ロートル作家は深夜遅くにちょっとした演出をする 3
ロートル作家は深夜遅くにちょっとした演出をする 3
マーガレットと松は最後まで我慢していたらしい。まさかハジメがいの一番に飛び出し、泣きながら笑うという状況になるとはね。それのせいで二人は出遅れたようだ。
「お母さん……なの?」
「そうだよ。マーガレット……ごめんね」
「ううううん……いいのいいのよお母さん」
「大きくなったねぇ……」
「うん……」
「隣の子は彼氏……いや……婚約者さんかな?」
「うん……松さん」
「ヒトシとユキさんのお子さんだって?」
「うん……」
「不思議なものね……縁ってやつなのかしらね……ちゃんと幸せになるのよ?」
「うん……」
「よろしくね松君」
「は! はい!!」
松とマーガレットの二人は胸に強い決意を持ったようだ。この二人なら特に心配もなく、いい家族になれるんじゃないかな。
なんだかんだ満足そうな顔を浮かべる面々を見てほっとする。あちらの世界での俺の家族はお世辞にもよいものではなかったので、こういうものを見るとほっとするのだろうな。
時間がたてば消えてしまう体をもっているのならば、俺がこれ以上言うこともないし、変にせかす必要もないだろ。別に恩を押し売りする気もない。
俺は誰に気づかれるでもなく、可能な限り気配を消して、部屋の外へ……屋敷の外へ出ていく。
『ステータスオープン』
あれほどあった困った顔がマップから消えている。ここにいるのも今日までだな。
明日の朝早くにはもう出よう。彼らなら問題ないだろうしな。
絆も随分築かれたようだし。
これにて幕引きというやつだ。
幸せなんてふわっと体を通り抜けていくものじゃないかな。かみしめたり浸るのは構わないけど、
機っと慌てなくても心の中にはいつまでも残っているだろうからな。
さて……ここでのお仕事もこのあたりでおしまいだろ。
次はハナサカか……。
軽く後ろ振り返り、今もまだ屋敷の一室から溢れる暖かい光を見る。
「ははは、俺にはちょっと背中がかゆくなりそうな光だなぁ……」
俺は少し昔を思い出した後、屋敷から離れながら、後ろ向きに手をひらひらとふって、
ひと眠りして荷物をまとめるために森の方へと向かっていった。
いつもご覧になって頂き、誠にありがとうございます。
『ロートル作家とおとぎの異世界』107話になります。
なかなか書けなくて本当に申し訳ありません。
これからもマイペースではありますが、続けていきますので、
どうかよろしくお願いします。
では次回で……。
米




