だった。
「え?!コレがテントなんですか?」
「あぁ、コレは本当にいいものなんだよ。
普通テントと言えば、あそこでカタルさんが用意してくれているものが、
一般的なものなんだよ。これは、付与具と呼ばれるものでね、
こうやって地面に置いて…『開!』と唱えると…」
三角形の置物は一郎が一言『開』と唱えると見る見る間に、
二人分くらいは入れそうな、テントに変わった。
「確かにコレはスゴイ…」
「そうだろう…いや本当いいものをもらったねぇ…
意外とするんだよこれは」
「いやぁ…本当驚きました」
気になったので、テントをじっと見て、説明文を見てみる。
『付与具:テント/開と閉の単語が空想術により付与されている。
開はテントを開き、閉はテントを元の状態に戻します。また、
暑さ、寒さにも強く、真夏でも真冬でも快適に過ごせるようになっています。
販売元エツゴヤ商会』
「ははは、かなり驚いているようだね!
まぁ無理もない、はじめて見たのだろう?」
俺が黙ってしまったのを驚いて固まっていると勘違いしたのか、
ほぐしてくれるためなのか、この商品が自分のところの商品だからなのか、
少し楽しげに話してくれているようだ。
エツゴヤ商会か…この世界でのマジックアイテムも扱っているのか…。
そのうち一回お邪魔したいものだなぁ…。
「えぇ、いや!本当ビックリしましたよ!
これはどこで売っているものなんですか?いくらくらいなんですか?」
「おぉ!こんなに食いついてくれて、正直嬉しいよ!
これはね…、我が商会の販売している商品の一つなんだよ。
値段はこのサイズのものであれば金線なら10枚はいかないと思うんだけどなぁ…」
「そうですか…それはオージさんに本当に今迄以上に、
感謝しないといけませんね」
「あぁ、本当に感謝した方がいいよ。じゃあこれで君のテントはもう大丈夫だね」
「はい、ありがとうございます」
「こちらもテント用意できましたよ一郎さん」
一郎たちのテントの用意の出来た、カタルさんが呼びにきた。
もう一人の女性はリーフと言うらしい。
二人はテントが出来上がると、交代で夜番をするらしい。
俺にも安心して寝ていいと言っていたから、ありがとうとだけ返しておいた。
そのうちこの二人にも色々聞かないとな…。
そのあと夕飯の時に聞いたのだが、一般的な一ヶ月の賃金は良いところでも、
せいぜい、金線2枚にも満たないらしい。
場所によってはもっと低いところもあるそうだ。
食糧事情はこの国は良い方なので、食事など日常に欠かせないものは、
物価が安く済んでいるという話だ。
ただ実際は、農家などは農作物による部分などもあり、
この例が当てはまるかというと、何とも言えないそうだ。
次のハナの町の話を聞こうとしていたのだが、
慣れない旅のせいもあったのか、睡魔がやってきている。
「おや…慣れない旅で疲れが出ているのだろう…。
君は先に休んでおいた方がいいよナガラくん」
「あ、はい…一郎さん…。あ、俺のことは普通にナガラと呼んでくれれば…」
「ははは、わかったよナガラ。じゃあゆっくり寝てくれ。あのテントは、
寝袋がなくても寝心地がいいんだよ。じゃあね」
「おやすみなさい一郎さん」
「おやすみ」
急に襲ってきた睡魔に負け、俺は自分のテントに入る。
ただこのままでは無用心だろう…。
眠い目をこすりながら、出入り口となっている、
開閉部分に用心のための、空想術をかけることにする。
とはいっても、『鍵』に相当する単語はまだ覚えていないため、
俺の空想術で、ここは対応をする。
『鍵のないただの厚手の布で出来た、出入り口』のテキストを
『ナガラ意外が入ろうとすると、大きな音が鳴り跳ね返される、
ただの厚手の布で出来た、出入り口。効果は使用後6時間』と、
編集してから眠ることにした。
「ふあぁぁぁ…寝るか…」
大きなあくびが出てよりいっそう眠くなる。
イルクとエルルも、もうそろそろ、寝る頃だろうか…。
ユーリは元気になってくれているだろうか…。
ライズうまかったな…どこでも食べられるとか言っていたけど、
きっとあそこの飯は格別だろうな…。
あぁ…寝よう…うん…今日は疲れた。
その日ちょっと変わった夢を見た。
そう遠くないどこかで、顔の見えないケモノミミ族の女の子が、
優しい顔で、聞き心地の良い歌を歌っている。
俺はそれをすぐ側で聞きながら星を眺めている…。
そんな夢だった…。
いつもごらんになって頂き、誠にありがとうございます。
『ロートル作家とおとぎの異世界』38話になりました。
ようやく外に出れました。この後どうなっていくのでしょう…。
では、また次回で…。
米




